第八話 覇国の黄昏とその後の世界〜海の呪い?
「ウルドラムはその後の歴史書では、『古竜人国』または『統一国』という名称にされているわ。今のウルドラム大陸は幾つかの国に分かれてしまったから、その区別の為にね」
かーちゃん。サクッと読み飛ばしたな。絵巻はウルドラムが繁栄しまくってる場面なんだけど。──ん?竜人が竜になったり、人型になったりしてる?
「かーちゃん!もしかして竜人って、竜の姿になれたりするの!?」
「もちろん。竜人ですもの。でも、竜体化は魔力の消耗も激しいし、巨体だから普段は人型で過ごしているそうよ」
ふーむ。竜体化するのは、有事の時だけだったのかな?
「遠方の物資の輸送時に、竜体化する事が多かったみたい」
思いっきし商売で竜体化しとるやん。
まあ、小獣国でも鳥獣人さんが配達したり、鳥魔獣を飼い慣らして飛行輸送してたりするけど!
ちなみに鳥魔獣の背に人は乗れない。奴らが嫌がって暴れるからだ。
鳥魔獣は、お屋敷の敷地内にある倉庫の上空でよく見かけるが、関係者以外立ち入り禁止なので、オレっちは間近で見たことがない。
クルクルクル。
かーちゃんが魔法絵巻を三回ほど回転させる。すると、それまで竜体と人型を繰り返してきた影が、端の方から人型のみになっていった。人型の影の動きが激しくなり、ひどく動揺するような仕草を始める。
「統一国の終焉は、突然の事だったの。今から二千年以上も前のこと──竜人の約半数が、竜体化できなくなってしまったの。つまり⋯⋯竜の神様の加護が失われてしまったのよ」
はあ!?──えらいこっちゃやん!加護が無くなるってことは、素体である『人間』になるってことだよ!?
今まで竜人でブイブイ言わしてた方々が、旧世界の人間になったってことは──いや、でも魔素は薄くなったし、加護無しでも生きるのに問題はないか。
でもなー、オレっちだっていきなり加護が無くなって人間になったら、混乱するし喪失感ハンパないし──魔法だって──いや、それはともかく、半数がって⋯どういうこと?
「ど、どうして、みんなじゃなかったの?」
「その日に居た場所によって明暗が分かれてしまったの。大陸中央で暮らしていた竜人は加護を失わなかった。でも──沿岸部やそこから近い──いえ、かなり離れた場所でも、加護を失った竜人たちが数多くいたと言われているわ」
「何が原因だったの?」
「それが──当時から今に至るまで解明されてないの。推測された説は幾つかあるけど⋯⋯獣人たちは、『海の呪い』って呼んでいるわ。とにかく沿岸部に近い場所に住んでいた竜人たちは、皆、加護を失ったから」
これは⋯⋯なんともマンガやラノベ的な『ラストまで読者をワクワクさせるためのネタ用の謎』⋯か?にしても、チート能力ありきの主人公用だが。いや、たとえ主人公が落ちこぼれでも、仲間たちがそこそこチートなら、なんとかなる路線もある。
なんだか尻尾がブルブルする。──これが、武者震いというものか!?
今世のオレっちは、まごうことなきファンタジー世界の住人。
神や魔法や魔獣、獣人、エルフ、ドワーフ、竜人、そして人間──前世の記憶が戻った時にわかっちゃいたけど、オレっちはまだ魔法が使えないし、獣人以外は見たことないし。だから、冒険心てのが今ひとつだったのだ!
だけど、今日みたいにダンジョンを見学したり歴史を識ったりして──かつての神ゲーを初プレイする直前の高揚感に似たソレが、オレっちのテンションを爆上がりさせる!
前世を思い出してから五年も経ってるのに『今さら何言ってんだか』⋯だけどね!
余談だが魔法絵巻にもランクがあって、かーちゃんが持っていたのは獣学校の初級クラスの教材だそうだ。最上級クラスの魔法絵巻は学校からのレンタル品で、オールカラーのリアルビジュアル仕様だったらしい。戦時中の画面は相当エグかったらしく、かーちゃんは「二度と観たくないわ」と、珍しく顔をしかめていた。
界は違えど、戦争なんて一部のサイコパスのみにしか歓迎されないもんね。
結局のところ加護種ってのは、眷属って名の神々の操り人形みたいなもんなんだろう。未だにこの世界では、神様は遠いようで近い存在なのだ。いい意味でも悪い意味でも。
う~む。海の呪いってのも、単純に竜の神々に対する古き神々の嫌がらせじゃないのかな?オレっちたち下僕が竜人の国で一括りにされているってのが気に入らないとか、いいとこ取りしやがって、許せね―!とか?──にしても、半数だけって中途半端だよな。それに竜神側だって黙っていないだろうし。
グウ〜
いかん。色々と考えてたら腹が減った。まあ、神々に関してはオレっちがどう推測しようと意味がない。どーせオレっち、チートじゃないし、王道じゃないモフ転生者だしい。こうなったら、モフモフ食いしん坊幼獣ライフでまったり人生⋯てなタイトルの主人公でも目指しますか!とりあえず──
「かーちゃん、ゴハン!」