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第四十七話 今生最大のピンチ①

 ドドドドドドドド!


 オレっちは今、生まれて初めて馬魔獣が牽引する魔馬車に乗っている。

 前世の車並に速く、外の景色はさぞかし流れるように見えるだろう。⋯⋯見えていればの話だが。

 そう。魔馬車は魔馬車でも、馬魔獣の引く荷台の中に閉じ込められているのだ。

 

 「うぅう⋯⋯」

 「怖いよぉ」

 「どこに連れて行かれるんだろう、僕たち⋯⋯」


 19人(オレっちは除外)の幼い獣人たちが心細げに身を寄せ合い、必死に恐怖と戦っていた。

 荷台の中には椅子どころかクッションさえ無かったから、皆が木の床の上に直座りしている。

 幸いなのは、天井近くに換気するための小さな穴が幾つもあることと、オレっちたちが身に着けている冷却魔法具が、暑さを軽減してくれている事ぐらいだ。


 なぜ、こんな事になってしまったのか──と、回想する前に、ちょっち眠いので、ゴロンと横になる。こんな状況で眠れるオレっちって、ホントに豪胆な(おとこ)。(自画自賛)

 周りの子供たちの唖然としている視線を感じるが、オレっちは気にしない。

 ⋯⋯本当はオレっちだって、泣きたくなるほど不安なのだ。でも、ここでメソっても助けは来ない。だったら体力だけでも温存しておく必要がある。

 ──まだ、希望はあるのだ。







 ウルドラへと旅立ったその日──

 

 前回と同じく、執事さんの魔牛車で国内専用の飛行所へと着いたオレっちとエイベルは、まず売店へと向かった。

 かーちゃんの『朝からダイエット』に付き合ったせいで、お屋敷から出発してまだ二時間も経っていないのに、空きっ腹になってしまったからだ。

 普段の朝食が、ご飯が大盛りで二杯、味噌汁が二杯、オカズが三品──それでも昼前には空腹だったのに、その半分以下ではやっていられない。


 「ハイ、玉子サンドとレーズンパンで、300ベルビーね」


 売店のコツメカワウソっぽいオバサンが、紙の袋にパンを入れて渡してくれる。それを飛行所の待合室の長椅子で、エイベルが奢ってくれたオレンジジュースとともに食す。エイベルはジュースのみで、オレっちが食べ終わるまで何も言わず、隣で待っていてくれた。


 「は〜⋯コレで昼までは保つな!」

 「お昼は〜また空弁だね〜今度は〜何にしよう〜?」

 去年はとりあえず一番人気の幕の内っぽいやつだったから、今回の行きは、別のにしーようっと!


 それからまた、ウルドラとの国境近くの飛行所へと移動。前回ほど飛行所内をウロウロしなかったので、早めに次の鳥浮船乗り場へと着いた。ちなみに搭乗料金は、半大人金額。嬉しいんだか悲しいんだか。


 「デケー!」

 「大きいね〜!」


 さすがはウルドラの首都行き鳥浮船。通常の鳥浮船の三倍以上はある大きさで、それを運ぶ六羽の鳥魔獣は、前回の白鳥似の鳥魔獣の二倍はある大きさのタンチョウ似さんたちだった。


 頭部は青で翼の先も青(異世界配色?)、その他は真っ白。そのフォルムと美しい色合いで、めっちゃ優美感がある。

 彼らもまた六枚翼だが、一対の翼だけが尾に近く、なかなかのオサレ感だった。それに、脚の長さが全然違う。長げぇ。


 「中も広いな。前回の三倍くらいはあるんじゃね?」

 「うん〜。でも〜その代わり〜、乗せる人数も多いから〜──あ!」

 「幼獣人の団体客かな?」


 「あたし、ココの席〜!」

 「アタイはココっ!」

 「ボクもココー!」

 「ズルい!もう窓際の席が無いじゃん!」

 「ズルイ〜!!」

 「──ハイハイ、窓際にばかり座らなくてもすぐに甲板に出られるから、ケンカしない!」


 はしゃぎなからゾロゾロと席に着いていったのは、オレっちと同じくらいか、それより幼い子供たち。彼らを注意している大人たちの服の背中には、見覚えのあるエンブレムがあった。

 アレだ、アレ。秋の大祭の時に着ていた服の──獣神殿のシンボルマークである魔法陣っぽい円形の、幾何学模様のアレっ!


