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第七十二話 小モフたちの年末年始

 「毎年思うんだけど⋯⋯どうしてタロスは、この日に蕎麦が食べたいの?」


 かーちゃんが鍋で蕎麦を茹でながら、オレっちを見る。

 「⋯⋯なんとなく?」

 オレっちはどんぶりを二つ並べながら、返事をした。

 年末最後の〆には蕎麦──という慣習は、当たり前だがこの世界には無い。その中でただ一人決行するオレっちは、こだわりが強すぎるのかもしれない。

 でも、蕎麦があるんだから別にええやろ感覚で、毎年、かーちゃんに頼んでいるのだ。


 「いただきます!」


 蕎麦出汁が美味い。海老天もサクッとしている。さすがはかーちゃん。気まぐれ料理さえしなければ、天下一品!





 ◇◇◇◇◇ 


 年末年始の二日間+土日は、小獣学校も休みなので、ゆったりまったりと過ごす。

 ビスケス・モビルケでは年始の挨拶や神殿参りなんかないから、皆、普通の休日として過ごす。一部、イベントなどもあるが、全て小規模なものだ。


 「さてと──ポンポンの種でも収穫するか!」


 ネギ花に似たポンポン(改良種名・チクチクポンポン)は、三ヶ月に一度は咲く。魔素のせいなのか、前世とは別物なのか──はたまたかーちゃんが世話してくれているおかげなのか──どっちにしても育てやすい植物だ。あの薔薇(ガラティア)も、もうちょっと育てやすければいいのに。

 

 三回ほどオレっちの魔力を含ませたポンポンの茶色の種は、種の段階で魔力を与えてやると、すぐに芽を出すようになった。芽だけだが。


 「⋯⋯これを瞬時に壁にするには、どー考えても、何十年もかかるよな⋯⋯」


 それを考えたら、すぐにでも他のイラクサ種を育てた方がいいのかもしれない。学校が始まったら、薔薇も含めてセーラに相談してみよう。アッチは半分プロみたいなもんだし。専門は野菜だけど。






 ◇◇◇◇◇


 「んん?エイベル、そのたくさんの服、どーしたんだ!?」


 エイベルの部屋──というより執事さんの部屋に入ると、エイベルが大量の衣類に埋もれていた。


 「あ〜タロス〜、これ〜神殿に持っていく服なんだ〜。旦那様がジイジに〜、去年の〜子供向けの新商品のサンプルとか〜売れ残りの在庫品を〜神殿に寄付してくれって〜」

 「在庫処分とサンプル品か。また随分と量が多いんだな」

 「これでも〜、一部〜なんだよ〜」


 オレっちは、エイベルがせっせと折り畳んでいる夏物や秋物の服を見た。きっちりと畳んだ衣類を何枚か重ねて、ヒモで縛っている。


 「後で〜ジイジの魔法鞄(マジックバッグ)に収納して〜神殿に〜持って行くんだ〜」

 「神殿ってことは、保護施設の子供たちにか。ちょっと時期外れの服だけど、腐るもんでもないから、こういった類いの寄付は助かるだろうな」

 「そうだね〜。服も消耗品だし〜、たくさんの子供がいたら〜買うのも大変だしね〜」


 確かに。子供は汚すことが多いし、その分、洗濯の回数も多くなる。そうなると生地の劣化も早くなるっていう悪循環だしな。


 「靴もあるんだよ〜。あと〜鞄とかも〜」

 ここの商売は、幅広い商品を取り扱ってるから、種類が多い。けど、これを全部収納できる執事さんの魔法鞄って、容量が大きいんだな。


 「オレも、なんか出そう。ちょっと、探してくる!」


 旦那様に比べたら微々たるもんだが、何もしないよりはマシだろう。オレっちは、家のタンスの引き出しやクローゼットの扉を開けまくった。


 「分かってたけど、ホント、ベストと靴下ぐらいしかねぇな⋯⋯」


 春、夏、秋、冬──オールシーズン、基本、裸──いや、毛皮持ちなので、一年を通して着る服は、ほぼベストのみ。たまにしか履かないズボンも何着かあるんだけど、大きな尻尾穴が空いていて、マリス以外だと履くのが難しい。

