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第五十二話 偽造ステータス

 おむすび公のステータスの余韻が冷めぬまま、オレっちの順番が回ってきた。


 「キミはカリスだよね?そろそろその頭巾、取ったら?可愛いけど、キミの花も見たいな」


 茶トラ少年⋯ニーブ君がパンを渡しながら、オレっちに話しかけてきた。

 あ、忘れてた!オレっちまだ、いにしえの空き巣スタイルだったわ!

 いそいそと巻いていたスカーフを解いた。


 「ああ、青と銀か。とてもキレイな色合いの花だね。⋯⋯()()()()の後頭部の花とよく似ている」

 「ホエ?」

 今⋯⋯カガリスのって言った?

 「あの、今──」

 「魔法公、まだパンが残ってますから、良かったら食べて下さい!」


 ニーブ君がおむすび公⋯ではなく、魔法公爺さんへと向って歩き出したため、訊き返しそこねた。


 ⋯⋯そうだ!ステータスをば⋯ステータス・オープン!!



 名前 ニーブ(仮)  加護種名 ラゲット(仮)


 HP 1300/1300(仮) MP1800/1900(仮)


 土LV5 火LV4 水LV4 風LV3(全て仮)


 スキル 広範囲探索 魔力増幅 落とし穴(全て仮)


 古き神々の一柱、トラゲットの眷属(仮)

 ビスケス・モビルケ北西の町で市民魔導師登録していた。今回は、探索スキル持ちということで依頼を受ける。

 彼の時間停止の魔法鞄(マジックバッグ)には、元々パンなど入っていなかった。空間を繋いで調達したものと思われる。


 これらは一部の情報を除き、全て偽造ステータスである。世の中には触れない方がいい情報もあるので、とりあえず(仮)として表示。



 偽造ステータス!?どーいうこと!?


 「お兄ちゃん、どうしたの?口が半開きのままだよ?」

 オレっちの側にいたスズメっ子が、オレっちのベストの裾を引っ張った。そこでようやく正気に戻ったわけだが、頭はまだ混乱したままだった。


 ニーブ君の顔を見られない。

 もし、ニーブ君が古き神々の⋯⋯一柱だとしたら、あちらもまた、オレっちが何者か気づいたハズだ。

 異世界の転生者がこの世界でどう対応されるのかが、分からない。異分子⋯危険者扱いされて、排除されるかもしれないのだ。

 でも、古き神々が今のこの世界で実体化できるとは思えないし⋯⋯そうなると半神って可能性の方が高いか?


 「あー⋯迎えがきたようです。あと少しで、魔牛車ごと獣警団がここに着きます」

 「ホホ。ようやくか」


 ニーブ君は、内心ドキドキのオレっちのことなど知らないように、魔法公爺さんと会話していた。


 見逃してもらえたのか、気がついていないのか⋯⋯どっちにしても助かった。


 グゥギュルル〜


 ⋯⋯ホッとしたのでお腹が鳴った。ニーブ君からもらったパンをモグる。美味い。空腹だったのもあるけど、麦感のある素朴な美味しさ。


 ところで、オレっちのポピタンが、カガリス様の後頭部の花に似てるって言ってたけど⋯⋯これまた微妙なところに咲いてる花じゃね?

 頭の後ろに咲く花って──仰向けに寝たら、潰れちゃう可哀想な花やんけ。

 それとも、脇だったり尻だったりチ◯コだったりに咲いてる花でないだけマシなのか?

 う〜ん⋯それはそれで気になるなぁ。特に、チン◯。どんな花が咲いてんのか、見てみたい。





 ◇◇◇◇◇


 「じゃあ、皆、元気でね!」

 「達者での!」

 

 到着した魔牛車で近くの町へと移動することになったオレっちたちに、魔法公爺さんと偽造ステータスの持ち主、ニーブ(仮)君が手を振った。オレっちも施設の子供たちと共に、窓から手を振り返す。


 もう怖くはないが、ナゾは謎だ。なんだかもやもやするが、オレっちごときが考えても仕方がないことだし、それに、エイベルのことの方が気になる。逃げきれた可能性が高いが、まだ確定していない。

 とにかく無事を祈るしかないが⋯⋯。


 「ウルドラには明日着くのかな!?」

 「すごく楽しい場所がいっぱいあるらしいよ〜」

 「うん。それに珍しい食べ物もたくさんあるんだって!」

 「楽しみ〜!!」


 さすがは加護持ちの獣人。前世なら心のキズが〜!とかで心のケアのために専門家が対応するところだが、彼らはメンタルダメージ、ほぼナッシング状態。

 殴る蹴るの暴力を受けていないからってのもあるけど、誰一人として暗い顔をしていないのは、スゴいとしか言いようがない。しかも前向き(主に娯楽に)小獣魂ならぬ幼獣魂?

