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第六十八話 獣学校の年末イベント②

 「やるじゃない、タロス。あんな悲壮な声を演技で出せるなんてね⋯⋯褒めてあげるわ」


 複雑な重ね着の女神の衣装のまま、偉そうに腕組みしたミンフェア先輩が、出番を終えたオレっちに話し掛けてきた。


 悲壮な声──そうでしょうとも。オレっちは開き直って『どうせ、オレはマヌケなカリスだよっ!』と、心の中で叫びながら演技したんだから。


 歩幅を広げて派手に落とし穴に落ち、悲壮感たっぷりの大きな声で泣き叫び、蔦で引き上げられた後、『ありがとう〜♪ございます〜♫』と、弱々しくもハッキリした声で歌った。

 そう──全力で、マヌケなカリスを演じきったのだ!

 でも、それって、ミンフェア先輩のためじゃないから!舞台をガン見してるリブライト先生やエイベルたちのためだから!!


 「何よ、そのブーたれた顔は?せっかく、私が褒めてあげたのに!」

 「イエ⋯お褒めいただき、恐悦至極に存じます、女神サマ」

 「⋯⋯タロス、アンタ、まだ演技中なの?それとも、アレっぽっちの演技で燃え尽きたの?」


 ミンフェア先輩の必要以上に飾りたてたローズピンク髪を見て、ふと思った。

 誰かミンフェア先輩をザマァしてくれねぇーかな⋯と。






 ◇◇◇◇◇


 「さあ、タロスの()()()を観たし、次は服飾学科よ!」


 リリアンがパァンとオレっちの心にビンタして、先頭を歩く。

 一回目のダンス学科によるミュージカルが終了した後、オレっちはエイベルたちと合流した。


 「人が〜いっぱいだね〜」


 エイベルの言葉通り、専門学科の廊下はどこも人で溢れかえっていて、教室前には長い列ができていた。


 「ハイ、通して通して!私とエイベルは、服飾学科の売り子なの!」


 リリアンの声に圧された生徒たちが、道を開ける。スタスタとハム走りするリリアンの後に皮膜翼を畳んで歩くエイベル、続いてボビン、オレっち。リリアンとエイベルはともかく、オレっちとボビンは部外者だから、ちょっと気がひけた。



 おお、教室内に店ができとる!!


 服飾学科クラスの教室に入った途端、オレっちは目を見開いた。


 広い教室内の、ずらっと並んだ長机の上や棚には、服や帽子、鞄や小物類、靴まで置かれ、それらには全て値札が付けられていた。その奥にはハンガーに掛けられた商品もあり、その数の多さから、一年に一度のこの日のために作られた品々だと察した。


 「はい、これは3500ベルビーちょうどです!あ、こちらの方は小物が三点と帽子ですね──合計で──」

 商品が陳列された長机には、作り手兼売り子がおり、大勢の客との売買に勤しんでいた。


 「これ、買うわ!」

 「この服の色違いは無いの!?」

 「3万ベルビーって、ちょっと高くない?」

 「そりゃあ、手作りの一点ものですから。他の人が持ってない物としての価値もあると思ったら、安いものですよ!」


 売り子のハチワレ猫姉さんが、言葉巧みに売り込む。マルチーズ犬姉さんは意を決したように、鞄から財布を取り出した。

 ハチワレ姉さんは商才があるよな。とか思っていたら、リリアンに手を引っ張られた。


 「タロスも、こっちを手伝って!」


 ボビンと一緒に連れ込まれた先は、一番多く商品が陳列されており、明らかに上のレベルクラスの人だと分かるお姉さんやお兄さん達が、売り子をしていた。


 「あら、リリアン──もういいの?」

 「ハイ!ここからは私たちが売り子をします!」


 ⋯⋯()()()が?オレっちは、エイベルを見た。実に申し訳なさそうな顔をしている。その瞬間、察した。




 「悪いわね〜。私たちの作品も置いてもらってるから、一日目は売り子しなきゃならないのよ〜」


 先輩であるお姉さんお兄さんが去った後、何気に自分たちの──リリアンとエイベルが作った作品だと思われるピンクとパープルの服や刺繍入りのハンカチなどの小物類を長机の中央に置いたリリアンが、ニッコリと微笑んだ。

 なんと無邪気なハム笑い。内は邪気が溢れとるけど。


 「⋯⋯タロスと〜ボビンは〜いいんじゃ⋯⋯」

 「昼食とトイレ交代のための要員よ。セーラたちはそれぞれの学科で売り子してるから、彼ら以外には頼めないのよ」 


 エイベルは沈黙し、オレっちもあえて抗議しなかった。それを見たボビンも、諦めたようだ。

 まあ、オレっちのミュージカルは初回公演が終わったし、ボビンんとこは魔導書の研究内容をまとめた紙展示だし、確かに予備人材としては使えるわな。それに──


 「この服、もっと大きいサイズないの?」

 「あ〜、ここに置いてある商品だけなので」

 「俺、この帽子にするよ」

 「ハイ、これは、2万ベルビーだね!」

 「これを下さいな」

 「はい〜!ありがとう〜ございます〜!」


 めっちゃ、忙しい〜!!波状攻撃!?


 「このリボン、ピンクとパープルの色違いで買うわ」

 「ヘイヘイ、まいど〜!コレは、将来有望な作り手の作品ですよ!お嬢さん、お目が高いね〜!」

 「へ〜、この紫の服、オシャレじゃん!」

 「おっと、そこのお兄さん、なかなかの目利きだね〜!ついでにこのオサレなスカーフもどうだい!?セットで買うなら、10%引き──」


 「ちょっとタロス!勝手に値引きしないでよ!それに、アンタのそのおかしな売り方は、一体、何なの!?」

 リリアンの問いに、オレっちはニッコリと微笑んだ。

 「何って⋯⋯よくある売り手のトークだけど?」


 前世の。

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