第七十四話 また一つ歳を重ねて
「じゃあ、皆、元気でね!」
一月の終わり──ついに、フェンリーが第3レベルクラス、12組を去った。
クラスの皆も覚悟ができていたし、最後の思い出とばかりに氷獣祭にも一緒に行ったから、オレっちもボビンも泣かなかった。しかし──
「ううっ⋯⋯ズビッ、ブェンリー〜!⋯⋯ズビッ!」
鼻をすすって涙を流していたのは、病み上がりのヒンガーだった。
なかなか登校してこないなーと思っていたら、風邪をひいて寝込んでいたそうな。先週、ようやく登校してきたが、間が空きすぎてフェンリーが第4に上がることを、誰も彼に伝えていなかった。つまり、彼にとっては、突然の別れとなったのである。
皆、意識して話題にしなかったからな〜。ヒンガーも鼻がズビズビ状態で、会話がしづらかったし。
「第4か⋯⋯そろそろ上がろうかな〜?」
アランがボソッと呟いた。
「それって、今年は居眠りしないってことか?」
オレっちは即座に、アランにツッコんだ。
「ん~⋯⋯それは、難しいかな?でも、今年は頑張ってみるよ。同時期に入った工芸学科の最後の一人も、第5クラスに上がっちゃったしねー」
⋯⋯アランって、16歳だっけ?9歳で第1レベルクラスから入ったらしいから、かれこれ7年。第5を最終学歴にするにしても、あと13年か⋯⋯余裕があるような、ないような⋯?
◇◇◇◇◇
「タロス〜、誕生日〜おめでとう〜!!」
今日は、オレっちの誕生日。9歳になった。
思い返せば、去年はいろいろと経験したなぁ。もし運が悪ければ、今頃、人間の国で愛玩奴隷にされてたかもしれない──そう思うと、ちょっと毛がザワっとなる。
それもあるから、今回の誕生日は、特に感慨深い。
「これ〜、僕からの〜プレゼント〜!」
「ありがとう、エイベル!」
お屋敷で誕生祝いのパーティが開かれ、オレっちは、エイベルから黒いスカーフを贈られた。
「アレ?この刺繍って──」
「うん〜。タロスの花を〜入れてみたんだ〜」
オレっちのポピタンが、スカーフの結び目にくる位置で、刺繍されていた。
なんつーか、カッコよさと可愛さが同時に感じられる、逸品。
さすが、我が癒しの友。センスがバツグンだ!
「はい、タロス。これは母さんからのプレゼントよ」
「ありがと、かーちゃん。何かな〜?ん?んん〜っ!?」
ガサガサと包装紙を解き、中にあった長方形の箱の面に派手に描かれているカラーイラストを見た時、オレっちは目を剥いた。
「ゴ、ゴッド・ボーレム??」
かーちゃんからの今年の誕生日プレゼントは、ゴッドゴーレムのバッタもんだった。
かーちゃんのことだから、多分、本物との見分けがつかなかったのだろう。
「これが一番大きなサイズの人形だったから、喜ぶと思って。ふふふ」
「⋯⋯うん、大きいね。うん⋯⋯」
パクリのクセに、オリジナル以上にデカいとは。
しかし、どの世界でもニセモンはあるよな。つーか、同じコーナーに並べて売るなっつーの。
ちなみに今回も、獣神殿から秋の大祭の転写真が、二枚送られてきた。
だけど、その二枚ともなぜかミンフェア先輩が写り込んでいて、オレっちは思わず両頬を膨らませた。
あ、でも一枚は、チルルーさんも写っていたので、少しだけ救われた。我が白き救いの友よ!
◇◇◇◇◇
「タロス、今年の春の大祭のダンスイベントに、参加してみナイ?」
本業が終わったのか、臨時教師に復帰してきたレキュー先生が、オレっちに声を掛けてきた。
「春の大祭のダンスイベント⋯⋯」
そーいえば、踊りながらパレードしてたな。花束持って振り回しながら踊ってる人とか、花だらけの魔牛車の後ろで団体ダンスしてる人達とか。
「午前中のパレードはネ、素人も参加できるから、ウチの生徒たちも参加しているノ。今年は、去年入った新人と上級者を組み合わせて参加しようと思うのヨ」
「新人と上級者⋯⋯」
オレっちは当然、新人枠。あとはあのスナネズミ三兄弟と、名前さえうろ覚えなモブたちだな。
「ソウ。ほぼ基礎だけで技術だとかが全くない新人と、独自の技術まで習得している最終段階の生徒との合同ダンス☆」
「あの、でも⋯⋯レベルの差がヒドくないですか?」
「だからヨ。最終段階の子はネ、初心を忘れて自分本位なダンスばかりするようになるし、アドバイスしても、聞く耳を持たないノ。だから、同じようにあまり協調性もない、ダンスなんて簡単だと思ってる子たちの指導をさせて、自分たちの原点に還ってもらおうと思ってるのヨ!」
ああ、確かに協調性のないのがいるな。
「なるほど。あのチュネミ三兄弟たちは、特にそうですからね〜。困ったもんです!」
オレっちがそう言うと、なぜかレキュー先生は、ブルーとグレーのオッドアイを細めた。
「⋯⋯タロスだっテ、ダンスをナメてるわよネ?あの年末ミュージカル、歌はともかく、ダンスは適当だったでしョ?足がもつれてたシ」
ギクッ!あ〜、最終公演は、ちょっとヨタったような⋯⋯
「ま、上級者たちはミュージカルのメンバーよりもクセがある者たちだかラ、思いっきり振り回してあげて頂戴ナ」
⋯⋯レキュー先生から見たオレっちって、一体なんなんだろう??
◇◇◇◇◇
次の日、オレっちはこっそりと、上級者たちの練習する教室を覗いてみた。なんだかものすごく嫌な予感がしたからだ。
え~と、レキュー先生の話だと、ソロで踊ってる人たちだから⋯⋯アレかな?
教室の隅の角──この教室も人が多いはずなのに、何故かそこだけ穴が空いたかのように、まばらだった。
「はっ、ハッ、破ッ!」
コレはダンスなの?ってな感じで、拳を突き出しながら踊っているのは、ハリネズミ似のダンサーさんだった。
⋯⋯何だろう。ダンスと言うよりは少◯寺拳法?ああ、舞闘ダンスってやつなのかな?
「ニュッ、ニュッ、ニュッ!」
コッチは、コツメカワウソっぽい外見のダンサーさん。水魔法で水フラフープを作って、その中で激しく腰を振っている。
「アッハ〜ン♡ハ〜ン、は~ん♡」
風魔法でドレスを膨らませ、それを両手で押さえる、いにしえのモンローポーズをキメるのは、ヒマラヤン似の猫獣人ダンサーさん。お色気ダンスってやつですか?
上級者──クセあり過ぎるだろ!!