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第四十三話 夏休み直前の連発ショック

 夏休み前日。最後の授業の前に、獣学校の中ボス──じゃなかった、校長先生から挨拶があった。何故か立体映像で。


 いつもなら魔法ボードが置かれている教壇中央に、立体映像の校長が立つ。半透明に透けてるわけでもなく、本当に本人がそこにいる感じだ。ただし、影は無いが。


 『ゴホン。え〜、明日から夏休みに入るわけだが──』


 初めて見た。校長って、エイベルと同じ蝙蝠獣人なんだ。大きさは全然違うが。頭の天辺と胸下だけが金色毛の白いコウモリ。

 執事さんよりもはるかに大きい。⋯大獣人?いや、加護的に一応、小獣人なのか?


 『学生諸君も知っての通り、この獣学校の長期の休みは、個々の休学期間を除き、夏のこの時期だけであり、そのせいなのか、休み明けの出席率が非常に悪い』


 あー、長期の休み後って、休みボケつーか、なかなかシャキっとしないというか意欲が湧かないというか⋯⋯確かにそうだわな。


 『そして、最悪のケースとして、そのまま何十年も学校に戻らないまま年嵩となり、あわてて学校に戻るも第2、第3レベルクラスからの再編入からのスタートで50歳を迎え、結局どの段階でも卒業できないまま無学歴となった者も、ごく稀だが過去にはいた』


 キュ!マジで!?


 『夏休みは魔の期間でもある──それをよく心掛けておくように!以上!』


 ホエ〜。ビックリ!ノンビリどころか何十年も学校に戻らない人もいたんだ。周りの人たちは注意しなかったんだろうか?


 「まあ──学歴が無くても、冒険者とか家業とかで働いてる人たちも多いから。義務教育ではあるけど、本人の意志だと罰則はないしね」

 フェンリーが、アランをチラ見しながらそう言った。

 確かに前世でも学校を中退した人たちはいたけど、無料期間が20年、50歳までに卒業、その上、無料学食(主食だけだが)、学科と言う名のクラブまであるのに──もったいないよな。


 「ついでに言うと、逆に休学してた人たちは、夏休み明けに復学してくる事が多いらしいんだ」

 「じゃあ〜また〜クラスメイトが増えるんだね〜」

 フェンリーの言葉に、エイベルが嬉しそうに手を合わせた。


 「──違うね。戻ってくる奴らは、第5レベルクラス以上からの出戻りばっかだ」

 何故かアランが、会話の中に入ってきた。珍しいな。

 「第5レベルクラスで最低限の卒業認定をもらった後に休学して、一旦、職に就くパターンが一番多い」

 「そうなんだ~」

 「そうなんだよ」

 「⋯⋯じゃあ、アランも早く第5に行かなきゃな」

 フェンリーの隣にいたボビンが、アランにツッコミを入れた。


 「僕は第5が最終目標だから、休学して職を探す必要もないし、ノンビリいくよ。工芸学科の魔法染料の合成技術も磨きたいし」


 アラン──工芸学科だったのか!ところで、魔法染料って何!?


 「そうね。私も急いで上に行くよりは、専門学科で長く勉強したいもの」

 ポニー顔の女子、ステラが会話に入ってきた。


 「私は料理学科なんだけど、調理でいろんな食材や調理器具を使うでしょ?でも、個人であれだけ揃えるとなるとお金がかかり過ぎて大変なのよね。でも学校だと、高額な調理用魔導器具を食堂で借りれるし、珍しい食材なんかも学科の予算で取り寄せてもらえるし⋯⋯特に野生の魔獣肉」


 ⋯⋯ポニー顔で肉⋯⋯いやいや、オレっちたち、モフ皮の中身人間だから、それはいいのか。


 「あー、野生の魔獣肉は高いね。家畜系魔獣みたいに流通が安定していないから」

 フェンリーが、頷いた。

 「そうそう、流通と言えば、僕は将来、ウルドラ大手の貿易商に入りたいんだ。竜人たちは海の呪いで国外に出られないから、ビスケス・モビルケとの取引部門には、小獣人を採用するからね。ただ、ヴァシュラム・ルアはちょっと環境的に僕たちには合わないから、父のように数年だけあっちで働いて、ビスケス・モビルケの支店に入るって形にはなるけど」


 ホエ?環境的に合わない?


