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第五十九話 ある所には、有るもんだ。

 それからキッチリ二週間──ヴァシュラム・ルアのアチコチを観光しまくり、いろんな国の料理を食べまくった。


 そして、一つの発見をした。


 オレっちは、それまで自分は大食漢だと思っていた。お椀に二杯、三杯のご飯は当たり前。だが──聖竜都で出された料理の数々を見て、それは勘違いであったと気づかされた。

 思えば、最初に注文したウルドラ料理で、やけにボリュームがあるなぁ⋯とは思っていたのだが。


 そう。オレっちが大食いなのではない。単に、小獣国の標準サイズのお椀が小さかっただけなのだ。

 そして、当然、聖竜都ではどんなメニューでも小獣国の倍近い量があるわけで──言い訳ではないが、多少、太るのは仕方が無いことだと言えよう。

 しかし⋯⋯


 オレっちは、隣を歩くエイベルをチラ見する。

 なんで、エイベルは太らないの?オレっちと同じぐらい食べてる筈なのに。ナゾだ。






 ◇◇◇◇◇


 さて、ヴァシュラム・ルア旅の良き思い出を、振り返ってみよう。


 三日目に行ったウルドラの中央市民プールは、入場料こそ高かったが、加護種別のサービスが行き届いており、それらはビックリするほどハイテクだった。

 例えば、オレっちたち獣人が入水するための事前準備──つまりは毛の洗浄だが、なんと浄化魔導器なるものがあったのだ。

 ほぼ使い捨てや簡易的な魔法()ではなく、耐久年数と持続時間が長く、かつ高性能な魔導()

 実のところ、浄化魔導器自体は、ビスケス・モビルケでも使用されている。小型浄化魔導器──よーするに、トイレ。

 トイレは基本的には水洗式なのだが、お尻などを部分的に浄化する機能があり、毛の多い獣人の衛生を保ってくれているのだ。


 でも、あんな風に全身浄化されるのは初めてだった。一瞬で頭から足先までがサッパリして、実に爽快だった。


 他にも、竜人や大獣人用の深めのプールとは別に、小獣人用(子供用?)の浅いプールももちろんあったし、流れるプールやゆっくりとした渦が巻くプール、螺旋状になった長い滑り台があり、エイベルと二人、何度も往復して遊びまくった。

 その間トムさんは、ほぼプールサイドのパラソル付きサマーベッドでくつろぎ、遊び倒したオレっちたちが起こすまで、ずっと寝ていた。


 「最初の十分ぐらいは、水に打たれておったんじゃがのぉ」


 ああ。あの滝のようなプールね。遊ぶというよりは、滝に打たれる修行僧にしか見えなかったけど。




 四日目には、家主である長男さんと対面した。


 「あ~⋯⋯アントム・ハムーです。よろしく⋯⋯」


 アントム⋯⋯アン&トム。まんまやんけ。


 ツッコミはさておき、目の前のくたびれたオッサンハムスター獣人は、これまたくたびれたグレーの頭部の毛をワシャワシャしていた。


 「アントム⋯⋯お前、家を出てから風呂に入ってないじゃろ。シャワーだけでもええから、汚れを落としてくるんじゃ」

 「ああ、うん⋯⋯」


 ここにあのプールの浄化魔導器があれば、一瞬でキレイになれるのに。一家に一台は欲しいよな、アレ。


 結局、シャワーを浴びて眠気を感じたのか、そのままアントムさんは寝てしまい、次の日の朝には、また仕事へと行ってしまった。

 トムさん曰く「また二日後ぐらいには帰ってくるじゃろう」とのこと。


 五日目に紹介されたのは、次男のプルカさんだった。

 プルカさんはアンさんと同じくチワワ似の犬獣人で、ウルドラ大手の商会で働いているんだとか。

 奥さんと子供さんは、なんと丸い熊耳と丸い尻尾を持つ加護人。どうやら加護人は、翼が生えてたり、化けたり、半獣人だったりの、人型を基本とするなんでもありの加護種だったらしい。


