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第六十七話 獣学校の年末イベント①

 お屋敷の冬パーティが、なんとか無事に終わった。

 最後に、旦那様一家が用意してくださったプレゼントがクジ引きで配られ、オレっちは、ちっこい真珠のついたネックレスを頂いた。

 当然、かーちゃんへと渡す流れだが、ふと前を見ると、ペルティナさんが呆然とした表情で、両手に握った物を見ていた。


 んん!?アレは──まさか!ゴッドゴーレムシリーズの敵役の一体──ダークゴーレム!?


 オレっちはシュパっと、ペルティナさんのもとへと駆け寄った。


 「ペルティナ姐さん──オレのと交換しておくんなせぇ!」


 取り引きは無事、成立した。






 ◇◇◇◇◇


 獣学校の年末イベントの二日前──それまで、パートごとに練習していたミュージカルを、通しで演ってみることになった。

 この日まで、オレっちは自分の出番前後の練習しか見ておらず、あのチュネミ三兄弟やミンフェア先輩、音楽担当のフランシアさん──などの練習は、全スルーしてきたのだ。

 正直、興味がない上に、見るだけでストレスを感じるので、あえて見なかったと言うべきか。






 ◇◇◇◇◇ 


 『アアア〜ッ♫私の♪私の髪が〜♫』


 眠りから覚めたヘルベニアは驚く。青銀の長い髪が、項からバッサリ切られてしまっていたからだ。


 『ザマァみろ♪』

 『ハハハ♫上手くいった〜♪』


 青銀の髪の束を持った加護種が、その髪を高く持ち上げ、踊る。

 ヘルベニアは大勢の神々の神力で、深く深く眠らされていたのだ。一柱一柱は、彼女よりも神力は劣るが、三柱以上もいればその神力を合わせて、格上の彼女を眠らせることができた。

 しかし、ヘルベニアに苦手意識を持つ神々は、彼女に触れることを嫌がった。(どんだけ嫌われとんねん)


 『でも俺たちには〜♪関係無いのさ〜♪♪』

 『我が神の敵は〜♪我が敵〜♪』


 日頃からヘルベニアに小石や虫扱いされている加護種たちは、ここぞとばかりに、躊躇なく髪を切り落とした。


 『勇気ある我が眷属が〜♪意地悪なヘルベニアの髪を切り〜♫懲らしめた〜♪♪』

 『この髪には〜♪多くの神力が宿っているのだ〜♫』


 神々の髪や翼、体毛には、神力が溢れている。逆に言えば、それを失うと神力が激減してしまうということだ。髪だけならば元に戻せるが、神力はそうはいかない。ヘルベニアは、泣く泣く神々の世界へと帰っていった。


 『ヘルベニアの〜♪髪で〜♪神器を造ろう〜♫』


 神々は、ヘルベニアの髪で盾を造った。

 その盾は、青銀の光を放つ神器で、防いだ魔法を吸収し、敵に倍返しをするという。盾は加護種たちに下賜され、その後の神々の争いで、多くの英雄たちの手に渡ったと伝わっている。

 実際に存在したその盾は、海の呪い後の混乱の最中、行方不明となり、今日まで発見されていないという話だ。


 『ヘルベニアの盾は〜♪今、いずこ〜♫』


 ジャカジャカジャ~ン♪ジャンジャンジャ~ン♫

ベベべンベンベンベン♫


 フランシアさんの奏でる弦楽器の音が、他の楽器よりも大きく響いて、終盤を盛り上げる。


 ⋯⋯アレ、どー見ても、三味線なんだけど。なんか、思ってたんと違うなぁ⋯⋯。

 ミンフェア先輩は、ヘルベニアにイタズラされて、キイイー!っと憤慨する女神様役だから、イメージ通りだったんだけど。

 ちなみにあの三兄弟は、ヘルベニアに川に突き落されて溺れかける役で、『うわ〜んチュ♫』『ひ〜いぃチュ♫』『お助け〜チュ♫』って高速回転しながら踊ってた。


 これを初日と最後の日の二回、演るのだ。ラストで、全員揃ってのダンスもあるから、大体、一時間半ぐらい。

 それにしても、舞台全体のセット(背景も含めて)を、ほぼ立体映像のみで構成させてるって、スゴいよな。結構リアルだから、前世のプロジェクション・マッピングの進化系⋯ってとこかな?






 ◇◇◇◇◇ 


 あと五日で、今年も終わりだ。そして、獣学校の年末イベント全4日間行程の一日目が始まった。


 「頑張ってね〜、タロス〜!初日は〜僕も〜観客席で観てるから〜!」

 「タロスの出番って、中盤ぐらいだっけ?」

 「ダンス学科の演し物は人気があるから、早めに行った方がイイわね、きっと!!」


 テンション高めのエイベル、ボビン、リリアンの言葉を聞きながら、オレっちのテンションは、段々と低くなっていった。

 ⋯⋯オレっちの役って、落とし穴に落とされたマヌケなカリスなんですケド。(涙)





 

 ついに始まったミュージカル、『ヘルベニアの盾』!──とはいえ、オレっちの出番まで時間があるため、ちょい暇なのだが。


 「⋯⋯結構、人が入ってるな⋯⋯」


 獣学校の第一校舎の最上階にある特別別棟──校舎内にも拘らず、天井の高い、広い空間に設置された舞台の袖から、そっと観客席を見る。観客席は段差のある構造となっており、この別棟がイベント用の場所である事がよく分かる。

 え~と、エイベルたちは──


 「アレ?あの人──」


 最前列の観客のなかに、見知った顔が二人いた。

 照明が消された観客席は暗いが、この距離ならば、獣人視力のおかげで、余裕で見れる。


 「やっぱり──氷獣祭の加護人だ!」


 いや、マジで驚いた。リブライト先生と──あの氷獣祭で会った加護人が、並んで座っていたのだ。

 知り合い?ただの同僚?二人の関係性は分からないが、両者ともにこやかな笑顔で、ミュージカルを観ていた。

 折しも場面は、チュネミ三兄弟が川に突き落され、グルグル回転しているところだった。二人の笑みが深まるのは、微笑ましいからからなのか、それとも、単にあの三兄弟のマヌケなダンスに笑っているだけなのか──ハッ!そんな事よりも、エイベルたちの位置を確認しないと⋯⋯いたっ!


 ど真ん中やんけ!!


 リリアン、エイベル、ボビン──あ~、あの位置だと、オレっちが落とし穴に落ちる様が、よ〜く見えるだろうな〜。

 ⋯⋯まあ、もういっか。どっちにしても、マヌケなカリスだもんな。むしろ、堂々とした演技で助け出されよう。

 今日のオレっちのダンスは、一味違うぜ!!(ヤケクソ)

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