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第五十一話 市民魔導師

 「まあ、それは上の連中が決めることだしねぇ。お前さんたちみたいな下請けに言っても、意味がないわな。ホエッホエッ。それよりも急がないと、追っ手が来るかもしれない」

 クソギツネババァの視線が魔馬車に戻され、何かをブツブツ唱え始めた。


 「⋯⋯俺たちの逃走ルートに近い町や村の獣警団には、ニセ情報を流してある。あと、乗客の中にも仲間が二人いた。奴らが連れていたガキどもを回収した後、ニセの逃走ルートを助けにきた奴らに教えるように言ってある。時間は十分稼いだハズだ」


 下請けリーダーのスキンヘッド男が腕を組んで巨木の幹にもたれかけながら、爆弾発言をかましてくれた。


 キュ!?仕込みの奴らがいたの!?

 いや、待てよ。そもそも、あの鳥浮船便に保護施設の子供たちが乗るのが分かってたってことは、神殿内か飛行所の中にチクった奴がいたって事なんじゃないの?


 「下請けの仕事にしては上出来だね。ところで──あの第一世代の元竜人は、ここにはいないようだが?」

 「あ〜、あのお人は上からの助っ人で、別行動っス」

 「ああ、まあそれもそうか。元々、手練れがいた時の為の保険だったからね。でも、万が一の為に最後までつき合ってもらいたかったんだがねぇ。獣警団ならともかく、市民魔導師に依頼されると困った事になるんだよ」


 ⋯⋯市民魔導師って、派遣の人たちだよね?前に冒険者希望だったお姉さんが言ってた国の登録制の何でも屋さん。それがなんで獣警団より困るの?


 「なんで困るんっスか?あの連中って、一般人用の何でも屋でしょう?まぁ、時々珍しいスキル持ちもいるんで役人が依頼することもあるみたいっスけど」

 ソバカス借金男も、オレっちと同じ疑問を持ったようだ。


 「やっぱりお前は馬鹿だねぇ。役人が依頼するのは、あそこが国家運営だからだよ?市井の依頼の中には、お前さんたちのような闇組織に関するものだってあるんだ。獣警団のように事件が起こってから対処する案件でも、市民魔導師なら事前の段階で嗅ぎ回れるし、とにかく人材が多い。そのために、引退した元国家魔導師どもを登録してるんだよ。奴らも出身地に戻って暇を持て余しるからねぇ。しかも、同じく暇になった元冒険者どももいる。引退したとはいえ、魔物相手に戦ってきた奴らだ。闇組織連中なんか浅い階層の魔物みたいなもんだろ」


 クソババァだが長く生きてるだけあって知がある。市民魔導師って奥が深いんだな。オレっち的には、前世の派遣業のイメージしか無かったから、目からウロコ。


 「魔法陣はできたから、ガキどもを魔馬車に戻しな。魔導器を調整したら、すぐに術を発動させるからね」


 はっ!再びのピンチ!!



 ドオオオン!


 クソババァが魔法鞄(マジックバッグ)から幾つかの魔導器を取り出し始め、オレっちたちが荷台に戻される直前、地面が揺れた。


 キュ!?今度は何!?


 ドオオオン、ズシン!ズシン!


 巨木の間から見えてくるのは、土煙と遠目でも巨体だと分かる銀色の土魔法人形──ゴーレムだ。それがドンドンとこちらに近づいてきた。


 オレっちはハッとした。

 あれは──ヒーローゴーレムシリーズの中の一体、鋼鉄の(ジー)レムなのでは!?

 掘削ドリルを持つ元鉱山専門のゴーレムで、モグラ似の小獣人、アイザックの相棒!

 いや〜、あの初登場はびっくりしたね。いきなり地面から穴開けて出てきて、悪の組織の岩ゴーレムの腹をぶち抜いたもんね。でも、鋼鉄のGレム自身はしゃべれないから、彼の肩に乗っかってたアイザックが、ひたすら状況説明してたっけ。


 「ホエッ!?アレは、デンバルの──悪いけど、アタシは今回の仕事、キャンセルさせてもらうよ!!」


 クソギツネババァはあっという間に転移し、残された闇組織の下請け業者⋯じゃなくて、誘拐犯たちは、銀色のゴーレムが間近に迫ってきた時点で我にかえった。


 「兄貴⋯⋯」

 「詰んだな」


 そこからの彼らは速かった。無事だった魔馬車の方に乗り込み、猛スタート。オレっちたちが乗せられていた魔馬車は、リーダーだったスキンヘッドとソバカス男が乗ったが、片方の馬魔獣が不在だったため、スタートしてすぐに斜めになって傾いた。

 しかし、そこは老馬とはいえ、さすが馬魔獣。あっという間に姿が見えなくなった。


 「逃げちゃいましたね、犯人たち」

 「よい、よい。今回の依頼は、子供たちの保護じゃからのぉ。それより、ニーブとやら。お主のスキルはスゴいのぉ。子供たちの居場所を正確に当てるとは」

 「いえ、いえ。僕は補助スキルのみなので、犯人の対処は、デンバルさん──魔法公にお任せするしかなかったですし」

 茶トラの猫獣人の少年が、ミーアキャット似の老人に苦笑する。


 「ホホ。さて、子供たちは全員無事かの?」

 魔法公爺さんが、オレっちたちを見た。

 「⋯⋯オジーちゃんが助けてくれたの?」

 「まあ、儂のゴーレムを見て逃げたんなら、そうなんじゃろな」


 ワーッと子供たちから歓声が上がる。オレっちは別の意味でも歓声を上げたけど。


 「助けてくれて、本っ当にありがとうございました!ところでこのゴーレム、もしかしてヒーローゴーレムの鋼鉄のGレムですか!?」

 「⋯⋯ひーろー?コウテツノジーレム?」


 残念無念。ただの鉄ゴーレムでした!


