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第七十一話 年末イベント最終日

 獣学校の年末イベント最終日──二回目にして最後のミュージカル公演が始まり、オレっちは再び、落とし穴へと落ちた。


 『本当に〜ありがとう〜♪ございます〜♫』


 セリから出た後、クルリクルリと回転しながら、退場。一回目ほどのヤケクソ感がないので、少し悲壮感が足りなかったかもしれない。


 そして、カーテンコールまで少し時間があったので、オレっちはコソコソと舞台の袖から観客席を見た。

 そう。今日も最前列で観ている二人の加護人がいる。リブライト先生とあの氷獣祭の加護人だ。オレっちは今がチャンスとばかりに、ステータスを拝見させてもらうことにした。


 ステータス、オープン!



 名前 ハイネス  加護種名 ゴルゴー(幻妖種)


 HP 1800/1800  MP 2600/2600


 土 LV7 水 LV5 


 スキル 石化  幻惑幻視(弱)  瞬間思考処理  幻体化


 古き神々の一柱、ゴルゴーンの加護種。

 小獣学校の三十年枠の教職員として働いている。リブライトと同じく小モフ好き。アメジオスの高位階級、いわゆる名門一族の出身。

 石化スキルは希少能力。しかし、平和な世の中では攻撃的な使い方はされず、主に医療用に使われている。

 大怪我や瀕死の者を石化し、医療機関に運んだ後に解除して治療するなど、その有効的な使用方法は様々である。

 幻惑幻視は幻を見せる技だが、弱なので視覚のみの低レベル。強だと五感を惑わせるほどの大技となる。

 瞬間思考処理能力は、瞬時に全ての答え──正解を出すことができる。要するに天才。しかし、演算処理系の天才なだけに、創造的なものは苦手。

 成人してからは、家族とは疎遠。リブライトととは、小モフ愛好家の仲間意識があるだけの関係。小獣学校で担当する学科クラスは、最終レベル12。



 ⋯⋯スゲェ。今までも何人か高レベルの人(あのクソギツネババァを含めて)を視たけど、石化とか瞬間思考処理とかは初めてだ。


 石化ってマジでヤバい。冒険者なら即、A級ぐらいに上がれそうだし、瞬間思考処理って前世のAIみたいなもんだから、高官から商人まで幅広くやれそう。

 しかもクラスレベル12の教師って、エリートの卒業試験をする超エリートって事だし。

 でも、このステータス画面、相変わらず幻体化に関してはスルーなんだよな〜。⋯⋯なんで?






 ◇◇◇◇◇ 


 「イベント最終日の夜は、魔閃光花(ませんこうか)が上がるんだ」

 「キレイだよね~!光スキルの〜光の花〜!」


 ボビンとエイベルの言う魔閃光花は、光のスキルによって前世の花火をよりゴージャスにしたもので、光球の弾けたキラキラ感がとてもキレイなのだ。

 しかも、雨や風などの天候に左右されない強みがあり、中止などあり得ない安定したイベントと言えよう。

 ただネーミングが⋯⋯どこかの世界で聞いた覚えがあるようなないような⋯⋯ま、細かいことはもういっか。



 魔閃光花の時間まではまだ間があるので、豆柴犬獣人のニジーが選択している魔法学科に行ってみることにした。リリアンとネメアのお勧めだ。『ニジーの占術はスゴいのよ』とのこと。 


 魔法学科は、その名の通り魔法を研究する学科なのだが、この世界の魔法は個人の経験や思念の強さでレベルアップするものなので、他人に教えられるものではない。スキルも然り。

 じゃあ、なんの学科なのかと言うと、魔法を基にした派生職業の訓練や補助魔法具を造る学科なのだ。


 占術師もその派生職業の一つで、スキルに『予知』がある者の天職でもある。

 予知は本人の意思とは別に、突然視たりすることが多く、制御が難しい。そのために、水晶玉や運命カードなどの補助魔道具を使用して安定させるのだとか。


 「あら、いらっしゃい〜⋯っていうか、三人とも来るのが遅いワヨ〜」

 ニジーの茶金の瞳が、ジト目になっていた。


 「まさかの最終日とはね。でも、ちょうど良かったカモ。午前中まで行列だったし〜」

 レキュー先生ぽい語尾が時々入るが、ニジーの方がややキツめの感じがする。多分、性格の違いだろう。


 「デ、誰から占う〜?」

 「え~と〜⋯⋯じゃあ〜僕から〜」


 エイベルが、ニジーの占術用の机の席に着いた。

 ニジーの補助魔道具は水晶玉らしい。


 「じゃあ⋯⋯視るワヨ〜」

 ニジーの瞳が半眼になり、水晶玉を凝視する。

 「⋯⋯ふ~ん。エイベルはなかなか複雑な出生をしているのね。でも、周りに恵まれてるから不幸ではないワネ〜」


 スゲェ!当たってる!!


