第六十五話 冬の始まりと過密スケジュール
毛の無い人間であった頃なら、そろそろ冬用のコート出さなきゃ!っとか言う季節なんだけど、毛玉の今世は、まだ動いたら暑いな、っていう感じ。
テストもあるし、お屋敷の冬パーティーもあるし、いろいろ忙しいな〜と思っていたら、獣学校の年末イベントもあるってんで、さらに予定が増えた。
夏休みとは違い、冬休みは数日しかないんだけど、その休みに入る直前に、各学科の発表会をするらしい。
全部で4日間──在学生と教職員のみのイベントで、外部の者はたとえ親であろうと、入れない。とにかく生徒数がハンパじゃないので、人の移動が大変なのだ。
「それでネ。タロス。ダンス学科は毎年の恒例で、ミュージカルをするノ」
嫌な予感!!
レキュー先生の次の言葉が怖い。
「それでネ。タロス。今年の選抜メンバーの一人に、貴方が選ばれたノ!」
「⋯⋯他のメンバーは、どこのどなたサマなんでしょうカ?」
「まず──ミンフェア」
オレっちは微かに頬袋を膨らませた。
「次に、ゴルー、シルー、ブローのチュネミ三兄弟」
もう限界まで、頬袋が膨らみましたがな。
秋の大祭でオサラバしたはずのミンフェア先輩。あのブレイキンもどきでダンス評価が爆上がりの、パクリ三兄弟。
「あとは──と、──や──ネ。他にも──」
初めて聞く名前が、次々と挙げられていく。
「申し訳ないですけど、オレはこの時期忙しくて、練習する時間が無いデス」
オレっちにストレスをかける連中とは、踊れない。
「そこは大丈夫ヨ。貴方の出番は、ホントに少ないかラ」
⋯⋯何だろう。断ろうとしていたのに手番が少ないと言われると、プライドがこう⋯傷つくなぁ。
「それでネ。このミュージカルは音楽学科との合同なノ。だから、練習もとっても賑やかでネ。楽しいわヨ〜!」
「⋯⋯」
音楽学科か。ちょっと興味が出てきたかも。オレっちでも奏でられそうな楽器があれば、やってみたい。
◇◇◇◇◇
テストは特に問題なく終わった。新しく編入してきた生徒たちとも上手くつき合えている。そうした会話の中で、フェンリーとメロスが年末前からそれぞれ、ウルドラとポラリス・スタージャーに帰るという話が出た。
「ウルドラの年始の行事には、毎年、参加してるんだ。だから学校に戻るのは、少し遅くなると思う」
フェンリーの家族は、今はまだウルドラ在住だったっけ。
「オレも、大武闘会──冬の陣を観に行くから、あっちに戻る」
どうしよう。もう優勝者の転写真は、要らないと言うべきなのか⋯⋯マジで困るんだよ、あの血だらけの顔転写。捨てるに捨てられないから、机の引き出しにしまったまま。
申し訳ないけど、最終的にはお焚き上げして供養しようかと思ってる。(本人は死んでないけど)
◇◇◇◇◇
「今年の〜冬のパーティーは〜、皆で踊るダンスなんだって〜」
エイベルの情報が、オレっちの体をグラつかせる。
「⋯⋯オレ、ダンスばっかなんだけど⋯⋯」
しかも、皆でって──横並びのラインダンス!?それとも、前世の小学校でやってた団体ダンス⋯?
◇◇◇◇◇
「さあ、皆〜顔合わせするわヨ〜!」
ダンス学科で一番広い第二教室──そこには、レキュー先生に集められたダンスの精鋭たちと、音楽学科の楽器テクニシャンたちがいた。
オレっちやあの三匹のスナネズミどもより、ずっと歳上の人たちばかりで、ちょっと緊張した。正直、オレっち、場違いかも⋯⋯。
「あ〜ら。タロス君じゃない。秋の大祭ぶりね〜!」
げっ!アナタは──フェアリー獣人の片割れ、フランシアさん!?
「そうなのよ。何故か、タロスも選抜されたのよね〜。ハッキリ言ってナゾだわ」
ミンフェア先輩の言葉が痛い。──ハッキリ言わんでもええがな!このエセ獣人!!
「フランシアさんって、音楽学科だったんですね⋯⋯」
「ええ。私は魔法楽器の専門なの。一番得意なのは、縦型魔法琴ね〜」
縦型魔法琴⋯ああ、ヴァイオリンとかハープ?
ふ~ん、歌とかじゃないんだ。意外。見た目じゃ、チョウトンボみたいな派手な翅持ちの美少女だから、アイドルぽいんだけどな。ふむ。そーいう感じなら、ミンフェア先輩もそうだけど。目立つの大好きだし。
「ハイハイ!そこ、勝手なお喋りは駄目ヨ!」
怒られた。
「ねぇ〜、ミンフェア。貴女、今回のミュージカルのタイトル知ってる〜?」
「さあ?どうせ定番じゃない?」
「定番だと、楽器変えなきゃダメなのよね〜」
注意されても止めない私語。相変わらずだな。
オレっちは、静かに距離をとった。また怒られるのは御免だからな。
「今回のミュージカルは──『ヘルベニアの盾』ヨ!」
ヘルベニアのタテ?⋯って、ナニ??
☆ オマケ ☆
ゴルー、シルー、ブローのメダル色トビネズミ三兄弟の加護名は、チュネミ。
古き神々の三兄弟神、チュネミ、チューティ、チュキュルの眷属(加護種名は、長男神の名前で統一されている)
テレパシースキルがあるにもかかわらず、三人とも声に出して話しまくる。これは両親の意向。
社会に出た時、テレパシー癖がつくと他人との会話が困難になるため、あえてそう育てた。
タロスが思うほど悪い子たちではない。ただ、殺意を抱くほど無邪気なだけ。