 「あの子たち〜多分〜保護施設の子たちじゃないかな〜?」

 「多分、そうだな」

 神殿は、孤児や何らかの理由で親元にいられない子供たちを保護するための施設を併設しており、その運営費用は、税金と善意の寄付によって賄われている。


 統一国崩壊以降から二千年以上も他国との小競り合いさえない平和なビスケス・モビルケでは、爆発的に孤児が増えたりすることは無い。

 しかし、ダンジョン冒険者である親を亡くした子供たちや、魔獣関係の事故、そして、魔法によるミス的な事故で肉親を喪った者は、多々いる。

 さらに貧困や虐待、その他、いろいろな理由で施設に預けられる子供もいたりする。


 彼らは最長四十歳ぐらいまで施設で生活できるが、大半の者は獣学校の第5レベルクラスを卒業すると、休学し、そのまま職を転々として自立できる金を貯める。

 その後、学校に復学する者、または、そのまま学校に戻らず、適性のある職に就く者もいる。

 その際に保護施設を出る人も、多い。もともと施設に馴染めない人は、もっと早くに出て行くって話だ。

 もしかしたら、オレっちたちのクラスメイトにも、施設の子供たちがいるかもしれない。何しろ獣学校の隣が獣神殿だもんな。当然、近場に通うから、人数も多いハズ。


 「あら、貴方、秋の大祭に出ていた子ね?」


 二人の仔猫獣人と手を繋いでいた女性が、オレっちに声を掛けてきた。

 「騒がしくて御免なさいね。初めて旅行する子たちばかりだから、皆、興奮しているの」

 「いえ、いえ。オレたちの事はお気になさらず。人数が多いと大変ですね。ところで、ウルドラのどの辺りを旅行するんですか?」


 大人びたオレっちの言葉に、一瞬目を見開いたダックスフンド似の女性──施設職員さんは、次の瞬間には口元を緩ませていた。

 「まあ、まあ、まだ幼いのに、ずいぶんとしっかりしているのね。私たちはウルドラの竜神殿に招かれたのよ。数年に一度の交流会でね。竜人の子供たちはウルドラの外には出られないから、交流会と言っても、いつもこちらから会いに行くだけになるのだけど」


 あ〜、そっか。竜人たちは国外に出られないから、人の行き来はどうしても一方通行になるわな。

 そう思うと、気の毒な加護種ではあるんだよね。他の加護種よりも頭ひとつ分高いステータスだって、竜人同士なら差がないから優位性もないし。


 それでもさすがは、かつての宗主国。国を閉ざさず常に受け入れ、大陸のど真ん中という地理的な強みを活かし、観光立国として外貨を稼いでいる。


 そうするうちに、鳥浮船は飛び立った。そして、前回と同じく、オレっちは緊急脱出用の黄色の魔法具傘を手に持ち、エイベルと共に甲板へと出る。


 「今回の空路も途中までは同じだから、あと一時間ちょいぐらいで、樹海が見え始めるよな?」

 「うん〜。この鳥浮船の方が〜スピードがあるから〜もっと早いかも〜?」


 船は大きいが、船底に取り付けてある大型浮遊魔導器もまた複数あり、その上、八羽のタンチョウ鳥魔獣の大きな翼が風を受け流しながら、空を驚くべき速さで飛んで行く。多分、前回の白鳥鳥魔獣の二倍のスピードがあるんじゃないか?

 しかも彼らと同じく、休憩無しで半日以上は飛べると言うから、ホントにスゴい。


 「わぁー!」「広〜い!」「かくれんぼしようよ〜!!」

 保護施設の子供たちが、甲板にドッと押し寄せる。


 「危ないから、端には行かないでー!!」

 「他の皆さんに迷惑をかけちゃ、駄目だよー!!」

 施設職員さんたちがあわてて彼らを注意していたが、甲板は広いので、あっという間に子供たちは散らばり、統制不可能になっていた。

 旅って、大人でも心が浮き立つもんだから、子供なんてなおさらなんだよね。オレっちだって、精神的には大人だけど、今でもウッキウッキっすよ!




 出発してから約一時間後──オレっちは、すでに見えていた樹海から目を逸らせて、別の方向へと目を向けた。

 黒い何かを見つけたからだ。

 「エイベル。アレ、何だろう?鳥魔獣かな?」

 「⋯⋯タロス〜、この空域には〜野生の魔獣がいないと思うけど〜⋯⋯」

 エイベルが首を傾げる。


 だよな。空路の近くには野生の魔獣の生息地は、無い。だからこそ、鳥浮船が安全に飛べるのだ。じゃあ、アレは何なの!?


 ビービービー!!


 船内に、警報音が鳴り響いた。二分も経たないうちに、甲板中央へと大獣人と小獣人の鳥浮船乗務員たちが集まる。前回よりも大型船のため、乗務員もメンテナンス作業員も多い。

 その中の鳥獣人が三人、船から飛び立ち、ドンドン近づいてくる黒い塊に向かって飛んで行った。彼らが黒い何かの手前でホバリングする姿が見えた時──


 「──翼魔獣(よくまじゅう)!ヌーエだ!!」


 甲板に残っていた鳥獣人の一人が、大声で叫んだ。双子か三つ子のうちの一人が、偵察に行った兄弟の声をテレパシーで受けとったのだろう。

 オレっちのブア毛が、ボムっと逆立つ。

 

 翼魔獣!?あの、かつての暗黒期に異常進化した、変異魔獣の一種!?

 マジでヤバイやんけ!!

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