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第五十六話 竜人にもいろいろある

今年、最後の投稿です。

 ゴーレム博物館を出た時間がちょうど正午だったので、周辺で飲食店を探すことにした。


 「ヴァシュラム・ルアに滞在する時にはいつも同郷の経営する店に行くんじゃが⋯⋯一度は、ウルドラの本場の味を堪能してみるのもいいかのぉ」


 本場の味──しょっぱい?辛い?それとも刺激的?

 「竜人って、辛いのが好きなんでしたっけ?オレも、ほどほどなら好きなんですけど、激辛はちょっと」

 「僕〜、辛いのは〜平気だよ〜?」

 「エイベルは、唐辛子料理好きだもんな」


 意外だけど、エイベルは辛党だ。蕎麦やうどんにも唐辛子を大量に入れて、素材の味を殺している。

 同じ辛党の竜人と違うのは、甘い物も大好きってとこ。オレっちの間食にもよくつき合ってくれてる。


 「確かに多くの竜人は、辛いもの()好きなんじゃが⋯⋯それ以外にも好むものがあっての。要するに、味の濃いものが好きなんじゃな」

 「⋯⋯例えばこってりラーメンとか、チーズ増し増しのピザとか?」

 「あと甘辛いソースをかけた天丼や、コショウ多めの焼き飯なんかも好きじゃのぉ」

 「なんか聞いてるだけで、お腹が減ってきた⋯⋯」

 「まずは〜お店を〜探さなきゃね〜!」





 ◇◇◇◇◇ 


 博物館の通り沿いにある飲食店は、実に国際色豊かだった。

 竜人国料理は勿論のこと、小獣国料理、大獣国料理、加護人国料理、ドワーフ料理⋯⋯え、あっちは人魚料理店!?ああ、海鮮専門か⋯⋯。

 無いのはエルフ料理ぐらいなもん?エルフは、ウルドラには住んでないのかな?


 「それにしても⋯⋯随分とスッキリした並びだな〜。お店がキレイに分けられてる」


 ビスケス・モビルケの大通りも景観規制が厳しいが、店の配置はバラバラだった。でも、この通りの店は、飲食店ばかりの区画になっていて、食料品の店や衣料品の店は、一軒も無かった。


 「それは、国が大通りを景観重視で規制しておるからじゃよ。この辺りは細い路地なんかもないじゃろ?人の多い聖竜都のど真ん中じゃが、住居として認可されておる土地もごく僅かでの。ここを含めて、竜賢者様の聖宮殿周辺はいろいろと厳しいんじゃ」

 「あ~、なるほど」


 ゴーレム博物館は、外れとはいえ、黒の竜賢者様の宮殿の敷地内だったみたいだし。

 そもそも、ウルドラム大陸の国々の土地は全て国有地で、個人の土地がないから規制もスムーズなんだよな。コレもまた、統一国時代からの継承なんだけど。


 「通勤には不便じゃが、そこは竜人。無駄に多い体力で長い通勤時間もたいして苦になっとらんようじゃ。それに、この通りの店は観光客向けじゃから、他よりもずっと特色のある飲食店が多い。さて、何処にするか」


 「⋯⋯あの店なんかどうかな?」


 オレっちが指差したのは、小さな飲食店ばかりが集められた建物の中のオレンジ色の(ドア)の店だ。ウルドラ料理って分かりやすく、扉にはフォークを咥えている青い竜の絵が描かれていた。


 オレっちは考えた。大きい店構えの飲食店より小さい飲食店の方が個性的で美味いんじゃないかなって。

 前世、乱立するチェーン店よりも、美味い個人店の方が好きだったからってのもある。ただ、こうした旅行客目当ての店だと適当な味付けの料理が出されることもあるから、油断はできないけどな。