 オレっちだってウルドラへ行く気満々だしな。とりあえず、かーちゃんやトムさんに連絡しなきゃな!






 ◇◇◇◇◇


 「タロス〜!!」

 「エイベル!!」


 オレっちたちはガシッと抱き合った。涙の再会。


 あれから施設の子供たちと共に獣警団に保護され、町の警団施設で軽く事情聴取されて、体の外傷とか何かの呪いを受けた形跡とか──そういう検査をされた後、警団施設の別棟でエイベルと無事に再会できたのだ。


 「エイベル、頑張ったんだな!オレなんかあっさり捕まっちゃって⋯⋯」

 「うん〜!今回は〜限界まで頑張ったよ〜!あんなにドキドキして〜全力で飛んだのは〜、生まれて初めてだったよ〜!でも」

 「でも?」

 「僕にも〜勇気があるんだな〜って気づいたの〜!」

 「⋯⋯エイベルは、元々、勇気があると思ってたけど?だって、よくオレの無茶ぶりにつき合ってくれてるし、歳上の連中相手にだってオレのフォローしてくれるし」

 「そうかな〜?だから頑張れたのかな〜?」


 エイベルと手を繋ぎながら警団の案内係さんの後ろにつき、とある部屋へと入る。これから、かーちゃんと執事さんに、無事だったことを報告するのだ。


 「マルガナの獣警団には連絡用の魔導鏡(まどうきょう)があるので、順番に連絡を取りますね。あちらにはすでに、身内の方々が到着されているハズです」


 黒い毛並みの犬獣人の警団員さんが、そう言った。

 地方の獣警団でも、連絡用の魔導器、もしくは双子か三つ子の職員が配置されているから、オレっちたちがこっちの警団で身体検査されている時には、すでにかーちゃんたちに連絡していたのだろう。仕事が早い。


 「はい、お待たせしました!アレっ⋯⋯映らない?えーと⋯あ、魔力切れだ!魔石、新しい魔石どこだっけ!?」

 仕事が遅いっ!!


 


 「タロス!!」

 「エイベル!!」


 かーちゃんと執事さんが、鏡の中にいた。でっかい姿見なので、実際にそこに立っているかのように見える。

 「かーちゃん!」

 「ジイジ〜!」


 「良かったわ、無事だったのね⋯⋯連絡を受けた時は、もう、驚いてしまって⋯⋯」

 「エイベル。子供を連れて飛んで逃げたんだってな⋯⋯偉いぞ!」

 「うん〜!頑張ったよ〜!」


 「オレは犯人に捕まったけど、市民魔導師の偉い人たちに助けられたんだ。その一人が造ったでっかいゴーレムを見たら、奴らすぐに逃げ出して──オレ、興奮しちゃった!」


 ⋯⋯その後に、相方の茶トラ君ステータスで恐怖したが。


 「それで⋯⋯どうするの?マルガナに戻ってくるの?」

 「ウルドラに行く!ケガもしてないし、元気だから!」

 「エイベルは、どうするんじゃ?」

 「僕も〜ウルドラに行くよ〜ジイジ〜!」

 「⋯⋯気をつけてね。昔からビスケス・モビルケでは子供の誘拐が多いんだけど、こんな大勢の──しかも、鳥浮船が狙われるなんてことは初めてだったみたいだから」

 「大胆すぎるというか大雑把じゃというか⋯⋯まあ、今回のことが前例になったことで、鳥浮船の警備強化が検討されたようじゃが」


 あ〜⋯確かに大胆だったし、そこそこの作戦や人材も用意してたけど、肝心の逃走用の馬魔獣が暴走したあげく、放逐されて──いや、よく考えると、それさえなければ成功してたんじゃない!?あのクソギツネババァの転移術、チートだったもん!!

 でも、それ以上にチートなニーブ君がいたから、やっぱ失敗してたか?


 ちなみに事情聴取で、オレっちはあのクソギツネババァの名前こそ言えなかったものの(ステータス視たのがバレるから)外見上の特徴と使っていた魔法の種類、あと魔法公であるデンバルさんを知っていた──などの情報を、チクってやった。

 上手くいけば、あのババァは小獣国内で指名手配されるだろう。


 「ウキュキュキュキュッ!」

 あ。変な笑い声が出ちゃった!

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