第五十七話 聖竜都の空へ!
明けましておめでとうございます!今年も、完結するまで頑張りますので、よろしくお願い致します!
竜人至上主義。誰に説明されなくても解る、そのまんまの言葉。
統一国時代の栄華を引きずるアレですな、アレ。
「⋯⋯びっくりしたね〜タロス〜。あんな人もいるんだ〜」
エイベルが珍しく紫の瞳を大きく開けて、オレっちを見た。
「儂もあんな風に公共の場で会うのは、初めてじゃ。竜人第一の思想を持っておる連中のことは知っておったが、表立って言う者は少ないでの」
まあ、フツーは言わんわな。
自分は人種差別主義者です!──なんて言ったら、社会的に抹殺コースだし。
そういえば、前世では肌の色とかの差別だったけど、今世では、加護種別差別なのかな?
獣人が毛玉扱いなら、エルフは耳長生物扱い?人魚は魚扱いで──加護人は⋯⋯何だろう?
「じゃが、獣人の中にも自分たちが一番だと思っとる者もおるし⋯⋯どこの国でも一定数はおるもんなんじゃろうな」
「⋯⋯」
いるんだ。毛のない者は認めない!っていう連中が。毛玉至上主義?
「さあ、嫌なことはあったが、観光の続きに行くとしようか!」
「うん〜!」
「だな!」
◇◇◇◇◇
魔牛車で移動すること三十分──以上はかかったが、無事目的地へと着いたオレっちたちは、赤の竜賢者様の聖宮殿──正しくは、一部解放された庭園内へと入って行く。
一応タダだが、入り口ゲートの真ん前には竜神殿宛の寄付箱が設置されており、人々は無言でそこにベルビー玉や魔法紙幣を入れていた。オレっちたちも、善意のベルビー玉を、そこに落とす。
チャリーン!
「ホエ〜⋯⋯季節問わずの花の開花なんだ⋯⋯スゲェ〜」
夏の時期には咲かない花や花木が、満開になっている。ある意味、季節感ゼロだから風情がないけど。
「どの花も美しいのぉ〜」
「でも〜きちんと分けられてるから〜匂いは混ざってないね〜」
「え~と、何なに⋯⋯」
オサレなモザイク状の石畳の上を歩きながら、庭園入り口のゲートで配布されていた地図と説明文を見る。
ほうほう。この庭園は魔法管理されていて、季節を問わず多くの花が咲くようにしている⋯と。
この広大な庭園を魔法で──さすがは竜賢者宅。コスト度外視の大量魔石投入か。⋯ん?
竜の神々の聖遺物の一つを使った結界魔法の応用──え。聖遺物、使ってんの?庭に!?なんつー贅沢な!!いや、でも、竜賢者様ならいいのか⋯?
加護契約の庶民とは違って、実際に神の血が入ってるもんな。先祖代々、聖遺物が受け継がれているのも、当たり前っちゃあ当たり前。
「フムフム。ラブルローゼ(異世界薔薇の改良種)が多いのは、赤の竜賢者様の好きな花だからか⋯⋯さすがハーレム王。イメージ通りだ」
赤と金のラブルローゼの一画を観ながら、オレっちは呟いた。
「赤の竜賢者様は、花の品種改良がご趣味じゃからの〜。確かこのラブルローゼも、何百年か前にご自身で改良された花じゃと聞くしの」
「そうなんだ〜。ずーっと昔から〜あったと思ってた〜」
「原種は、もっと地味な花だったらしい」
思い出した。ウルドラって、改良した花の産地が多いんだっけ。そうか、赤の竜賢者様の影響だったんだ。
⋯⋯なんか、ハーレム王の爛れたイメージとは違うな。オレっちの偏見が強いだけだったのかも。
「ちなみに改良された花の名は、歴代の夫人方の名前らしいがの。何百人もおったから、名称には事欠かんじゃろ」
なんだかな。
一部だけの公開とはいえ、さすが竜賢者様のお庭。広い。それに花だけじゃなくてオブジェなんかも多い。
竜の型や人型の竜人⋯の女性像が、花の間に幾つも設置されている。これはきっと、歴代の奥さんたちだな。
そーいえばオレっちの壁の花──じゃなく、花の壁用のポンポンは、さすがに無いな。まあ、花は花でもネギの花だし。そもそも庭の花じゃなくて、畑の花だし。
一応、魔法改良できたから(チクチクポンポン)、竜人国に来る前に種を取ってまた埋めといたんだよな。帰ったら世話しなきゃ。
あと、他の花の壁候補も考えないと。今回の誘拐事件で、オレっちの無力さ⋯戦闘能力ゼロの悲しさが身に沁みたから、せめて防護力だけでも身につけたい。
やっぱイラクサ科(トゲのある植物)が攻守的にはベストなんだけど⋯⋯ヘタしたら、自分がダメージを受ける可能性もあるからなぁ。難しい。でも、いずれは使えるようにならないと。
そうそう。薔薇の鞭とか使う技もあったよな〜。トゲトゲの痛いやつ。
目の前にある青い薔薇の茎のトゲを見て、前世のマンガを思い出す。
フム。結構、応用が効きそうだな。何も壁だけにこだわらなくても、イメージ次第で武器にもできそうだ。
「見て、見て〜タロス〜!竜の噴水だよ〜!」
エイベルの言葉にハッとして、そっちを見る。
皮膜翼を広げた三体の竜の石像が中心となっている噴水は、段差のある三重の円形になっており、とても大きかった。
しかも、中に設置された噴水の数が多い。反対側が見えないほどの大量の水柱に、圧倒された。
真夏の強い日差しのなかの、大量の水──
あ~、水浴びしてぇ〜⋯⋯
噴水周りのベンチに座り、ロマンティックに水柱を眺める竜人カップルを横目に、オレっちは、あの大量の水の中で水浴びしたいと思っていた。実際したら、噴水をプール代わりにする、ただの迷惑な観光客だが。
プール──そうだ!ウルドラのプールも行かなきゃ!夏はやっぱ、プールだもんな!