 奥さんは、青銅色の髪と淡い緑色の瞳の可愛い人だった。

 息子さんは、プルカさんの毛色であるパステルピンクの髪に奥さんと同じ緑色の瞳を持つ、なかなかの美少年。ハッキリ言って、髪色以外プルカさんの外見的要素はない。

 加護種の素体は人間だから、外見はどうあれ、普通の夫婦ではあるんだけど、奥さんと子供さんとの身長差がなぁ。どっちも20センチ以上あるんだよね。


 「父さんもカワイイけど、君たちもカワイイね!」


 息子にカワイイと言われる父親──う〜ん⋯なんとも、ビミョーだ。



 それからは、聖竜都内と郊外の観光地巡りの日々で、トムさんとエイベルと共に、目新しい風景や歴史的な建築物を観て周り、その周辺の飲食店で食べまくる⋯という繰り返しになっていた。


 特に気になっていたウルドラのダンジョンは、見学予約が滞在期間中に取れず、断念。その近くにある白の竜賢者様宅も、一般公開されている敷地が無かった。

 それでも、少し離れた遊園地の観覧車から遠目に観ることができたし、園内の魔法遊具で遊びまくったオレっちとエイベルは、十分に楽しむことができた。ちなみにトムさんは、涼しい休憩所のベンチでお昼寝。保護者あるあるの光景。





 楽しい時間はあっという間に過ぎ、帰国前日は、お土産選びのための商店巡りとなった。

 それまでに行った観光施設でも買っていたが、それらはポストカードやキーホルダーのような小物ばかりで、メイン的な大きな買い物はしていなかったのだ。

 

 「さて、何にしようかな〜。やっぱここは、竜的な何かを買ったほうがいいよな!」

 「そうだね~。前は買えなかったし〜」

 「⋯⋯ああ、うん」


 去年は竜じゃなく、鳥浮船の鳥だったな。竜人国に来て鳥グッズを買うという、痛恨のミス。


 「ねぇ〜タロス〜アレって〜」

 「ん?」


 エイベルの視線の先には、半額や最終セールの文字が目立つコーナーがあった。そこには、山と積まれたストールがたくさん──いや、コレは。


 「風衣(かぜごろも)?」

 「だよね~」


 あのナマキーの母、コイーナが自慢していた風衣だ。


 「今年に入って安価なコピー製品が出回ったらしく、一気にブームが下火になってしもうたようでの〜」


 コピー商品⋯バッタもんか。コイーナめ。今頃、半額となったセール品を見て、さぞかし悔しい思いをしているだろうな。ザマァ。


 「それより、あの竜Tシャツなんかどうじゃ?」


 トムさんの指差した方向には、白地に赤い竜という、前世の国旗色っぽいTシャツがあった。試しに体の前で広げて見る。デカい。デカ過ぎる!


 「あっ。ここは大人向けじゃったな!子供服コーナーの方へ行こうかの!」




 「ん?」

 子供服コーナーに移動すると、なぜか、白いヌイグルミを抱えた竜人の女の子に凝視された。


 「──ホンモノのカリスだ!」

 「キュ!?」


 ビックリした。どマイナーな小獣人であるオレっちの加護種名を知っているとは!!何者!?


 「このコとそっくりだ〜!」

 「ん?」


 オレンジ髪の淡い緑色の角持ち幼女は、抱えていたヌイグルミをオレっちに向けて、つき出した。

 白い──ピンクの花冠を頭上に縫い付けられたリスのヌイグルミ──オレっち!?いや、どっちかというとあのカモ⋯父という名の不倫クズに似ている気がするが。


 「小獣人のヌイグルミは、竜人の女の子には人気があっての。特に絶滅種や希少種がよく売れるとプルカが言っておったの」


 なんですと!!ヌ、ヌイグルミのコーナーは──あった!


 「わ〜!タロスが〜いっぱいいるよ〜!」


 違うぜ、エイベル!花が違うだろ!⋯⋯まあ、姿はカリスだから⋯⋯一応、そうなんだろうけど。


 ショックだった。ビスケス・モビルケではカリスのヌイグルミなんて一体も売って無いから、かーちゃんが手縫いして作ってくれたのに。⋯⋯少しネズミよりの顔したやつだったけど。


 カリスだけじゃなくて、シマエナガとか猿とか、ネズエリンまであるけど⋯⋯とにかくショック!

 もしかして、聖竜都内でよく見られていたのは、このヌイグルミのせいだったの!?


 ある所には、有るもんなんだね⋯⋯。


 嬉しいんだか、悲しいんだか。ああ、竜人の幼児たちが集ってきた。お願いだから、毛を引っ張るのだけは、ヤメて!

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