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第五十話 今生最大のピンチ④

 『なんで、あんなハズレ馬を連れて来たんだよ、お前は!!』

 『いや、だって、作戦前日に一頭が老衰で死ぬなんて思ってなかったから、急いで買いに行ったらバカみたいな値段で普通の奴は買えなかったんっスよ!』

 『お前⋯⋯もしかして⋯⋯』

 『⋯⋯仕方ないから、ちょっと問題のある──ものすごく値引きされた奴しか買えなくて⋯⋯』

 『馬鹿野郎!!ソレは使えねぇから、格安なんだろうが!!』

 『だから、この制御の魔法具で強制的にコントロールしてたんっスよ!ギリギリ制御できたから、多分⋯多分、大丈夫かなって⋯⋯。そもそも、あんなはした金しか渡してくれなかった兄貴たちが悪いっス!!馬魔獣の相場、全然知らなかったんでしょ!?』

 『⋯⋯』



 めっちゃよく聴こえる。換気穴からどころか、荷台全体からって感じ。どんだけ薄いの、この板?


 「クンクン。あま〜い匂いがする⋯」

 「お兄ちゃん、甘くて美味しそうな匂いがするね」

 「もしかして、お菓子、持ってる?」


 「キュ!?」

 外の会話を拾ってるうちに、いつの間にかオレっちを取り囲むように子供たちが集っていた。


 「⋯⋯」


 ハッ!花!──オレっちの花冠の匂いか!


 荷台の中は天井近くの換気穴だけだから、薄めのオレっちの花の匂いでも、結構、充満してた!?溶けたサンオイル⋯じゃなくて、溶けたキャラメルの匂いが!!


 「お腹空いたよ〜⋯」

 「お菓子、頂戴!」

 「⋯⋯いや、なんも持ってないんだけど」

 ベスト裏の財布以外は。


 グゥ〜グキュ〜


 「⋯⋯オレも、腹が減った⋯⋯」

 オレっちの腹時計は正確だ。今は、お昼のランチタイム。空弁⋯⋯食べたかったな。


 「喉も渇いちゃった〜⋯」

 「あ。水、水なら少し出せるけど⋯⋯」

 オレっちは水魔法で、ウサギっ子の両の掌に水を出して⋯⋯アレ?魔法が発動しない!?


 「私も水、飲みたい!」

 「オレも欲しいよ〜!」

 「おみゅず⋯⋯ううっ!」


 スマン。なんかこの荷台の中じゃ魔法が出ないみたい。チートなしの非力でショボいオレっちを許しておくれ。


 グゥウゥ〜⋯


 お腹が減って、喉が渇いて──子供たちが泣いて──その上、冷却魔法具の効きが悪くなってきて、暑いし。ううっ!!

 「キュっ!ジジジジジジジ!!」

 久々に出た!変な鳴き声!! 


 『な、なんだ!?この音!?』

 『兄貴〜、荷台の中から聴こえたっスよ〜?ガキどもがなんかおかしなモンでも持ってるんじゃないっスか〜?』

 『⋯仕方ねぇな。荷台を開けて確認してみろ!』


 ガシャン!と鍵が開けられる音がして扉が開かれ、光が差し込んだかと思うと、空気が一気に入れ替えられた。


 グゥウグゥウ〜


 「お腹空いた〜!」

 「喉、渇いた〜!」

 「キュ!お水と食べ物、おくれ〜!!」


 扉前に殺到したオレっちと子供たちに、ソバカス顔の人間の青年が、後退りした。

 

 「⋯⋯兄貴、別の意味でヤバイっス!」

 「⋯⋯食べ物は無ぇが──オイ、水魔法使える奴!出して飲ませてやれ!」




 ◇◇◇◇◇


 「よし、全員、水を飲んだな!」

 「⋯⋯魔力がスッカラカンになったんで、こいつは戦力外になったっスけどね」


 うん。ステータス画面で確認したけど、誘拐犯メンバーの小獣人一人は、MPがほぼ残って無い。良きかな良きかな。地味に戦力を削れた。

 外に出てびっくりしたのは、オレっちたちが乗せられていた荷台の御者席と荷台が巨木に寄りかかるように停車していたことだ。荷台の底には浮遊魔導器が取り付けられているので、浮いた状態になっている。

