表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/182

第八十話 気まぐれ料理じゃなかったのね

 砂糖三杯にミルクたっぷり。これが、オレっちの──いや、普通の小獣人の飲み方だ。


 「市販のクッキーだから不味くはないけど、こんなもん味だから、遠慮なく食ってくれ!」

 「⋯⋯こんなもん味?いや、普通に美味しいよ。久しぶりだからかな⋯⋯?」


 あのメタボチンチラ、マジで足蹴りしてぇ。まあ、ザマァは後のお楽しみってことで。


 ホントはアレイムの方が一つ歳上なんだけど、獣学校では基本、先輩後輩感覚はないし(ミンフェアへの先輩呼びは、心の中だけ)、背丈も⋯少しだけアレイムの方が高いけど、あんまり違わないので、タメ口でも問題はない。


 問題──あ。しまった!


 「ア、アレイム!オレ、急いで連れて来ちゃっから、大事な物とか持ち出せなかったよな!?ゴメン!!」

 服とか教科書とかは、オレっちと共有でいいけど、彼にも大切な物があったはずだ。オレっちなら、エイベルに貰ったスカーフ──は、いつも首に巻いてるからいいとして、そう、例えばゴッドゴーレムシリーズの魔素金属人形みたいなもんが。


 「それは大丈夫だよ。一番大切な物は、いつも持ってるから⋯⋯」

 そう言って、彼はフード付きの上着のポケットから、一枚の小さな紙を出した。転写真だ。

 「母さんの⋯⋯一枚しか残ってない大事な物なんだ。これさえあれば、他は要らないよ」

 

 転写真には、オレンジ毛のキレイなモルモット似の女の人が写っていた。腕に赤ちゃんを抱いている。この同じオレンジ毛の子は、アレイムだろう。


 他の転写真は、多分、父親か後妻に処分されたのかもしれない。

 オレっちの目尻に、熱い涙が溜まる。でも、これは、オレっちが受けた仕打ちじゃない。泣きたいのはアレイムだ。

 オレっちはゴシゴシと目をこすって、後ろを向いた。


 ⋯⋯あのクズ夫婦には社会的制裁が待っているが、それだけでは足りない気がする。闇討ちしてぇ。





 ◇◇◇◇◇


 次の日、オレっちは獣学校に。アレイムは、かーちゃんと獣神殿に行った。

 虐待報告と保護の申請、あと親権変更の手続きをするためだ。


 一緒に登校したエイベルには事情を話したが、我が癒しの友は薄々気づいていたらしく、よかったね〜って感じで納得してくれた。

 しかし、あとの連中は──教室に入るなり、皆に質問攻めにされた。そりゃあそうだろ。モブラン先生と二人、基礎授業が終了しても戻ってこないんだから。


 「そうだったのね。でも、考えてみると、包帯とかいきなりの休学とか⋯⋯確かにおかしかったしね」

 「アタシも包帯は気になってたケド、まさか虐待されてたなんてネ。彼を占うべきだったワ」

 セーラとニジーの言葉に共感したのか、皆がウンウンと頷き合う。


 「それにしても、タロスって案外、洞察力があるんだな。スゴいよ」

 「⋯⋯秋の大祭からの包帯⋯⋯そこからの推理⋯なかなかだね」

 ボビンとヒンガーが、オレっちを褒めた。

 洞察力、推理──どっちでもあらへんがな。ただ、ただ、ステータス画面さんがチートなだけなんです!


 「タロスのことだから、ただの直感みたいなもんで暴走しただけっぽいがな」

 ⋯⋯メロスって、時々鋭いよな。そっちの野生の勘の方がスゴいわ。





 

 ◇◇◇◇◇ 


 「お帰り、かーちゃん、アレイム!」

 「ただいま、タロス」

 「た、ただいま⋯⋯」


 アレイムは、しばらくかーちゃんが預かることになった。

 今日は、獣警団への虐待の報告と本人からの被害届の受理、保護施設への入所届、そして親権を神殿へと変更する手続きを済ませてきたという。

 なんというか、流れがスムーズ。前世みたいにムダに時間を消費してないところは、さすがというべきか。


 「保護施設に関しては、そんなに心配しなくても大丈夫よ。同じような歳の子供たちも大勢いるし、職員さんやボランティアの人たちも、とても親切だしね。それに、施設内は学ぶ場所も遊ぶ場所も多いから、楽しいぐらいなのよ」


 かーちゃんの言葉通り、現世の孤児たちは、前世とは比べものにならないほど恵まれていると思う。

 それは、整えられた環境だけでなく、人々の意識の上でもだ。

 加護種たちは、古き神々の眷属同士の繋がりを持っている。だから前世みたいに『親無し』的な差別を受けることは無い。そういった概念そのものが無いのだろう。

 親がいてもいなくても、片親でも、何の問題もない。実際、母子家庭のオレっちも、まったく意識してなかった。今になって、そういえばそうだなと思うぐらい。


 そう。全ての加護腫たちには、古き神々の眷属同士という仲間意識があるのだ。ただ、残念なことに、全てのことにおいてそれがあるわけではない。だからこそ虐待などもあるし、犯罪も起こる。実際、神々の争いの時は、お互いに殺し合ってたワケだし。

 竜の神々の降臨で争いは無くなったが、恨み辛みは残っていたハズだ。それでも歴史を知る限り、それらは後世まで残ってはいない。争いによって途切れた加護種たちの絆が、再び結ばれたということなのだろう。


 「ふふふ。夕食は腕によりをかけて、新作料理にでも挑戦してみようかしら?」

 かーちゃんの言葉に、オレっちは戦慄した。


 「今日は、普通のゴハンでいいと思うよ!フツーので!!」

 オレっちはともかく、アレイムに食拷問⋯食虐待をさせるわけにはいかない。でも、一つ分かったことがある。

 かーちゃんの気まぐれ料理は、気力が(みなぎ)り、やる気満々の時に作りたいモノなのだと。


 「アレイムは何がいい!?」

 「ぼ、僕は何でも⋯⋯」

 「やっぱり、少し珍しい料理がいいかし⋯」

 「あ、オレ、カレーがいいな!アレイム、辛い料理はダメな方?」

 かーちゃんには悪いが、新作は諦めてもらおう。


 「ううん!好きだよ。母さんもよく作ってくれたし⋯」

 「うんうん。やっぱ、みんな好きだよね!」

 「そう⋯⋯残念だわ」


 ふう。惨劇は免れたな。今日はアレイムも疲れているだろうし、お腹いっぱい食べてゆっくり眠って欲しい。

 明日からは、また忙しくなるんだから。


 それにしても⋯⋯かーちゃんのテンションが上がる度に、あの料理が爆誕するのか。ということは、気まぐれ料理ではなく、歓喜の表現料理?

 う〜ん⋯⋯いや、それでおかしな味になるんだから、やる気の暴走──迷走料理ってとこなのかな?どっちにしても、厄介なんだが。実際、これも隠れ虐待とも言えなくもないが、オレっちが一言言えば済む案件でもある。

 でも──


 『こんなゴミ、食えるか!!』


 ⋯とは、かーちゃんに言えない。これが前世のかーちゃんなら『ほんなら、アンタがご飯作りぃや!!』って返ってくるところなんだが。

 勇気を出して──アカン。今世のかーちゃんには、死んでも言えん!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