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第六十六話 ヘルベニアの盾

 ヘルベニアの盾とは?

 むかし、むかし。古き神々が眷属たちを従えて、地上で好き放題していた頃のお話。



 青空が広がり、風がそよいでとても気持ちの良いある日の午後、ラブリットという兎激似の姿をした神様が、同じ姿をした眷属たちとともに、空に浮かんだ島で、うたた寝をしていた。

 一番大きな体をした、金色に淡いピンク掛かった体毛のラブリット神を中心に、大人から子供までの眷属たち──神よりもはるかに小さな体の者たちが獣の姿になって、神の背や腹、手足や尻尾に体を密着させながら、グーグー眠っていた。

 どうやら、この時代の眷属──加護種たちは、完全な獣化が可能だったらしい。


 大きなモフ玉⋯ではなく、神と加護種たちが眠ってから小一時間──突然、大雨が降り、ラブリット神と兎たちはあわてて、跳ね起きた。ところが、空は晴天のままで、雨雲どころか白い雲さえ見当たらない。

 ラブリット神と加護種たちは、首を傾げた。



 

 その様子を面白おかしく見ている者がいた。彼女の名はヘルベニア。

 青銀の髪と銀色の瞳、そして鴉のような黒い六枚の翼を背に持つ、人型の女神である。


 ヘルベニア神は、古き神々の中でも異質な神で、高い神力と多くの知識を有している反面、とんでもなく歪んだ性格をしていた。

 彼女もまた、この魔素多き下位世界へと降り立った一柱だったが、眷属も作らず、大神のどちらの派閥にも属さず、ただ毎日、面白そうなことだけを考えていた。

 ヘルベニア神曰く、『下位世界の生物なんて、あっという間に死んでしまうし、私たちだって、この次元の世界に居られる時間なんてそう長くないんだから、わざわざ国なんか作ってどうするのよ。バッカみたい!』


 この時代にも、二柱の大神を中心に、力ある神々の支配する幾つかの国があり、彼女はそれを無駄だと思っていた。そして、その無駄な国々を管理するために働く眷属神たちを、冷めた目で眺めていた。


 神様にも個性があり、その考え方も様々である。それはいい。

 だが、困ったことに、この女神の趣味は、他の神々とその加護種たちに対するイタズラだった。


 特に、神々が加護種たちと楽しげに過ごす様子が気に入らないようで、先ほどのように、眠っているラブリット神と加護種たちの上に水をかけたり、神々の宴会の時に、酒を水に取り替えたり、時には加護種たちの神に化けて騙したりもした。


 当然、ターゲットにされている神々も、その加護種たちも怒っていた。だが、どれも本当に些細なイタズラばかりだったので、罰を与えようにも微妙過ぎて、大神たちに訴えることができなかった。

 また、ヘルベニアもそれを解った上で、自分より格上の神々やその加護種たちには手を出さなかったし、大事に至るような騒ぎを起こさなかった。実に狡猾である。


 そこで、被害にあった神々と加護種たちは、ヘルベニアにイタズラを仕掛けることにした。イタズラにはイタズラを、である。



 ──とまあ、こういったあらすじで、ストーリーは進んでいく。それは、いい。いいのだが──






 『ああ〜♪誰か〜誰か〜お助けを〜♪♪』

 『まあ〜なんてヒドイことを〜♪こんなに深い落とし穴を〜掘るなんて〜♪♫』

 『かわいそうな〜カリスの子〜♫ヨ〜イショっと〜♬』


 ヘルベリアが神力で掘った落とし穴に落ちたカリスの子供を、スキル《植物操作》で伸ばした長い蔦で、大人たちが救ける。


 『本当に〜ありがとう〜♪ございます〜♫』


 舞台中央のセリから出た後、クルクル回って、そのまま退場。


 これがオレっちのメインの出番。穴に落ちた、マヌケなカリス。

 歌詞台詞も少なく、ダンスも回転するだけで楽は楽だが、役柄が⋯なぁ。


 『オ〜ホホホホホ♫ああ〜♪面白い〜♫白い〜毛玉が〜ホールイン〜♫』


 ヘルベリア役の鴉お姉さん──アリアナ・ガラスさんが、甲高く笑った。

 青銀のカツラを着けたアリアナさんは、音魔法の使い手で、音楽学科の中では一番の声量を誇る。声による感情表現が上手いだけに、なんか腹立つけど。


 「じゃあ⋯⋯オレの出番練習は終わったので、今日は帰りマス」

 「あら、タロス。他の人達の練習ハ、見ないノ?」

 「ハイ。これから家に帰っても、別のダンスの練習があるので⋯⋯」

 「ああ。住み込み先のパーティの演し物ネ。あっちの方が先に開かれるんだっケ?」

 「ハイ。あと一週間しかないんで」


 オレっちはそそくさと、練習場所を後にした。






 ◇◇◇◇◇ 


 タン、タン、タカタカタ〜♪チャ、チャ、チャカチャカチャ〜♪♪トゥル、ル、ル〜ルルルル〜♫


 「そこ、腕を上げるのが速すぎ!こっちの子は、遅い!」

 「ウ~ン⋯⋯君とキミは、後ろの方がいいかな?」


 今回はお屋敷の子供たち全員での集合ダンスなので、振り付けのタイミングを合わせるのが大変だ。いつもの秋田犬姉さん──ではなく、フェレット姉さんの指導のもと、オレっちたちは手足、ついでに尻尾や翼を揺らしながら練習した。


 フェレット姉さんこと、ミルコットさんは、実はダンス学科の先輩なのだが、脚を痛めて学科の方は休止しており、ダンスに詳しいことから、今回の指導を務めることになった。


 オレっちとしては、ホントは夏と同じ歌唱大会が良かったんだけど、それだと大人の方がメインになってしまうので、今回は、ダンスにしたそうな。

 まあ、ダンスなら配役等で揉めることもないし、定番ダンス曲だと、動作も楽。

 左隣のエイベルと右隣のクルルス──ウリ坊似の猪獣人の子と手を繋ぎながら脚を上げたり、腕を組んで単純なステップを踏むだけだから。


 ふんふん♪フンフン♫


 「タロス君!足が逆、逆!!」

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