無性に水浴びがしたくなるオレっち。竜賢者様の庭園に来てこの発想は、罰当たり──ハッ!そういえば、竜賢者様の聖宮殿って、どのあたりなんだろう?それらしき建物が見えないんだけど。
「トムさん!赤の竜賢者様の聖宮殿って、どっちの方向にあるんですか!?」
「平地じゃから、ここからでは見えないのぉ。どこか高い所──フム。ついでじゃから、あそこに行ってみるか!」
あそこって!?
◇◇◇◇◇
庭園を出た後、トムさんは魔牛車を使わずに歩いて移動した。
どんどん庭園──赤の竜賢者様宅から離れていくんだけど──オレっちとエイベルの困惑を他所に、トムさんはある大きな建物内へと入って行った。
「竜のゴンドラで、空中観覧──!!」
「上空からの〜聖竜都の眺めを〜ご覧ください〜だって〜!」
トムさんに説明されなくても分かるゴンドラ竜の絵面とそのタイトルの看板に、オレっちとエイベルが歓声を上げた。
一人、3000ベルビー。結構するな。⋯⋯ん?身長が120センチ以下なら──半額!?
子供料金と表示されていないのは、竜人の子供は、体格のいい子が多いから?
オレっちは、92センチ、エイベルは98センチで、半額。トムさんは131センチだったので、通常料金だった。
「入場終了時間ギリギリじゃったが、間に合うたな。さあ、行くぞ!」
時計の針は午後四時直前──営業終了時間が四時三十分になっていたから、ホントにギリだった。
チケット売り場のすぐ横にある昇降機で、建物の屋上へと上がる。
テニスコート四枚分ぐらいのそこは、ヘリポート的な仕様の大きな白い輪が三つあり、ちょうどその一つに、竜体化した竜人──ホバリングしていた青い竜が、観光客を乗せていたゴンドラを下に降ろしていた。
白いゴンドラは、四本の柱と天井が付いているだけの簡素な造りだが、柱部分に造花が飾られていたり、全体にディフォルメされたカワイイ竜の絵が描いてあったりと、観光客向け仕様にされていた。
鳥浮船と同じく、見えない鎖と連結されている竜の脚の印とゴンドラの天井部分にある球体が、赤い色から青い色へと変わる──着陸完了だ。
「すっごくいい眺めだったねー!」
「黒の聖宮殿と赤の聖宮殿を上から見られるなんて、最高!」
「まあ⋯メインタワーはさすがに結界で視えなかったけど、ヴァシュラム・ルアはほぼ見えたから、オレ的には満足かな〜」
「それに、白の聖宮殿も遠目だけど、見えたし!」
大獣人たち──ポラリス・スタージャーからの観光客二人(白熊とトナカイ?)と、地方からの?竜人たち三人が、ゴンドラから出ていく。
「ほれ、タロス君。儂らはあっちの乗り場じゃ」
トムさんの声がけと同時にそちらを見ると、白い角を持つ紫色の竜が、白いゴンドラの隣にいた。その明るい灰色の瞳が、オレっちを見る。
ニヤリ。
⋯⋯。今、大きな口の口角がものすごく上がったんだけど⋯⋯。
こんなに間近で竜体を見るのは初めてだから、ものすごくドキドキする。
大きいし、強そうだし、動きに合わせて紫色の鱗が動くのが、スゴく気になる。男?女?竜体になると、見分けが付きにくいんだな。
『今日は、君たちが最後のお客さんだね、小獣さんたち』
「あ、ハイ⋯よろしくお願いします」
あ。そこそこ年嵩の女の人の声だ──客なのになんだか圧倒されちゃって、ペコリと頭を下げるオレっち。
『ふふっ。さあ、ゴンドラに乗って。浮遊魔導器が付いているからどの席でも傾かないし、好きな席を選んでね』
トムさんを先頭に、エイベル、オレっちの順でゴンドラへと入る。
中にある木製の長椅子──客の体格によるけど、全部で八〜十席分ある左右の席の右側に、トムさんとエイベルが腰掛け、オレっちは、左のど真ん中に座った。
長椅子には尻尾穴が無いので、お腹に巻きつける。魔牛車でもこうやって乗っていたので、もう慣れた。
カシャン!
外にいた竜人の係員の青年が、出入り口の扉を閉めると「上昇準備完了です!」と、大声で叫んだ。
するとオバサン竜?が、皮膜翼を広げて飛び立ち、ゴンドラの上でホバリングを始めたかと思うと、白いゴンドラがゆっくりと上昇していった。
さて、聖竜都──ヴァシュラム・ルアを、上空から眺めるとしますか!




