第五十五話 ゴーレム・ハーレム
「タロス君はゴーレム好きじゃから、ここは天国じゃろう?」
トムさんに連れられてきたのは、なんと『ゴーレム博物館』!
ウルドラの黒の竜賢者様がゴーレムの専門家だったことで、それ専用の博物館が建てられていたのだ。
「ハイ、三名様どうぞ〜」
ラベンダー色の髪と灰色の角を持ったオジサン竜人が、入場を促す。奇妙なことに、子供三人のチケット代になっていた。
もしかして、トムさんも子供に見えるの!?シルバー料金と間違えてない!?
◇◇◇◇◇
「この人が、黒の竜賢者様なのか!」
入口からすぐの部屋には、大きくて立派な肖像画が飾られていた。
絵の真下にあった説明文で、描かれている人物が黒の竜賢者であることがわかる。
博物館に寄贈されたゴーレムの多くは、この肖像画の中の人──肩で切り揃えられた黒髪に紅い瞳、そして黒銀の角を持った美しい少年竜賢者によって造られたものだという。
ホエ〜超美少年!なんかイメージしてたのと全然違うんですけど!?ゴーレム研究者にみえないどころか、学生さんですか?ってな感じの若さ!
賢者は死ぬまで若い姿だとは聞くが、彼はまだ十代後半(前世年齢)にしか見えず、随分と早い時期に外見年齢が固定してしまったらしい。
でも、実際は死にかけているんだよな⋯⋯老衰で。
「アルファロン・ジーニクス様──通称、黒の竜賢者様じゃな。すでに1300歳超えじゃから致し方ないとはいえ、白の竜賢者様が2000歳近くでもまだまだお元気なことを考えると、些か残念じゃな。まあ、あの御方は先祖返りで、神の血が濃いからじゃが」
「先祖返り?」
「そうじゃ。そもそも先祖返りは、竜人だけでなく、儂ら古き神々の加護種にもごく稀にあるんじゃよ。遠い祖先の血が濃くなり、多数の特性スキルが発生するそれがな。寿命もそのうちの一つで、かつての小獣人の寿命と同じ──今の二倍以上は延びるらしい。じゃが、息子から聞いた話じゃと千年に一人か二人じゃというから、確率は低いがの」
「へ〜⋯⋯」
昔の加護種は、また随分と長生きだったんだな〜。
順路通りに進むと、フツーのスキルでも生成できるゴーレム──石や岩、そして泥で造られた簡素なゴーレムたちが展示されていた。
「タロス〜何か寒くない〜?」
エイベルが皮膜翼を交差させて、冷気を遮る。
「そーいえば、妙に冷えるな」
冷却魔法具を最大設定にしたままだっけ?手首の風量切り替えスイッチを見る。⋯⋯中だな。
「あ。言うのを忘れとった!ウルドラの大型施設には大型の冷却魔導器が取り付けられているんじゃ。じゃから、冷却魔法具を使う必要がないんじゃよ!」
キュ!クーラーあんの!?
あわてて冷却魔法具のスイッチを切る。あ。涼しいわ。
「スゴいね〜ビスケス・モビルケじゃ〜まだ〜冷却魔導器をつけてる施設なんて〜ないもんね〜」
「ウルドラでも最近の話じゃから、そのうちあちらでも設置するじゃろう」
う〜ん。でも、冷却魔法具だけでも十分涼しいから、一気に広まる可能性は低そうだけど。あ、ブア毛からは解放されるから、女の子たちは喜ぶか。
なにはともあれ、久々のブア毛からの解放。手櫛でポンポンしておく。尻尾は⋯⋯面倒だからもういいや。
メインの展示室は広く、天井も高かった。そして、室内の奥に行けば行くほど、最新のゴーレムが展示されていた。
時間が経つにつれ、館内のお客さんが増えてきた。オレっちたちの後方には、竜人の団体客が見える。あんまり人数が増えてくると、ゆっくり見れないので嫌なんだけどな。
さて、展示されているゴーレムだが、初期の形は四角しかくで大きく、中期は丸みが出てやや小さめ、後期は幅広いデザインで大小の入り乱れ⋯⋯っていうか、カオス。
竜体型デザインは勿論だけど、オレっちたち獣人型もあるし、加護人の天使型もある。
鉱山用、農業用、土木用、軍用──介護用に癒やし用──ちなみに癒やし用デザインは、ほぼ小獣人型。ご丁寧に、毛まで再現してあった。
