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第七十五話 春の大祭(前座)に向けて

 レキュー先生に、騙された。

 彼らは上級者かもしれないが、クセの強すぎる──つまり、ダンス学科の問題児たちだったのだ。


 10分ほど観察して分かったことは、そもそも彼らは、他人の目を意識したダンスをしていないということだ。

 おそらく趣味としての学科であって、職としては考えてないから、自分の好きなように踊っているだけなのだ。

 ──ふざけんな!!


 オレっちは、レキュー先生にパレード出場辞退の申し出をした。⋯が、苦笑するレキュー先生の傍らになぜかミンフェア先輩もいて、あいかわらず偉そうに腕組みしながら、オレっちに言い放った。


 「先生がアンタに期待したのは、あの問題だらけの上級者たちに、自分たちのダンスがいかに滑稽なモノかを直言してもらいたかったからよ。アンタとあのチュネミ三兄弟は、遠慮も配慮も無い、ど直球の物言いをするからね!」


 ガーン!!


 まさかのツッコミ役!!⋯って、アレ?ソレなら──


 「ミンフェアさんが言えばいいじゃないですか!?」

 そんだけオレっちに死球喰らわせてんだから、ツッコミには適役だろうが!


 「嫌よ。あんなんでも上級者だからね。逆恨みされても困るし」

 「じゃあ、オレたちは恨みを買ってもイイと!?」


 誰か──誰でもいいから、ミンフェア先輩の横っ面に、ビンタを喰らわして!!


 「ミンフェア、言い方!違うのヨ、タロス。アナタとチュネミ三兄弟は幼すぎテ、素直な発言をするから、きっと彼らも分かってくれると思うノ。自分たちのダンスが周りからどう思われテ、雰囲気ブチ壊しのダンスクラッシャーなのかガ!」

 なにげにレキュー先生も、酷かった。ダンスクラッシャーって。


 「とにかく、深く考えずに素直な反応デ、彼らに伝えて欲しいノ」

 「上手くいかなかったら?」

 「あの人たちのメンタルがさらに強くなるか、破壊されるかの二択でしょうね」

 ⋯⋯ミンフェア先輩って小モフ好きだけど、意地悪するのも好きなんだろうか?歪んでんな。






 ◇◇◇◇◇ 


 今日は、スナネズミ⋯もとい、チュネミ三兄弟を含む新人たちと、上級者たちの初顔合わせ。

 事前に見ていたオレっちとは違い、彼らは目の前の上級者たちのダンスを初めて見る訳だが──


 さて、どうするか。などとオレっちが思案している間に、チュネミ三兄弟の天然が爆発していた。


 「ハッ、破ッ!あチュー、あチュー!アハハ!面白いダンスだチュー!」

 「輪ダンスなら、ウチュのネーチャンがダイエットでやってたチュ〜!腰をフリフリ♪でも、痩せない〜困ったでチュ〜♫」

 「お色気なら、僕チュも負けないチュよ〜!アチュン♡チュ〜♡」


 どストレート!!しかも、実践付き!再現率(モノマネ)、高っ!


 ハリネズミ獣人のズーニーさん、コツメカワウソ獣人のジェレミーさん、ヒマラヤン猫獣人のイメルダーさんたちは、呆然としていた。


 「そうだチュー!三人で踊ってみるでチュー!」


 チュネミ三兄弟は、先輩ダンサーたちのダンスを組み合わせて踊った。

 真ん中に長男(ゴルー)、左に次男(シルー)、右に三男(ブロー)──見事なコントだった。最初は。

 兄弟たちは踊ってるうちに、同じ型のダンスを合わせて踊るようになり、そうすると、あの一人では滑稽だったダンスが、斬新な動きに見えるほどの変化を遂げた。


 ズーニーさんの拳法もどきのダンスは、三人が同時に腕や足を突き出すとカッコよくなり、イメルダーさんのお色気ダンスは、三人が横並びでクネクネしながら踊るとコミカルなセクシーダンスとなった。

 特に、ジェレミーさんの水魔法のフラフープは、チュネミ三兄弟が、細かったり太かったりの水輪の中で(魔力不足と制御が不安定)三位一体のキレのいい腰フリフリが、とにかく目新しかった。


 パチパチパチ!パチパチパチ!

 いつの間にか、新人たちから大きな拍手が沸き起っていた。


 「カッコいい!」

 「こんなの初めて見たわ!」

 「一人だと変だったのに──不思議〜!」


 一人だと変──上級者三名は、その場で膝をついた。放心しているようだ。

 アレ?自己満足で踊ってたんじゃないの!?


 「⋯⋯これは、なかなかのダンス構成ダワ。新たなるダンスの可能性が見えてきたカモ!?」

 レキュー先生が興奮気味に呟いた。


 「ふ~ん。初見なのに三人の息がピッタリだなんて、さすがは三つ子ね。ド素人にしては、やるじゃない」

 ミンフェア先輩が上から目線で呟いていたが、オレっちも奴らの動きに関しては、正直、スゴいとは思った。

 練習もせずに、ほぼ完コピ。──悔しいがダンスの才能は、オレっちよりも遥かに上だ。


 そして──春の大祭(前座)パレードに向け、オレっちたち新人と、プライドを木っ端微塵にされながらもリスタートした上級者たち三人は、一致団結した。






 ◇◇◇◇◇ 


 「タロス〜、疲れてるみたいだけど〜大丈夫〜?」

 エイベルの癒し声が、机にうつ伏せたままのオレっちの耳に入る。


 「うん⋯⋯なんとか。やっぱ早朝からの練習は、キツイ⋯⋯」

 冬の終わりの三月中旬。定期テストの最中だというのに、オレっちは疲労困憊していた。


 結局、春の大祭パレード用のプログラムは、新たなるダンス構成を入れて複雑化し⋯⋯いや、カオスとなって、ダンサーたちの体力と精神を削った。


 拳法+お色気+フラフープ──これらを順番に踊り、三列並びになって前進するダンスは、前後列、左右列──タイミングを合わせるのが大変だった。

 特に、水フラフープは水魔法の制御負担が重く、結局、魔法具──光ベルトという七色の光の輪が現れる市販の玩具を使うことになった。

 結果的に派手になったので、これはこれで良かった。


 しかし、どのダンスもHP消費が激しく、次のダンスチームとの交代までギリギリといった感じで、オレっちも必死に、腰を振り続けた。


 疲れた⋯⋯でも、次は問答テストだから、シャキッとしなければ!





 「ビスケス・モビルケが教育や福祉に力を入れて無料サービス制度を維持できるのは、予算が多く回されているからだが、その理由の一つは──何だか分かるかな?タロス君?」


 「⋯⋯ハイ。防衛費が国境の小獣軍ぐらいにしか必要がなく、国内における犯罪も市民魔導師制度などのおかげで最小限に抑えられているので、獣警団なども最低限の人員で済んでいるからです。しかし、近年、隣国であるネーヴァの⋯⋯あふっ⋯あ、すいません!!」

 「何だか最近、疲れているようだけど⋯⋯無理はいけないよ。かと言って、彼のようにテストの最中にまで寝落ちするのは論外だけどね」


 モブラン先生は、ポコーンっと、リンゴ笏でアランの左肩を叩いた。


 ふう。いかん、いかん。

 でも、集団で行進するダンスって、ホントに難しいな。そういう意味では、秋の大祭はまだシンプルな構成だから、楽な方だったんだよね。


 春の⋯花の大祭まで、あと半月ほど。


 こんなに頑張って練習してるのに、沿道の観客たちにウケなかったら──どうしよう!?

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