 「国境を越える前に追いついて良かった。人間の国までは追えんからのぉ」

 「⋯⋯それに、連絡のあった犯人の逃走ルートとはまるで違っていましたから、僕の探索スキルが無ければ間に合わなかったでしょうね。まあ、ウルドラシルしかない場所に数十人の生命反応があったので解りやすかったですが」


 そうだ、他の子たちやエイベルは!?


 「あの、他の子供たちや乗客は、全員無事なんですか!?」

 「何人かは救助されとるが、全員かどうかは分からんのぉ」


 まあ、捕まったのはここにいるオレっちたちだけだから、他の人たちは逃げ切ったのかも。だったら安心なんだけど。あっ、そうだ!

 「あ、あの!犯人が、自分たちの仲間が乗客にいてニセの情報を流したって言ってました!」

 「なんと!」

 「ああ、道理で。すぐに本部へ連絡しないと⋯⋯連絡用魔法紙に書いて、っと⋯⋯これでよし」


 なぜ、紙に書いただけで『よし』なの?


 「あ、了解しましたって、返信がきました!」

 もしかしてあの紙は、メールみたいな機能があるの!?





 ◇◇◇◇◇


 「さて、本格的な救助がくるまで休憩しようかの。ゴーレム作成後は、ほぼ、仕事をしとらんが」

 魔法公爺さんは、土魔法で造った岩に腰掛け、肩から下げていた魔法鞄(マジックバッグ)から、水筒を取り出した。


 グゥグゥ〜ギュルルル!


 オレっちの腹が盛大になった。

 「⋯⋯」

 「⋯⋯」

 「腹が減っとるのか?」

 「ハイ。ペコペコのペッタン腹です⋯⋯オレだけじゃなくて、ここにいる子供たち全員」


 飢えた子供たちの視線は、魔法公爺さんの魔法鞄に注がれていた。

 「いつもならおむすびをストックしとるんじゃが、今日に限っては一つも残っとらんのじゃよ。飴も⋯無いな」

 魔法公爺さんが鞄に手を入れても、何も出てこなかった。オレっちたちのテンションが一気に下がる。

 しかし、次の瞬間、救世主が現れた。


 「僕の鞄にはパンがたくさんありますよ!時間停止の魔法鞄なので、日頃から貯め込んでるんです!」


 茶トラ少年──ニーブと呼ばれていた猫獣人が、自分の魔法鞄をオレっちたちに見せる。

 その魔法鞄は、魔法公爺さんの物よりも少し大きなサイズだった。

 鞄のガマ口をパカッと開ける。その中に手を入れたかと思うと、次に手が出た時には、美味しそうなパンが掴まれていた。


 「ほう。その歳で時間停止の魔法鞄持ちとは⋯⋯たいしたもんじゃな」

 「これは、両親の形見なんです。先祖代々受け継がれてきた年代物なんで、ちょっと革が色褪せてきてますが。さあ、皆、パンを配るからこっちにおいで!」


 子供たちはキチンと一列に並び、パンを二個ずつ受け取る。どのパンもシンプルな麦パンらしく、好みのパンを争うこともなかった。

 オレっちも皆とさほど変わらない歳だったが精神的には大人なので、最後尾に並び、その間に魔法公爺ちゃんのステータス確認をしておいた。

 鋼鉄のGレムのそっくりさんを造り出すぐらいだから、きっととんでもないステータスのハズ。

 ステータス・オープン!



 名前 デンバル  加護種名 ミーア


 HP 500/500  MP 2100/2800


 土LV9 火LV9


 スキル ゴーレム生成(大) 錬金錬成 火砕爆撃 


 古き神々の一柱、ミーアミーアの眷属。元特級国家魔導師。魔法公だが、他の魔導師たちにはゴーレム公と呼ばれている。一般的な石や岩のゴーレムとは違い、金属製のゴーレムを造ることができる特化型の天才。

 ただ、彼自身はゴーレムに関して思い入れがなく、どちらかというと錬金錬成の延長で造ったものが多い。

 蒼き獣魔女ことアナスタシアとは面識があるだけの間柄。そもそも魔法の研究分野が違うので、接点が少なかった。

 アナスタシアと同じく、小獣人にしては珍しく火魔法に長けている。別枠の得意技は、かまど炊き。自分で造った土鍋とかまどで極上の米を炊き上げる。別名、おむすび公。


 ⋯⋯おむすび公⋯⋯。

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