第四十五話 小獣インTheプールその②
「滑り台に行こうよ〜!」
エイベルの指差す方向──大きな三台の滑り台へと向かって、オレっちとエイベル、ヒンガーの三人は足早に歩き出した。
滑り台下のプールには、セーラたち女の子組の姿が見えた。すでに滑り終えたらしい。
銀色の滑り台は、噴水魔導器による水魔法のシャワーの膜に覆われ、その表面には七色の虹が架かっていた。幻想的でもあり、遊び心をくすぐる演出でもある。
「順番通りに進んでねー、ほら、そこの子!列を乱さないで!」
加護人?金髪巻き毛の人型のお姉さんが、結構強めの口調で注意する。白い水着がよく似合う清楚系美人なのに、儚げな雰囲気が微塵も無い。
それも仕方ないかも。滑り台は人気で、昇降機前は常に行列だし、ルールを守らないクズもいるもんね。
過去には、鳥獣人たち飛行種が勝手に上に上がって割り込みしてたらしいし。
だから今では上部での割り込みを禁止するため、出発口は外からは入れない作りになっていて、昇降機で下から上がらないと入れない。
「はい、じゃあ浮き輪は預かるから、前に進んで!」
十分後、オレっち、エイベル、ヒンガーの三人は、面識のない他の三人と一緒に昇降機に入り、そのまま上へと上がった。
「おお、相変わらず、高い!」
「初めての時は〜ガク振るだったよね〜!」
「⋯⋯ボク⋯⋯今⋯ガク振るなんだけど⋯⋯」
ガシャン!と大きな音と共に、昇降機が停まる。
下を見ると怖いので、目線を水の膜に移す。そして、そのまま滑り台へと座った。
「はい、スタート!」
出発口のカワセミ似の鳥獣人のお兄さんの合図とともに、それぞれの滑り台から三人並んで出発。
ゴーッと音が鳴りそうな勢いのまま、下へと滑り、最後はザバンと水の中へ。
オレっちが水面に顔を出すと、少し遅れてエイベルが顔を出し、ヒンガーはアヒル口のみを水面から突き出していた。
よいしょ!とプールから出ると、プールサイドでブルブルして水滴を落とし、風魔法で少し乾かす。
「よーし、もう一回──」
バッシャーン!!
水飛沫ならぬ水柱が立ち、オレっちたちをまたずぶ濡れにした。
⋯⋯イマ、ナニガ、オコッタノ?
ボーゼンとするオレっちたちが滑り台下のプールを見ると、スナネズミ三兄弟の一人が、水の上からプールサイドに着地していた。残る二人が、ずぶ濡れで駆け寄る。どうやらこの三人は、滑り台から下りた勢いで水面を走り、最後に水柱を立てジャンプしたらしい。
──許せん!マナーを知らぬガキどもが!!
「オイ、コラァ──」
「そこのガキども!何してくれとんねん!!」
オレっちよりも大きく甲高い声が、後ろから聴こえた。そして、プールの水がムチのように伸び、三兄弟をまとめて掴んで、水中へと引き込む。
「チュウ!」
「チュ〜!」
「チュウゥー!」
プール内の一部だけにできた渦が、洗濯機のように三兄弟をグルグルと回す。しばらくすると回転は止み、目を回した三人が、仰向けで浮かんでいた。
「ルールを守らない客は、客扱いしねーからな!」
あの昇降機の搭乗口にいた加護人──白い水着のお姉さんはそう言って、水の中にダイブした。
あっという間に三匹に近づくと、一匹ずつ、プールサイドへと投げ飛ばす。風魔法を使ったのか、落ちた音がしなかった。
「タロス〜!あのお姉さん〜、人魚さんだよ〜!」
「キュ!?」
エイベルに言われて水中のお姉さんの下半身を見ると、確かに魚になっていた。
アレ、水着は?下半分、消えとるがな。
いやいや、そこも気になるが──水の中だからハッキリとは見えないが、金色ぽいウロコ?
でも、そうかー。アレがリアルな人魚姫。いや、人魚のアネゴ。
人魚──それは、海の戦闘民族!大型海魔獣とタメで勝負できる海の猛者!淑やかになんてしてたら、魔海じゃ生きていけないよね!!(陸で生活してるけど)
あ、そうだ!この国じゃ滅多に見ない加護種だから、ステータス視よ〜っと!
ステータス・オープン!
名前 アンジェリカ 加護種名 マナナン
HP 1500/1500 MP 1900/2000
水LV6 風LV4
スキル 水中大渦 水鞭 水中探査
普段は獣学校に通っている人魚の学生。小獣市民プールでは水系スキルを活かし、監視員や案内係のアルバイトをしている。
少モフ好きなので、暇つぶしも兼ねてバイトしながらウォッチング。
水中探査は、海底の地形把握や水中生物の詳細が解るスキル。その上、高い魔法攻撃能力をも兼ね備えているので、この世界の人魚は、まさに生ける潜水艦だとも言える。
彼女たち人魚の加護神は、古き神々の重鎮、大女神、マナナンティア。
かつての二柱の大神の争いには関与せず、傍観していた。そのためこの世界の海での戦闘はなく、人魚たちも不参加。
その後の竜人時代でも人魚は海の第一人者であり続け、完全な人型になれる事もあって、時代と共に大陸全土へと散らばった。一応、加護人枠。その昔、海底に国があった時代には『海女人』とも呼ばれていた。
華奢で儚げな外見とは裏腹に、勝ち気でなおかつ短気。浮気などしようものなら、その男は次の日には川か海に浮かんでいるだろう。
ヒイィ!!今まで一番怖い──ヤバイ加護種だったっ!
キュ?⋯⋯追記?
追記
彼女の水着は、魔素繊維にさらに魔法を重ね掛けした人魚用の特殊な物。水に入ると消え、水から出ると物質化する。あまりにもコストがかかり需要も少ないため、かなりの高額。しかし、遠洋の小型海魔獣一匹の取引値で買えるので、人魚たちからすると、そう高い買い物でもない。
アカン──いろいろと、アカン!!




