第六十三話 大祭後の加護種たち
今年の秋の大祭で、魔笏を落すことはなかった。舞も去年よりもキレがあり、我ながら健闘したと思う。
だがしかし、ラストの花菓子シャワーが降り注いだ直後に大粒の雨が降り出し、スタジアム内にいた舞い手及び観客は、ずぶ濡れとなってしまった──要するに、毛がぺちゃんこになった貧相なモフの群れになってしまったのだ。
ずぶ濡れべショベショになったオレっちたちは、大急ぎで退場し、風魔法でモフ毛を復活させたが、衣装を袋にして集めた花菓子は、濡れてしまった。風魔法で乾かしたが、少々、風味が抜けてしまったような気がする。
「何年かに一度は、雨の大祭になるッチ。自然の摂理だから、これは仕方がないッチ」
チルルーさんがそう言う一方──
「もうッ!髪がグシャグシャだわ!」
「最悪!二時間もかけてセットしたのに〜!神殿も、風魔法で雨雲を散らしてくれたらよかったのにぃ〜!」
ミンフェア先輩とフランシアさんが、キーッと騒いでいた。
「⋯⋯自然のエネルギーは強大だッチ。神官様たちの魔力が尽きてしまうッチ。しかもその反動で、違う場所が局地的豪雨になるッチ」
まったくですな。考え無しの愚かなフェアリー獣人どもよ。
「じゃあ、また来年、会おうッチ!」
「はい!チルルーさんも、お元気で!」
立食パーティ後、オレっちとチルルーさんは、来年の再会を約束して、お別れした。
今年の秋の大祭も、無事、クリア。これでダンス学科でのミンフェア先輩の指導も無くなり、オレっちの心が軽くなった。ルン♪
◇◇◇◇◇
「タロス、今回は普通に踊れてたね。見ていて心配だったから、ホッとしたよ」
「魔笏も落とさなかったしね」
「⋯⋯普通⋯?」
秋の大祭明け、小獣学校へと登校すると、いつものメンバーがオレっちの周りに集まってきた。そして、発せられたフェンリーとボビンの言葉に、少々の疑問を持つ。
「でも〜、タロスはスゴいよね〜!先頭なのに〜全然緊張してないし〜」
「そうねー。むしろ、オレを見ろ感がスゴいわー」
「でも、三番目と四番目の女の子たちもそんな感じだったし⋯⋯緊張してたのは、二番目と五番目以降の子たちからだったよね!」
エイベルのは褒め言葉して、リリアンとエメアのそれは、オレっちとミンフェア先輩たちが図太いっていうこと?
あの二人はともかく、オレっちだって、一応、緊張はしてたんだけどな。⋯⋯まあ、ホントに最初の一歩だけだったケド。
大祭全般としては、進行もスムーズで、賢者様もまだ起きてたし(去年よりボーっとしてたケド)最後の最後に雨が降ってきたけど、概ね大成功だったといえるだろう。
「フン。ビスケス・モビルケの大祭とやらは、軟弱だな。こう──血肉が湧き上がる感動がない」
スコティッシュフォールド顔をしかめたメロスが、腕を組みながら皮肉げに言った。
「ポラリス・スタージャーの夏と冬の大武闘会は、あんなハンパな祭りじゃないぜ。最初から最後まで興奮の坩堝だ」
「え~と、アッチはプロレス──じゃなかった、格闘技の祭典なんだよな?」
王様主催の無差別級。死者も出るって話だから、あの頭から血を流す転写真を見てビビってるオレっちじゃ、興味はあっても直視できないかも。
「そうさ。強い者が勝つ。それに、なにも大獣人だけの参加じゃない。加護人も小獣人も⋯まれにエルフだっている。魔法とスキルだけで勝負ってことになるがな」
「そりゃあ、大獣人と体力で勝負できるのは竜人ぐらいだからね」
フェンリーがそう言うと、メロスも頷いた。
「そうさ。でも、竜人たちはウルドラからは出られない。ウルドラム大陸全域での体力ナンバーワンは、実質、大獣人だ」
「あ~、そうだね〜。この国の〜警備の人も〜大獣人が多いもんね〜」
エイベルの言葉通り、大獣人はウルドラを除けば、他の国々でも警備員だったり傭兵だったりすることが多い。さすがに獣警団や小獣軍では小獣国籍の必要があるが、市井では問題にならないからな。
⋯⋯というより、ごく自然なメロスとの会話に驚いた。こんなにも積極的に会話に入ってくるなんて。
もしかして、手紙効果?
「おい、タロス。もう、あのおかしな手紙は要らねーからな」
「キュ?おかしな手紙って?」
「アレは手紙じゃなくて、お前の日記みたいなもんだろ」
「⋯⋯」
思い返せば、確かに近況報告みたいなものだったかも。だって、それしか書く内容がなかったし。
「これからは口で言えよ。その方が早い」
⋯⋯。メロスが──表情は変わらないが、メロスの折れ耳と二又の尻尾が、ピコピコと動いた。これは⋯⋯メロスの漏れ出た感情なのか!?
「だな。これからは面と向かって言うよ。ところで──メロスはどの学科にしたんだ?」
「⋯⋯いきなりソレか」
メロスの呆れ顔が目に映る。だって、スゴ〜く気になってたんだもん!