 「これからも周囲の助けがあるから、運勢的には安定しているわ。少なくても半年先ぐらいまではネ〜」

 「半年だけ〜?」

 「アタシの占いは、少し先までヨ。いい?運命ってのは本人の運だけじゃなくて、環境や他者の影響を受けて変化するものナノ。確実な未来は、少し先ぐらいしか安定していないってコト」


 「へー。そうなんだ。じゃあ、次はオレを視てくれ!」

 ボビンがそう言うと、ニジーは再び目を細めた。魔道具である水晶玉はオレっちにはただのガラス玉にしか見えないが、ニジーの視線が上下左右に向けられているのを見ると、ナニかが視えているのかもしれない。


 「アンタは──ちょっとショックな事があるみたいね。でも、それほどダメージは受けてないみたい。アンタも周りに恵まれてるカラネ〜」

 「ショ⋯ショックな事って!?」

 「来年になったら分かるワ。ここでアタシが言う事でも無いし。さっきも言ったケド、ダメージ小だから安心しなさいナ」

 「⋯⋯」


 何だろう⋯⋯他人事ながらこのモヤモヤ感。もう、ハッキリ言ってやれや。


 「最後は、タロス──なんだケド、アンタはちょっと変なのよネ〜」

 「ヘン?」

 「編入してきた時から妙な感じがするし、一度、視た事があるんだケド、ハッキリ視えないのよ〜」


 もしかして⋯⋯転生者だから!?


 「視えないって──まさかタロス⋯⋯お前、呪われてるんじゃ⋯⋯」

 「!?」


 ボビンのバンビ顔が、青くなっていた。確かに何らかの呪いを受けた加護種は、魔法を弾く。予知だけでなく治癒の魔法も弾かれるから、とても厄介なのだ。

 でも、そっちじゃないから!転生者だから!!


 「馬鹿ね〜。呪いじゃなくても視えない人はいるのよ。行動予測不能の運命の持ち主がネ〜」


 コウドウヨソクフノウ??


 「すぐ前に直線の道があっても、何故か端や回り道を選ぶナゾの運命選択をする者──占術師の天敵なのヨ、アンタは」

 「なるほど!」

 「タロスらしい〜感じ〜?」


 ニジーの天敵宣言より、ボビンとエイベルの言葉の方がダメージ大なんだけど!クソ〜っ!転生者って言えないのが悔しいっ!!








 ◇◇◇◇◇ 


 『これより、魔法学科生徒たちの光のスキルによる、魔閃光花を開始します!!』

 音魔法を使った音声が、校内、校外に響き渡った。


 様々なモフたちが白い息を吐きながら、夜空を見上げる。

 冬場は陽が落ちるのが早い。まだ午後六時前だが、辺りはもう随分と暗くなっていた。

 オレっち、エイベル、ボビン、リリアン、セーラ、ネメア、ニジーは、第二校舎の屋上でスタンバイ。

 魔法改良されたウルドラシルの太い根を椅子にして、その他大勢の生徒たちと共に、その時を待つ。


 「──始まったっ!」

 「ワァ!!」「おおっ!」「キレイッ!!」


 花火とは違い、音もなく大きな光球が夜空に、突然、幾つも現れる。

 限界まで大きく膨らんだ光の球が弾けると、キラキラと輝く黄金の粒となった。その粒の間に煌めく虹色の光が、小さく輝く。

 それからは夜空を照らす眩しい光の渦と色付きの光の点滅の共演で、美しくて華やかなだけでなく、生徒たちの興奮とざわめきがどこか非日常的な雰囲気を作り出し、心をワクワクさせた。


 「はぁ〜、キレイだったね〜!」

 「だな!」


 魔閃光花終了と同時に早々に皆と別れたオレっちとエイベルは、魔牛車乗り場へと急いだ。理由は簡単──これから帰路に着く学生たちが、魔牛車乗り場に列を作るからだ。


 「ん?」


 魔牛車乗り場へと向かう道の途中で、ものすごく疲れた顔の一団とすれ違う。

 「は〜、今年も何とか無事終わったな⋯⋯」

 「先輩たちの演出、細けぇから魔力調整が大変なんだよな〜⋯⋯」

 「アタシ、ラストの方で光の色、間違えちゃった⋯⋯」

 「俺なんて魔法量が多いからって、大玉ばっかやらされたし」


 うなだれたモフたちは、トボトボと去っていった。これから別の意味での打ち上げでもするんだろうか?

 どっちにしても、あの幻想的な光景とは真逆の現実だな。でも、君たちの光スキルはとても素晴らしかったよ。だから、お礼代わりに祈ってあげよう。


 光の戦士たちに、幸あれ!!──と!

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