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第五十四話 竜の神々のオカンは、渦生まれ?

 「壁がピンク⋯⋯」

 「花とか〜レースが多いね〜」

 「ここの管理神官の趣味じゃな。女性には好評じゃが、男性には不評じゃ」


 ピンクはピンクでも薄くて淡い色だから下品ではないし、長椅子に掛けられたレースも色褪せたものはない。飾られた花も新しいもので、しかも百合の花に似ているから、華やかさの中にも静謐感がある。

 オレっちなら『コレぐらいならいいかも』ってレベルなんだけど。


 郊外の神殿らしく、小ぢんまりとしている。でも、五十人は余裕で入れる広さだし、たくさんの長椅子もある。天井もそこそこ高い。

 竜だらけだと思っていたけど、竜の石像は、中央の祭壇にしか置かれていなかった。

 考えてみれば、前世の教会とかもそんな感じだったっけ。たくさんの彫像が並んでいるのは、古代文明の遺跡に多かったような気がする。

 ここは近隣の人たちが日常的に訪れる場所だから、華美にする必要もないしな。花やレースは、完全に個人の趣味だろう。


 「今の時間は祈りを捧げる人が少ない。ゆっくりと見ていきなさい」


 トムさんが言ったように女性の竜神官が一人、いるにはいたけど、あとは長椅子に座って祈ってる人や、本を読んでる人、寝てるのか起きてるのか分からない竜人が三人しかおらず、うろつき放題だった。


 あの左隅の方で花を活けている竜神官が、ここの管理神官なのかな?

 ウルドラム大陸の加護種の国々では、昔から男性でも女性でも『神官』と呼ばれ、ビスケス・モビルケでも高位神官の半分以上は、女性だ。

 最後の賢者様が女性なので、他の国より多いかもしれない。ただ、最近の評判はあまりよろしくない。


 高位神官同士で権力争いが頻発し、本来の神殿の職務がおろそかになっているからだ。特に側近中の側近である筆頭神官は、賢者様の死を待たずして更迭される可能性が高い──との噂。

 でも、秋の大祭でオレっちが関わるのは現場で働いている中位神官や低位神官たちなので、関係ないけどね。


 「この竜の像〜どうしてグルグルの〜輪っかから〜出てるの〜?」

 「こっちの絵も、渦みたいなとこから出てる。コレ、何だろう?」

 エイベルの疑問に、オレっちも同調する。


「それは、正真正銘の渦じゃよ。竜の神々を創った大神は、その渦の中から産まれたそうじゃ」


 ⋯⋯渦から誕生したんなら、海の生まれなんだろうか?そーいえば、前世の神話でも、海の泡から産まれた女神様がいたっけ。


 「ホエ〜、竜の創造神様は、海の生まれなんだ。意外!」

 「海って〜、神様の世界の海だよね〜この絵だと〜金色の海みたいだね〜キレイ〜」

 「違いますよ、小獣人さんたち。竜母神様の産まれし渦とは、天の渦のことです」


 神殿内にいた女性神官が、オレっちたちの会話に入ってきた。

 まだ二十代前半(前世年齢)に見える若い神官だが、そこは竜人。実際は、百五十歳近いと見た。(オレっち直感)

 白地に金糸が織り込まれた長衣と、髪を覆う白いウィンプル(顎の下まで巻きつけた頭巾)、その上につけた金属製のカチューシャ、何よりもウィンプルから突き出た二本のグラスグリーンの角が、無言の竜神官オーラを放っている。


 「伝承では、神の世界の始まりにあった現象で、空に幾重にも巻いた金色(こんじき)の渦の中から竜母神様がお産まれになったと伝わっています」


 竜母神⋯⋯竜の神々のオカンの名称か。まんまだな。

 