これらは実用化されているが、自律型は介護用のみで数も少ない。コストがかかり過ぎるのと充魔石の消費魔力が激しすぎて、今はまだ改良段階のテスト用のみらしい。
さらにマニアックコーナーでは、魔獣型やダンジョンの魔物型などもあり、黒の竜賢者様の趣味趣向の範囲の広さに驚かされた。
「でも、ゴーレムって、やっぱ魔素合金タイプが多いよな!ゴッドゴーレムみたいに、神聖金属とか混沌金属じゃないけど、魔素金属だから頑丈だし!」
オレっちが軍用ゴーレムを見てそう言うと、トムさんが首を傾げた。
「タロス君や。それらは古き神々の聖遺物金属やダンジョンの激レア魔素鉱物じゃろ?それを使ったゴーレムなんぞ聞いたことがないんじゃが?」
「トムさん〜タロスが言ってるのは〜映画の話なんです〜短編で〜ひと月ごとに上映されてる〜ゴッドゴーレムって映画で〜」
エイベルの説明に、オレっちが追加する。
「そん中に出てくるゴーレムの何体かは、古き神々の聖遺物っていう設定なんです!」
「⋯⋯古き神々の聖遺物ゴーレム⋯⋯そういえば、何かの伝説にあったような⋯⋯いや、アレは、ダンジョンの魔物じゃったか?」
ゴッドゴーレムの元ネタやね。
どこかのダンジョンの『神々の遊び場』には、ゴーレム魔物だけのフロアがあるらしい。
そこのゴーレムには、魔法攻撃も物理攻撃も効きにくいとの噂。死にゲー的な設定階?
でも、そもそも古き神々が自分たちの遊ぶ場所として造ったわけだから、初めっからオレっちたち下僕が攻略できるようにはなってないんだよね。
ゴッドゴーレムシリーズは、加護種の──小獣男の夢見るロマン⋯ってヤツなわけよ。
──ん?なんだ、アレ?
少し先の方に、照明よりも眩しい光が差し込む一角が見えた。陽の光だ。
「⋯⋯加護種大集合?」
「お茶会〜?」
一部分だけ天井がガラス張りになっているその下で、竜人、エルフ、加護人、ドワーフ、大獣人(獅子)、小獣人(猫)の形をしたゴーレムが、オシャレな白いテーブルを囲んだ椅子に座り、お茶を飲みながら会話するポーズをとっていた。
テーブル中央に置かれた青と銀の薔薇だけが本物の生花なのが、妙に気になる。
「おそらくこれは、統一国時代を懐かしむ趣向じゃの。かつてのウルドラム大陸を再現したというところか」
「スゴいね〜本当に生きてるみたいだ〜」
確かにな。介護用や癒やし用ゴーレムよりも、生身に近く造ってある。
獣人型の毛も精巧だけど、人型の肌も再現率が高い。どちらも魔法合成で作られた人工物なんだろうけど、触らないと判別できないかも。
特に、竜人ゴーレムの少女の青い瞳には、感情のようなものさえ感じ取れる。そういえば、竜人でミルクティー色の髪なんて珍しいな。
賢者様の黒髪もそうだけど、茶髪、金髪系の竜人なんて、大勢の竜人が行き交うこのヴァシュラム・ルアの中でさえ見なかったのに。
◇◇◇◇◇
増えていく館内客の波をすり抜け、展示物をじっくり見ること約二時間──オレっちたちは出口ゲート近くの売店で、土産物を物色していた。
「あたし、これにするわ!」
「私は⋯⋯こっちの肖像画のレプリカ!」
「素敵ね〜黒の竜賢者様。でも、最近では年始の儀式でもお姿が見えないから、残念だわ〜!」
「白の竜賢者様は大人の色気があるけど、あの方は女嫌いって噂もあるし⋯⋯反対に赤の竜賢者様は奥さまが多過ぎて、ゴシップだらけだしね」
「ちょっと!不敬よ!⋯⋯まあ、先月も刃傷沙汰があったから、分かるけど⋯⋯」
オレっちの両耳が、集音スキルもないのに、若い竜人の女の子たちの声を拾ってしまう。
フムフム。白の竜賢者は、女嫌いの色気あり。赤の竜賢者は、奥さんが多いハーレム王。
刃傷沙汰ってヤベーな。寵愛争い?あ、アレか!閉じられた女世界の『女は競ってこそ華。負けて堕ちれば泥』的なアレ!大奥みたいなの!
女の本性がモロに出てしまう環境だから、さぞかし陰湿なのだろうな⋯⋯想像するだけでも恐ろしい。さすがにハーレム羨ま⋯とは思わんな、うん。