 「いらっしゃいませ〜!」


 階段を上り、二階に建ち並んだお店の右端──オレンジ色の扉を開けると、青い髪の灰色角のお兄さんが元気よく出迎えてくれた。

 パッと店内を見た感じ、カウンター席を含めると二十人は入れそうな広さで、シンプルだが清潔感がある。

 カウンター席と二つのテーブル席は満席だったが、空いているテーブル席が二つあったので、その一つ──奥の方へと案内された。

 腰掛ける部分だけが革張りになっているシンプルなダイニングチェアは、背もたれの下が大きく開いていたので、尻尾はそこに通しておいた。


 「どうぞ〜。メニューはコチラです!」


 お。転写真付きメニューだ。少し色は薄いが、一応、カラー。中レベルぐらいの視覚転写スキル持ちの転写真っぽいな。


 「あの⋯⋯お勧め料理ってどれですか?」


 優しそうな顔立ちの竜人お兄さんが、少し悩むような表情で口を開く。

 「んー、人気があるのは火炎ステーキなんですが、小獣人さんたちには重いかもしれませんね⋯⋯こっちの火炎煮込みの方がいいかも。ご飯かパンかも選べますし」

 「あの〜辛いですか〜?」

 「いえ。濃厚ですが、刺激的ではないですよ〜。辛めなら、コチラのピリ辛火炎炙り海老がお勧めです」

 「じゃあ僕は〜それにします〜。追加でバゲットとドリンクは〜アイスティーで〜」


 エイベルは、早々に料理を決めた。それにしても、火炎料理か⋯⋯多分、料理人が火炎スキルの持ち主なんだろーな。


 「儂は、この火炎グラタンを。あとはチーズパンとアイスグリーンティーを」

 トムさんもあっさり注文。オレっちは──


 「火炎煮込みとご飯のセット。あとドリンクは、アイスミルクティーで!」




 「お待たせしました〜!」


 火炎煮込み⋯という名の、どっさりキノコと牛魔獣肉のブラウンシチューとライス、そしてアイスミルクティーが運ばれてきた。匂いからして美味そう!


 「あの⋯キミのその頭の造花──小獣国の流行りなのかな?」

 「ハイ?」

 料理をテーブルに置いた竜人お兄さんは、オレっちのポピタンを見ながら尋ねてきた。


 「タロスの花は〜本物の花だよ〜」

 エイベルの言葉に、お兄さんの灰色の瞳が見開く。

 「へえー、花を持つ加護種なんだね〜。初めて見たよ!」

 「竜人には、花持ちがいないんですか?」

 「花は聞かないね。でも、魔石持ちの竜人ならいるよ。僕の従姉は、額に紅い魔石を持ってるんだ」

 「魔石!?」

 「魔石持ちなら、儂の知り合いにもおるぞ。其奴は、拳に銀魔石が生えておっての。子供の頃から喧嘩が強かった」

 いや、それ、凶器だから。反則やん。


 



 ◇◇◇◇◇


 「は〜、食った、食った!」

 「美味しかったね〜!」

 「値段も、あの区域にしては高くなかったしのぉ!」


 メニュー表にもちゃんと値段が載ってあったからボッタクリの心配はなかったんだけど、味も美味しかったから、あの店に入って正解だった。店員さんも親切だったしな。⋯⋯他の竜人のお客さんにはガン見されてたけど。

 オレっちの花冠は、やっぱ目立つよな〜。ゴーレム博物館でもチラチラ見られてたし。

 でも、それはみんな好意的な視線だった。まあ、愛玩動物を見る目なんだろうけど。


 「さて、次は、一部公開されてる赤の竜賢者様の聖宮殿の見学に行こうかのぉ。少し距離があるが、魔牛車なら三十分ほどで着くじゃろう」

 「ゴーレム博物館のあった黒の聖宮殿は、公開されてないんですか?」

 「竜賢者様の寿命が近いこともあって、一般向けの公開はもう数十年前からないようじゃ。まあ、あの博物館も聖宮殿の一部じゃから、公開しておるといえばしておるしのぉ」

 そーいえばそうか。






 ◇◇◇◇◇


 魔牛車乗り場へと向かう道は特に人が多くて、他の加護種よりも背の低い小獣人であるオレっちたちは、前が見えにくい状況で歩いていた。


 もうそろそろ乗り場かな〜と、少し横に出てしまったのが悪かったのか、緑の髪色をした若い竜人男性の体に、オレっちの尻尾が当たってしまった。


 「おいっ!俺の服に、毛が着いたじゃないか!!」

 「あ、すいま──」

 「チッ!これだから、毛だらけのケダモノは嫌なんだよ!!」

 「⋯⋯」


 びっくりした。今生で初めて、悪意に満ちた罵声を聞いた気がする。あの誘拐犯たちでさえ、ここまでの悪意は持っていなかったのに。

 そもそも、獣人に対して『ケダモノ』呼ばわりするのは禁句のハズだ。周囲にいた人々も、あからさまに驚いていた。

 その視線に気づいたのか、緑の髪の竜人男性は慌てて人混みをかき分け、去って行った。


 「ねぇ、今の人──竜人至上主義者じゃない?」

 「そうかも。最近、増えてるって噂だし⋯⋯」


 真後ろにいた竜人女性たちが、不安そうに話す。


 ⋯⋯竜人至上主義ねえ⋯⋯

連載を始めてから二ヶ月⋯⋯拙い文章をお読みいただき、誠にありがとうございます。来年も、地味に続けて参りますので、どうか、どうか、よろしくお願い致します。良いお年を!

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