 馬魔獣は一頭だけが繋がれており、その隣に繋がれていたはずのもう一頭の馬魔獣の姿は無かった。おそらく、野に放たれたのだろう。達者でな。


 その近くには、誘拐犯たちが乗っていたもう一台の魔馬車が停車していて、こちらは元々一頭のみだったようだ。

 しかし、この二頭⋯⋯なんだか街で見かける馬魔獣のような覇気がない。かなりのご高齢とみた。明日にでも天寿を全うできそうだ。ここまで使い倒すとは──どんだけ金がないねん。


 ところでここは、何処だろう?巨木──ウルドラシルの森の中だろうとは思うけど。

 こうした巨木と巨木の間が開きすぎて見通しの良い場所には魔獣が出ないから、主要街道を使えない犯罪者の逃走ルートとしては正解なんだろうけど、今みたいにトラブった時には、すぐには助けを呼べない不便な場所でもある。


 ──ん?なんだ、あの白い小鳥魔獣は?


 勢い良く白い小鳥が飛んできたかと思うと、ビーィン!と、魔馬車が寄りかかっている巨木の幹に、嘴ごと突き刺さった。

 特攻魔獣!?


 驚愕するオレっちの視線の先で、特攻鳥は白い紙になり、ヒラヒラと幹の下、草の上へと落ちていった。

 どうやら魔法生成の疑似生物だったらしい。落ちた紙をソバカス顔の細身の男が拾って、サッと両手で広げる。


 「兄貴、例のお人が承諾してくれたみたいっス。請求金額がヒドイっスけど」

 「別料金で追加か⋯⋯予算のほとんどが、あの婆さん一人に消えたな。はぁ。もっと馬力のある馬魔獣だったら俺たちも乗れて、一台だけでガキども連れて逃走できたのに⋯⋯」

 人間にしては大柄なスキンヘッドが、盛大にため息を吐く。


 ⋯⋯婆さん?






 ◇◇◇◇◇


 「ホエッホエッ!毎度あり〜!」


 紙飛行機が飛んできてからわずか一分後、青い──少々くたびれた毛並みの狐獣人婆さんが、突然、目の前に現れた。

 コレって、瞬間移動──転移魔法じゃないの!?婆さん、スゲェ!!


 「さて──この魔馬車だね。転移させるのは」

 婆さんの先だけ白い五本の青い尾が、それぞれ別々にクネクネと揺れる。


 「ああ。最初にアンタに頼んだ国境近くまで行けなかったから、ここからアッチに転移させてくれ」

 「ソレはいいが、準備に少し時間が掛かるよ。距離がある分、最初に用意した転移陣にまず移転させなきゃならないからね。さらに、こうしたデカブツは、魔法陣と魔導器の連結が──まあ、あんたらに言っても意味がないやね。ホエッホエッ」

 「⋯⋯何でもいいが、頼むぜ、婆さん」

 スキンヘッドの大男は、疲れた顔でそう言った。

 「婆さん呼びは止めな。通り名の方で呼んどくれ!」

 「通り名っスか?あー、確か、ボッタクリ(バー)とか言われてましたっけ!」


 ソバカス顔の男の言葉に、婆さんの銀色の目が半眼になった。

 「⋯⋯『蒼き獣魔女』だよ。これだから学のない人間は嫌なんだよ」

 「えー、俺、一応、高学歴なんっスけど〜?」

 「人間ってのは、分かりやすい嘘を吐くもんだね〜、ホエッホエッ!」


 いや、いや、アオキのジューマジョさん。そいつ、結構なエリートだったんだよ。ただ、妹に騙されて連帯保証人にされて借金奴隷になって、手っ取り早く借金を返すために裏組織に入った、ある意味バカな奴だけど。

 ステータス画面では、記憶力はいいが単純思考って書いてあった。

 そうだ!ジューマージョさんのステータスも視ておこう!

