表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/130

第六話 二度目の黒歴史。本を読め!歴史を知れ!

 馬魔獣はお高かった。前世のお馬さんも高かったが、さすが魔獣だけあって調教がかなり難しいらしい。

 飼育とは名ばかりで、生来の気質にかなり左右され、気の荒い魔獣馬はどんなに調教しても無駄だと言われている。その為、繁殖に力を入れて()()()を多く産み出す作戦に出た。

 穏やか・やや穏やか・まだなんとかなるかも・どうにもならない──てな感じでランク分け。ちなみに、どうにもならないレベルの子は、野生に戻されるらしい。

 ⋯⋯捨て馬?


 まー、そんなんだから、気質が穏やかな最高ランクの馬魔獣は、ほぼ要人か金持ち行き。最低でも1頭8000万ベルビーはするという。余談だが、まだなんとかなるかもレベルの子は、補助魔法具の手綱さえあれば、そこそこ制御できるらしい。


「あくまでも、そこそこですけどね!」

 鴉獣人のお兄さんは、オレっちの「馬魔獣の相場が分からないんですけど!」の質問に、そう答えて締めくくった。

 

 その後、他にも数点、魔物素材を見せてもらったが、どれも加工前と後では、まったくの別物になっていた。さすが魔法生物。前世の常識で考えてはいけない。

 あ、そうそう。残念ながら魔物肉は無い。魔法生物は魔核を破壊されると、肉部分は土になっちゃうの。それ以外は残されるから、解体、めっちゃ楽。


 鑑定店を出たオレっちたちは、徒歩で武器屋や魔法具店を見学した後、C級以下の冒険者達がよく利用するギルド運営の食事処(早い・美味い・安い)で昼食をとり、再び魔牛車へと乗り込んだ。

 次は、メインとも言えるダンジョン二階層へと続く階段だ。数分だけ二階層を見学する事もできますよー、とガイドのお姉さんは言った。


 ついにマジのダンジョン階が──と、座席でウキウキしていた。けど──何だかスゴく眠い。この魔牛車、乗り心地が前世の自動車によく似てる。そうだ。食後の車は、ヤ・バ・・イ・・・



 「──タロス、タロス!」

 「⋯⋯ムニャ⋯アレ?」


 かーちゃんの声で目が覚めた時には、すでにダンジョン街の見学は終わっていた。

 魔牛車内には、かーちゃんとオレっちだけ。他の見学者達とガイドのお姉さんは、車外で別れの挨拶を交わしていた。

 かーちゃんは魔牛車内で居眠りこいたオレっちを何度も起こそうとしたらしいが、そのうちオレっちが尻尾に頭を突っ込んで爆睡してしまったので、諦めてしまったらしい。


 ⋯⋯ま、まあダンジョンの階段なんて言っても、どうせそこらの階段と同じだしー、別に見なくったって。──なんてことねーよ!ホントは観たかった、ダンジョン二階層!赤茶けて乾燥した大地って西部劇ぽいっし。もしかして、遠目でも魔物と戦う冒険者達が見れたかも?

 オレっちの馬鹿。⋯⋯バカ!


 オレっち二度目の黒歴史。






 ◇◇◇◇◇


 「かーちゃん、オレ、獣学校に行く!」


 ダンジョン見学から帰宅後、オレっちはかーちゃんにそう宣言した。

 ダンジョン街や獣学校の事もそうだが、とにかく初耳な情報ばかり。そもそもオレっちの行動範囲が雇い主のお屋敷の周辺のみだから、限られた人たちとしか会話できていない。世界が狭すぎるのだ。


 幸いな事に、授業内容が理解できるのであれば、何歳からでも入学は可能だという。 

 「タロスは、まだ魔法が使えないでしょ?」

 「キュ!」

 すっかり忘れてたわ!オレっちの花、まだ咲いてないやんけ!


 「花が咲かないうちは体力だってないし。本当は幼獣園に入れようと思っていたんだけど、お屋敷の使用人仲間が面倒をみてくれたし、他の子供たちとも仲良くしていたから──何より、タロスはすぐに文字とか計算とか憶えちゃったから、入園する必要が無かったのよね」


 前世の記憶が戻ったオレっちは、とにかく字が読めないことには前に進めねーと、必死になって憶えた。幸いなことに、この国の識字率は高い。国の政策で、教材が安価で流通しているからだ。


 この世界の文字は、神話時代から統一されている。アルファベットより少し多めで、大文字・小文字だけでなく、どー見ても絵文字にしか見えない文字まである。主語+目的語+動詞の読み慣れた日本的文章なので、すんなり頭に入るしね。

 計算の方は貨幣価値を知るついでだったが、数字の形や算式が違うだけで、たいして苦も無くクリア。


 う~む。まさか、オレっちの頑張りが裏目に出ようとは。仕方ない。これからも自力で頑張ろう。

 まずは本だ、本!って、違うよ、かーちゃん!絵本とか物語とかじゃなくて、この世界を識るための本!

 「歴史の本?そうね、昔、私が獣学校で使っていた物ならあったかしら?」


 そう言ってかーちゃんは、寝室の奥にある木製タンスの開き戸を開けた。かなり物を詰め込んでいたのか、邪魔な物を少しづつ床に出しながらの作業だ。地味に時間がかかる。


 「あったわ!」

 「!?」


 かーちゃんが取り出したのは本ではなく、何重にも巻かれた一本の()()だった。戸惑うオレっちに、「さあ、あっちに行きましょ」と言って寝室を出ていく。後を追うと、そこはキッチンだった。

 「この家で一番大きなテーブルは、これだから。さすがに床には広げたくないわ」と、ダイニングテーブルの上に巻物を置いた。


 「これは、魔力で絵を動かす魔法書よ。」

 

 かーちゃんが巻物を広げていく。最初に描かれていたもの──それは


 ニンゲンの絵だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