 「そうそう。むか〜し学校でそう教わったんじゃ。子供心に、竜の神々の話はよう分からんの〜と思ったもんじゃ」


 トムさんの言葉に、女性神官が微笑んだ。

 「古き神々の眷属である貴方がたには、始まりの神の伝承はないと聞きます。そういう意味では不思議に感じられるのも無理はありませんね」


 そう言えば、古き神々の創造神の名を聞いたことがない。しかも、二柱の大神様の名前もだ。⋯⋯なんでだろ?今さら感があるが、謎である。


 「あのー、ついでにお訊きしますが、竜母神様ってこの絵の通り、金色の竜なんですか?」


 オレっちの質問を受けて女性神官の淡いオレンジ色の瞳が、竜母神誕生の絵に向けられる。

 「いいえ。身体的な特徴などは伝わっていないので、これは画家による想像図ですね」


 なるほど。金色の渦から産まれたから、金色にしたのか。でも、前世のマンガやゲームでも竜のトップって黄金竜が多かったような気がするから、あながち間違ってはいないのかも。三ツ首の黄金竜もいたしな。神様じゃなくて怪獣だったけど。


 「ですが、古き神々の眷属である貴方がたが、我らの神々に関心を持って下さるのは嬉しいことです」

 女性神官は満面の笑みを浮かべて神官服のポケットから何かを取り出し、オレっちたち三人の手に握らせた。

 飴だ。おそらくミント味の。

 ここまでくると、もはや竜人=大◯人説が有力。だとしたら、笑いには厳しいのだろうか?

 でも、この世界には、お笑い芸人はいないみたいなんだよな。話術スキルを持ってる人はいるけども。







 ◇◇◇◇◇


 「どうやらあやつは帰ってこんようじゃの」


 近くの食堂で夕飯を食べた後、息子さんの家に戻ってお茶をしながら、その帰宅を待っていたのだが、夜遅くなっても、彼は戻ってこなかった。

 「どうせ仕事場の仮眠所じゃろうが⋯⋯」

 奥さんがいた時からこうなのか、奥さんに逃げられたからこうなったのか⋯⋯とにかく、今は帰らないことの方が多いみたいだ。

 トムさんと明日の予定を話した後、オレっちとエイベルは、布団を並べてぐっすり眠った。




 「タロス〜朝だよ〜!」

 「ムニャ⋯⋯はっ!」

 ガバっと起きた。寝起きが悪いオレっちにしては、早い覚醒。


 「おはようございます!」

 「おはようございます〜」

 「おはよう!朝ご飯じゃぞ〜」

 ダイニングに行くと、トムさんがフライパン片手に振り向いた。

 メニューは、食パンと厚めのスライスチーズ、そして目玉焼きだった。


 「ウルドラのミルクは、コクが深くて美味いんじゃ」

 ガラスのコップになみなみと注がれたミルクを、エイベルと二人、ゴクゴク飲む。──美味い!


 「聖竜都⋯ヴァシュラム・ルアの南西にある牧場は、牛魔獣の中でも搾乳用に特化した改良種でな。しかも良質な牧草地帯で育っとるもんじゃから、その乳も美味いんじゃ」


 ホエ〜。こんな大都会に牧場があるんだ〜。聖竜都って、石造りの建物ばっかりってイメージだったから、めっちゃ意外。


 トーストにバターを塗って、その上に炙ったチーズを乗せる。いつもならハチミツとかなんだけど、たまにはこういう食べ方もいいかな⋯と思った。

 予想以上にチーズが美味い。きっとコレも、さっきのミルクで作られたものなんだろうな。

 エイベルは、トーストとチーズを合体させず、別々に食べている。トムさんはトーストの上にチーズと目玉焼きをダブルで合体させて食べていた。

 オレっちはトーストをもう一枚追加してもらい、ついでに目玉焼きとミルクもおかわりした。朝からガッツリ。


 「腹ごしらえは終えたし⋯⋯では、ヴァシュラム・ルア観光に出発じゃ!」

 「イエッサー!!」

 「イエ⋯って何〜?タロス〜?」

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