 ステータス・オープン!



 名前 アナスタシア  加護種名 キューヴィ


 HP 400/400  MP 2100/3000


 火LV8 風LV8 土LV6


 スキル 空間接続転移(制限あり) 魔法生物生成(小) 魔法薬生成(大) 蒼火球連弾

(かつてあった魅了(小)は、老いのため自然消滅)  


 古き神々の一柱、キュヴィアの眷属。ビスケス・モビルケの元第1級国家魔導師。生来の魔力の高さと美しい容姿(若き頃)で、人生勝ち組だった。

 特に空間魔法理論と魔法薬生成に長け、かなり高位の役職にまで昇り詰めた。

 しかしその反面、結婚相手に対する理想が高すぎて婚期を逃し、いつの間にか双子の妹が結婚して孫まで生まれていた事に、ショックを受ける。

 もう一度獣生をやり直したいと、若返りの魔法薬を研究している。その資金稼ぎのため、違法な組織からの依頼を受けていた。

 通り名は本名を知られないための手段ではあるが、闇組織界隈では、ボッタクリ婆、銭オババなどの呼び名の方が定着。


 ちなみにこの世界では、魔法学協会に認められた知識人の女性のことを魔女と呼ぶ。男性の場合は、魔法公。

 彼女は()()魔女だが、そう称することだけあって、スキルとして特化していない普通の魔法も、激強。

 しかも、小獣人には珍しい火属性持ち。MPも小獣人としては例外的に高いので、勝機を狙うとしたら老いて低くなったHP狙いの体術一択。




 ⋯⋯若返りの秘薬ねぇ。人生やり直したいのは分かるけど、まっとうに稼いで欲しかった。

 そう思って見つめていたのが悪かったのだろう。ジューマージョさんが、オレっちを見た。


 「おや?その水色の頭巾の子は──」

 「オーレが捕まえた、マリスだよー」

 オレっちを捕まえたグリズリー獣人が、胸を張って自慢する。

 「⋯⋯そのおかしな巻き方の布の下──そいつの頭には、花が咲いてるハズだよ」

 「アホの子なのー、コイツ?」


 違うわ!アホはお前だ!!っと言いたいが、マズイことになった。この婆さん、オレっちがカリスだと知ってるんだ!


 「見かけ通りのお馬鹿だね〜お前は。そいつは、秋の大祭の一番手⋯つまり、絶滅寸前の加護種、カリスだ。そいつの頭の上の花は、最高級ポーションの材料なのさ。ホエッホエッ!生きた魔法紙幣の山を捕まえるなんて、馬鹿は馬鹿でも役立つ馬鹿だね〜」

 そう言って、オレっちに近づいてきた。


 「そういえば、何年か前にカリスの花が競売にかけられていたね。あんまりにも久しぶりだったから、かなりの額になって、最後は国の代理人が競り落としたハズだ」


 キュ!あのカモ⋯じゃなくて、とーちゃんの花って、最終的にどんだけの金額になったの!?


 「アタシの秘薬にもぜひ使いたいとこだけど⋯⋯厄介だね〜。花はここにいる本人しか切れないし、あんまりにも花が貴重過ぎて、闇に流しても人間の国じゃ買い手がつかないかもしれない」

 「殺したら切れるモンじゃないのー?」


 なんてこと言うんだ、このクズズリー!!


 「お馬鹿!死ねば、花も枯れるんだよ!!」

 ⋯⋯そうなんだ。知らんかった。ってか、助かったぜ、婆さん!


 「とりあえず組織で()()()いい。成獣人になってから借金奴隷にして、自分から花を切らせるんだ」


 このクソギツネババァ!なんつう外道な発想しやがるんだ!!

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