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第四十八話 今生最大のピンチ②

 変異魔獣とは、古き神々の降臨前の時代の濃い魔素の影響と過酷な弱肉強食の状況下で、異常な進化を遂げた一部の古代の動物たちのことだ。

 彼らには二種類あって、一つは本来の姿を留めつつそこにプラスアルファしたようなもの。ヌーエはこっちの方で、魔獣体に皮膜翼がプラスされている。もう一種は、本来の姿からかけ離れた異形の姿をしたものだ。

 これら二種は総じて体力や魔力が高く、さらに知能までもが高い。

 複合魔法を使える時点でほぼ魔物扱いされており、樹海の固有種魔獣と共に、ウルドラム大陸のヤバイ魔獣のツートップである。


 古き神々は、奴らの生殖能力の低さから危険だとは判断せず、そのまま放置した。

 実際、奴らは数が少ないし、人も襲わない。奴らの食料は同じ魔獣であって、わざわざ手強い加護種なんぞ相手にする必要もないからだ。



 「──マズイ!鳥魔獣たちが混乱している!!」


 ヌーエの飛来に気づいたタンチョウ鳥魔獣が、航路と違う──ヌーエが飛んできた方角の逆、南西の方向へと鳥浮船ごと移動していく。

 日頃の訓練の賜物なのか、混乱して猛スピードで逃げているのに、どのタンチョウ鳥魔獣も個別に散らばることなく、方向だけが変わっている状況だ。


 「ガアアア!!」

 バチバチバチッ


 黒銀の皮膜翼を持つ虎?似の巨体のヌーエが、攻撃してきた鳥獣人たちに向かって、雷球を放つ。

 「電撃──複合魔法だ!!」

 「普通の剣は使うな!魔法剣を使え!!」

 「クソ!空の上じゃなかったら、俺の氷魔法で凍らせてやったのに!」


 雷系だと普通の金属製の武器は使えない。しかも、相手も風魔法を持っているから、鳥獣人得意の風魔法も、効きが弱い。

 また、甲板から他属性の魔法を放とうにも距離がありすぎ、思うように攻撃できなかった。

 鳥浮船の乗務員たちが苦戦しているなか、オレっちは気づいた。


 鳥魔獣たちが逃げる方向の先に、空中に浮かんだ的のような映像があることに。


 「エイベル、アレ、何だと思う?」

 「⋯⋯なんだか〜グルグルした〜渦巻きみたいな模様だね〜?」


 そんなオレっちたちの会話が聞こえたのか、近くにいたブチ猫乗務員さんが、そっちを見た。

 「あれは──催眠魔法だ!マズイ!鳥魔獣たちが操られている!!」

 「キュ!?」


 あのペロペロキャンディーみたいなのが、催眠魔法!?


 そうこうしているうちに、操られたタンチョウ鳥魔獣たちは、的近くで降下し始めた。高度が少しずつ下がっていく。

 ヌーエの方は、新たに加勢にきた鳥獣人二人を見るなり、来た方向へと引き返していった。知能が高いだけあって、判断が早い。

 そして、状況判断が早いのは、鳥浮船の乗務員たちもだった。


 「この下に、これを仕組んだ奴らがいる!俺たち以外の者は、船内に入ってくれ!!」

 「飛行所には連絡したから、この辺りで一番近い町から応援が来る筈だ!」


 乗務員たちの指示で、オレっちとエイベル、甲板にいた客たち──無邪気に遊んでいた子供たちも、あわてて船内へと入っていった。

 すでに緊急警報が鳴っていたので、船内の他の乗客たちも異変に気づいており、皆、不安気な顔をしていた。


 「犯人が、どのぐらいの人数なのかが解らない。もし、魔法やスキルに自信がある者がいたら、参戦して欲しい。だが、無理はしなくてもいい。最悪の場合は、皆、逃げてくれ」


 乗務員のリーダーっぽい(戦闘能力的な意味での)熊獣人が、緊張した面持ちで、言葉を続ける。


 「その際、飛べる者や特殊なスキルを持つ者は、子供たちを助けてやって欲しい。今回の乗客は、幼い子供が多い。そして、できるだけバラバラに散って、犯人を惑わせてもらいたい」


 それは誰かを犠牲にして、他の者を助ける方法だろう。非情だが、最悪の事を考えると、それしかないのかもしれない。

 オレっちもエイベルも戦闘力ゼロだから戦えないし、むしろエイベルがオレっちを抱えて飛んで──あ、無理だわ。オレっち、重すぎる。


 「⋯⋯エイベル、抱えられそうな子供の側に居てやってくれ。オレは、自力でなんとかする」

 「タロス〜⋯⋯」

 エイベルが泣きそうな顔をして、オレっちを見た。そして、ハッとしたように言った。

 「タロス〜そのスカーフを頭に巻いて〜!絶対に〜花に気づかれないようにするんだよ〜!!」


 あ。オレっちの花冠、お宝だった!一番ヤバイやんけ!!


 「これならどうだ、エイベル?」

 最初は普通にスカーフでアゴ結びしたほっかむりスタイルだったが、エイベルの頬が少し膨らんだので、鼻下で結ぶ、いにしえの空き巣巻きスタイルで巻き直してみた。


 「⋯⋯!」

 エイベルの頬が、限界まで膨らんだ。

 ⋯⋯前世の性なのか、ど〜してもそっちの方向へと向かってしまうオレっち。

 「さて、冗談はこのぐらいで──キュ!?」


 ドゴーン、ドーンと激しい音が連続で聴こえて、戦闘が始まったことを知った。

 大人の客の何人かは乗務員たちの加勢に加わり、鳥獣人を中心とした残りの大人たちは、それぞれ子供たちを抱えていた。エイベルも、一番小さいネズミ似の獣人の子供を、皮膜翼の中に入れている。


 オレっちは、とりあえず走って逃げることにした。

 小獣人だから素早く移動──できるかな?この弛んだ腹で?いや、風魔法で補助すれば、それなりに動けるハズだ。⋯⋯多分。


 「皆、甲板に上がれっ!!」

 転がるように客室へと入ってきた犬獣人が、大声で叫んだ。

 「敵に規格外の()()がいる!皆、甲板に出て、逃げる準備をするんだ!!」


 ホエ?規格外の人間??

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