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第七話 神々の戦国時代──飛び入り勝者の時代

 人間ぽい黒い影が巻物の上に立ち上がる。おお、立体!しかも動いてる!


 「もともと私たちの祖先は、この形をしている生物──『人間』という種だったと伝えられているわ。そして周りにいるのが『動物』と『昆虫』」


 犬や猫、鳥、虫たちの黒い影が、それぞれ動き出す。駆け回り、宙を舞い、飛び跳ねる。

 うんうん、前世と同じ動きしてるね。つまり、神話時代以前は、前世と同じような世界だったのか。

 「もともと魔素はあったから、人は魔法を使えたし、魔導器も魔法具も使用していたらしいわ」


 撤回。最初から魔法ありのファンタジー世界でした!


 「ある時、魔素が急激に濃くなったの」


 かーちゃんが巻物をさらに広げると、黒い影たちがのたうち回った。そのうち草や木らしき大きな黒い塊が生えだし、巻物上はワサワサとした密林のようになってしまった。やがて人の影は意味もなく徘徊し、動物たちや昆虫たちは何倍もの大きさになって動き回る。

 黒一色のカオス。立体なだけに動きがキモい。


 そこに一点の光が灯る。黒い影たちの動きが一斉に止まった。


 「古き神々の降臨──」


 白い光が増えていく度に、黒い塊でしかなかった草木が、急速に秩序ある本来の形に戻っていく。サイズは大のままだが。人は動きを止め、動物や昆虫たちは少しだけ縮んでいく。


 「ここで初めて私たちは『加護』を頂いたの。眷属になることで濃すぎる魔素に耐性がついて、理性が戻ったと言われているわ。動物や虫たちは加護ではなく神々が作り変えて、魔素耐性を持つ魔獣や魔蟲にしたと伝えられているわね」


 なるほど。加護ってのは、知的生命体限定なのか。まあ、ふつ~に考えて、獣や虫を眷属にしたくないわな。生物カーストあるある。

 

 「そして、古き神々と私達の共存共栄時代。最も平和で最も栄えた黄金期──姿形は違えど、神々のもと、魔法文明の再構築と発展は凄まじく、特に魔導器や魔法具は、旧世界や現代とは比べものにならないほどの高性能だったそうよ」


 かーちゃんの言ったとおり、立体の黒い影は、様々な形に変化していた。獣人の形をした影、人の形のままの影、長耳、ずんぐり体型──ん?なんや、コレ!?


 「かーちゃん、この影、何?こっちは?」

 「エルフとドワーフよ。小獣国──ビスケス・モビルケに定住している人は少ないから、タロスはまだ見たことがないのね」


 エルフ&ドワーフ!!おったんかい!大獣国──ポラリス・スタージャーの大型獣人はお屋敷にもいるけど、この手のファンタジー要員は見たことなかった!つーか、アレ?人間も見たことないような⋯?


 「こっちも見たことないよ、かーちゃん」

 人型を指差すオレっち。

 「それは人型の神々の加護持ち、加護人(かごびと)ね。加護人の国は遠いからなかなか行けないけれど、それでも首都にいれば、彼らを見れるはずよ」


 オレっちの今の行動範囲じゃ会えてない。そもそも、お屋敷の敷地内以外は、限られた場所しか出入りできてないし。


 「そして、ここから古き神々の争いが始まるの」


 オレっちがラノベファンタジー洗礼を受けている最中、かーちゃんは淡々と魔法絵巻を広げていく。


 「降臨してくる神々の数が増えてくると、いつの間にか神々同士で争うことが多くなってきたの。そのうち、1、2を争う上位の神二柱が下位の神々を巻き込んで大きな喧嘩を始めてしまったの」


 与党と野党の争いか派閥争い(内輪もめ)かは気になるが、それよりも魔法絵巻の光の点滅がスゴい方が気になる。いつの間にか赤と青に色分けされとるし。大が2つ、小の数が多すぎて、クリスマスツリーの装飾電球みたいになっとる。


 「当然、それぞれの眷属も敵味方に分かれて戦ったわ。その争いは、魔素が薄まり神々が天に帰っても続いた──結果、地上は荒廃し、文明は衰退していったのね」


 魔法絵巻の黒い影達が戦い、倒れていく──魔導器や魔法具が発展していたことから、大規模な破壊があったのだろう──瓦礫と化した建物が立体化し、その凄惨さを物語っていた。

 問題なのは、それを瞬時に修復できる『神』という存在がすでにいないことだ。しかも、地上に残された者たちには加護がついたまま。


 なんで神々は終戦宣告しないまま、帰っちゃったの!?無責任過ぎない!?

 代理戦争させたまま知らんぷりを決めこんだ前世の国々を思い出す。

 オレっちが独り憤慨していると、魔法絵巻の立体絵の黒い影が、背中に大きな翼を持つドラゴンになっていった。

 ワオ!ゲームでめっちゃ見慣れた西洋竜!


 「その争いを止めたのが、竜の神様だったの」


 んん!?⋯⋯魔素が薄いのになんで実体化できんの?


 「なんで竜の神様だけ、この世界に残れたの?」

 「違うわ。竜の神々は、()()()()()()()()()。この時になって初めて降臨されたのよ。なんでも、竜の神々は他の神々とは違う界法則をお持ちで、魔素濃度には左右されないのだとか」


 ⋯⋯神様の中にもいたんだ、チート持ち。遠い目。


 「降臨された竜の神々は争いを止めた後、種族を問わず加護を与えたの。元々の加護を解除した後に新たな加護を与え、竜神の眷属としたのよ」


 魔法絵巻上の人型や獣人型の黒い影が、形を変えていく──角を持った人型──これが竜人なのか。


 「新たに竜人となった者たちの多くは、争いに疲弊した世界を嘆き、その原因となった古き神々に不信感を持ち始めていた者たちだったの。彼らはどちらかというと少数派だったみたいだけど。でも、竜の神様にも好みというものがあるからね。皆が皆、眷属になれたわけではないわ」


 好みね。まあ、選ぶ権利はあっち側にあるんだし、当然か。そもそもオレっちたちだって、獣神に気に入られて加護を与えられた者たちの子孫だし。歴史は繰り返すってか。


 「そして世界は竜の神々と竜人を中心として、再び秩序ある文明と文化を取り戻したのよ」


 かーちゃんの言葉に合わせるように、大きな竜と竜人の影の下に、小さな加護人や獣人、エルフやドワーフの影が立つ。

 「竜の神々は、かつて降臨した古き神々とは違って、世界への干渉はほとんどなさらなかったと言うわ。だから竜人たちが代理人としてこの世界を統治することになったの」


 かーちゃんが魔法絵巻を、テーブルの端から端まで大きく広げる。

 竜人たちが他の加護種たちの間に立ちながら、指示するような動作を始める。

 なるほど。立ち位置が上の動きをしてますな。魔法絵巻の上が復興した建物だらけになったせいで、竜人=現場監督みたいな絵面になっとるが。


 「その時代は全ての世界が大陸名である『ウルドラム』だったから、私たちは皆、同じ(ウルドラム)の民だったのよ。だから今でも神話時代と同じく、言葉と文字はどの国でも共通だし」


 文化をそのまま継承したから、言語が変化しなかったんだな。良きかな、良きかな。

 前世のオレっちは、国語の成績は良かったのに、何故か英語は赤点スレスレだった。そもそも日常で使用する機会が無い言葉なんぞ覚える気がせんわ。


 オレっち、こーいうどーでもいい事だけ記憶が鮮明なんだよね。⋯なんでや?

 

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