 靴は、常時、二足を履き回し、履き潰してから買うので、古い物はすでに廃棄済み。鞄は余分な数がないから、無理。やっぱ、出せるとしたらベストしかないよな。


 小さくなったベストが、たくさんあった。でも、その全てにかーちゃんの刺繍が入っていて、手放しにくい。まったく未練が無いのは、この一着のみなんだが。

 ただ、あっちで需要があるのかが問題なんだよな⋯⋯。






 ◇◇◇◇◇


 「タロス〜この服って〜⋯⋯」

 「多分、いや、絶対もう着ないと思うし、このままタンスの肥やしになるのも勿体ないから」


 マルクス坊っちゃんのお下がり、青いバラの刺繍入りの金色ベスト──保護施設にはいろいろな子供たちがいるから、きっと中には坊っちゃんのような感性の子もいるはずだ。


 「保護施設では、時々、寄付促進のための演劇もするって話だから、舞台衣装として使ってくれてもいいしな」

 「あ〜、そういう方向なら〜需要もあるかもね〜」


 つまりそれは、それ以外には使い道がないということだ。最終的には端切れにされて終わるような気がする。


 「エイベル、ソレって、エイベルが編んだやつ?」

 寄付品の中に、マフラーがあった。手作り感のある白と紫の毛糸で編んだ品だ。

 「うん〜僕が作ったの〜。時間があったら〜もっと編めたんだけど〜」 

 「エイベルはホントに器用だな。オレなんか、編み目がガタガタで、何回も解いたもん」 


 一度、かーちゃんの真似をしてマフラーを編んだことがあったが、これが結構難しかった。

 編み方は単調で簡単だったが、均一の編み目の継続が難しく、結局、全部解いて終わった。

 オレっちにはこの手の才能がない。手先の不器用さだけでなく、せっかちな性格にも原因があるんだろう。

 その点、エイベルは忍耐強く、地味ながらコツコツと経験を積むタイプだから、こっち方面には強い。


 「タロスのスカーフも〜ちょっと草臥れてきたね〜」

 「手洗いしてるから大丈夫だと思ったんだけど、毎日巻いてるからな」

 「もうすぐ〜タロスの誕生日だし〜また新しいのを贈るよ〜。何色がいい〜?」

 「⋯⋯そうだな、今度は──黒がいいかな?」


 ちょっとワイルドな感じで攻めてみるのもイイかも。

 ワイルドといえば、メロスも今頃は、大武闘会、冬の陣を観てるのかな?

 イメージ的にはプロレス系や天下一武◯会しか思い浮かばんが。

 ポラリス・スタージャーか⋯⋯行ってみたいな〜。大モフの王国──なんか今、前世のアフリカみたいなイメージが浮かんだが、実際は大陸北部だから、この時期、超寒いんだよね〜。


 「アレ?これ──」

 「風衣(かぜごろも)の複製品だよ〜。どこかの人間の国が〜真似して作ったやつを〜間違えて〜入荷しちゃったんだって〜」


 思いっきりバッタもんやん。

 人間の国はウルドラの下請け工場が多いからな。元竜人だったせいか、未だにウルドラを宗主国として認識してるし。


 「制御の魔法具が〜すぐ壊れるから〜、布の部分だけ寄付するの〜。保護施設で〜リメイクして〜売り物にするみたい〜」

 商魂たくましい神殿に、拍手。キレイな柄のフワフワとした布だから、アクセサリー用の小物にでもするんだろうか?


 それにしても、ここの商会の品質チェックの甘さよ。多分、安いからってんで輸入してんだろうが⋯⋯大きな商会になると、こうした無駄入荷も日常茶飯事なのか?だとしたら、怠慢だな。

 おかしなところで商売に失敗しなければいいが。せめて、オレっちとエイベルが大人になるまでは倒産しないでくれよ。(どこまでも自分本位)

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