第八十二話 大獣国へのご招待
「まあ、俺が大獣国に戻る時のついでだがな!」
パールグレイ色の耳折れツンデレ猫は、なぜか上から目線でオレっちたちに言い放った。
「行きたいけど──俺は実家に帰省した後、国内旅行の予定があるから、無理だな」
ボビンが、残念そうに言う。
「ボクも──ウルドラ旅行⋯って言うか、保護施設が交流している竜神殿への訪問があるから、ダメなんだ。異母弟妹と行く初めての旅行だし⋯⋯」
おっ。アレイムたち、今年の交流会メンバーに選ばれたんだ。まあ、今回はさすがに誘拐事件なんて起こらないだろうが。
そういえば、オレっちの花冠の花とアレイムの神キノコ⋯⋯どっちの方が高額なんだろう?売る気はないけど、ちょっと気になるな。
「ふーん。⋯⋯タロスはどうなんだ?」
「オレは、かーちゃ⋯母さんの許可しだいかな?でも、ポラリス・スタージャーには行きたいな!エイベルは?」
「僕も〜、ジイジがいいって〜言ってくれたら〜」
「ヒンガーは?」
「⋯⋯今年の夏は⋯⋯国内の海辺の町に行く予定なんだ⋯⋯」
「海辺の町かぁ。国内旅行もいいよな!」
オレっち、まだこの世界の海を見たことが無いし!
第5レベルクラスを卒業したら、国内からスタートしてウルドラム大陸全域を観て周りたいとは思ってるけど。まだまだ先の話だしな。
「⋯⋯ねぇ。私も行っていいかしら?」
遠慮がちに言ったのは、セーラだった。
へー、意外だな。女の子組は、国外にはあんまり興味無いみたいだったのに。
「構わねーぜ。ウチの家は、広いからな!」
メロスの二股尻尾が、大きくうねった。
「そうなの。それじゃあ、お願いしようかしら。私って、国内旅行さえ行ったことがなくって⋯⋯夏休みもずっと畑仕事ばかりだったし」
セーラのピンクと白とオレンジの三毛柄尻尾が、大きく揺れる。
「農業学科って、夏休みも活動してんの?」
「自主的にね。私は家の手伝いだけど。でも、たまにはそこから離れたいのよ。自分で作った野菜を売ったお金もそこそこあるし。旅費なら余裕で払えるわ」
ガーン!すでに、自分で稼いでるの!?それに比べて、かーちゃんにお願いするしかないオレっちって⋯⋯
「どっちにしても、明日か明後日までには、決めておいてくれ。俺も、家に連絡しなきゃならないからな!」
「分かった!」
「うん〜!」
「分かったわ!」
オレっちたちは、明日、改めて返事をすることにした。
◇◇◇◇◇
「夏休み直前に突然なんだけど、お願いします!」
その日の夕飯前──かーちゃんに、メロスん家──大獣国旅行を頼んだ。
日にちに余裕がないので、今、即決してもらわなければならない。
「いいわよ。心配は心配だけど、行きたいんでしょ?」
「うん!行きたい!」
季節は夏──つーことは、夏の武闘大会、つまり『夏の陣』が開催されるハズだ。異世界プロレス⋯観てみたい!
次の日の朝、エイベルも執事さんから許可をもらったとのことで、二人揃ってメロスに報告した。
セーラは両親ではなく、お祖父さんに了承してもらったらしい。⋯⋯農家は子供でも働き手だから、親には渋られたのかもな。
「じゃあ、二週間後には出発するから、準備しておけよな!」
「お世話になりますー」
「よろしくね〜」
「感謝するわ」
ポラリス・スタージャーへの旅立ち──おっと、その前に、一週間後の夏のパーティーを、クリアしないとな!
◇◇◇◇◇
パチパチ、パチパチ!
ワァァーッ!
歓声が上がる。
結果的に、オレっち&エイベルのリボン新体操はウケた。
しかし、前世の競技のように優雅さで評価されたのではなく、オレっちたちの動きがコミカルで面白かっただけのようだ。歓声のなかに笑い声が混じってたしな。
多分、オレっちが前世の新体操女子を真似た動きをしたから、ビジュアル的におかしかったのかもしれない。体操女子の体型ではあり得ない丸みのあるモフ玉だから。
あと、エイベルも空を飛んで旋回しながらリボンを振り回してたし。アレはアレで、アクロバットな動きだった。
今から思えば、斬新ではあるが優雅さの欠片もない内容だった。観客から見れば、サーカスの曲芸以外の何物でもないだろう。失敗した。
それとは別に、アランが染色したリボン布の評判は良かった。特に奥様が気に入っていたから、あのリボン布は、旦那様の商会で取り扱う商品になるかもしれない。アラン家も、きっと儲かることだろう。
基礎学科テストと夏のパーティーは、無事、消化した。これで憂いなく、旅立てる。
ポラリス・スタージャー!楽しみだな〜!!
◇◇◇◇◇
「タロス。アンタ、大獣国に行くんですって?」
誰だ!ミンフェア先輩に教えたのは!!⋯って、レキュー先生しかおらんがな!
「食べ過ぎないようにしなさいよ。後で泣きを見るのは、アンタなんだからね!」
「⋯⋯ハイ」
今回、二度も釘を差されてるんだけど。信用無いのな。
オレっちとて、あの過激ダイエットの辛さを忘れたわけではない。しかし──ポラリス・スタージャーで食い倒れないという確約もできない。
旅行=美味しいもの、珍しいものを食べまくること!なんだから!!