 「ウルドラって、オレたちには住みにくいの!?」

 思わず、フェンリーに訊いてみた。


 「ウルドラの聖竜都、ヴァシュラム・ルアは、石造りの建物ばかりで、緑が少ないんだ。たくさんの娯楽施設があって旅行するには楽しいけど、長期間は住めないかな。僕たち専用の家族寮は木造住宅で配慮はされてるんだけど、やっぱりストレスが溜まってしまって⋯⋯」


 そうなんだ⋯⋯ウルドラ──ヴァシュラム・ルア旅行は今年の夏の最大イベントだから、ちょっとドキッとした。

 そうか〜、旅行向きでも住むには向いてないのか〜。アレ?トムさんの息子さんたち家族は、大丈夫なのかな?


 「あ。でも、皆じゃないよ?全然平気な人も多いし。それに聖竜都の中心部以外は緑は多いから」

 さいですか。





 ◇◇◇◇◇ 


 「夏休み前にいろんな話が聞けて良かったな」

 「だね〜。皆〜ちゃんと将来の事〜考えてるんだ〜」

 「だな」

 ⋯⋯むしろ考えてないのは、オレっち一人かも。う〜む。ん?


 「!」


 オレっちの机の中に手紙が入ってる!



 タロスへ


 俺は、ポラリス・スタージャーに帰る。帰ってからすぐに『大獣王武闘会・夏の陣』を観る予定だ。年に二回ある、夏の陣、冬の陣の武闘大会は、王様主催の大イベントだ。

 過去には何度も優勝して爵位を賜った猛者もいる。俺の姉も一度だけだが参加した事がある。体術、魔法、スキル──何よりも命がけで闘う覚悟がいる。実際、死者も出るしな。

 もし、お前に度胸があるなら、出る⋯のは無理として、観てみるといい。本物の死闘をな。


 メロスより



 これは⋯⋯歩み寄りなのか?それとも脅迫なのか?





 ◇◇◇◇◇


 今期最後の登校から戻りしオレっちは、大きく成長した花の前に立っていた。


 「何じゃ、コレは!?」


 ここ数日、水やりを忘れていた罰なのか──太い茎の先には、銀色の花が──いや、ネギ坊主のような塊が付いていた。

 コレは、小さな花の集合体である花ネギか?

 目の錯覚かもしれないが、画びょうの塊のようにも見える。恐る恐る触れてみる。硬い。お前、本当に花なのか?

 ⋯⋯鑑定してみるか。


 この場合、鑑定⋯で出るのかな?

 「か、鑑定!」


 あ、出た!


 品種名 ポンポン  改良種名 チクチクポンポン


 LV2


 詳細情報

 ポンポン花の魔法改良種。目を楽しませる花としては失敗作だが、花の壁用としては成功。育成者の魔力と強い想いが、改良の重要ポイント。

 正直、このレベルでは最弱攻撃魔法さえも防げないが、拳による攻撃はギリギリ防げる⋯かもしれない。

 タネを採って育てるの繰り返しで、少しずつレベルを上げていこう。継続は力なり。


 注意ポイント。レベルが上がる度に発芽しにくくなるので、タネは全部、回収しておくこと。あと、水やりは毎日キチンとやりましょう。




 ⋯⋯めっちゃ親切な説明文。最後の一文には、なんとなく怒りのようなモノも感じるが。


 



 ☆ 補足 ☆


 校長の名はオラクルド・ロンバッツ。身長は200センチあるが、小獣人。

 成人しても150センチもないヴァチュラー神の加護種であるエイベルたちと外見が似ているのは、彼らの加護神が、共に格上である神に仕える従属神だからである。(特に犬、猫似系加護種はこの関係が多い)

 古き神々の中での階級は大雑把ではあるが存在し、その暫定ツートップが、かつての争いの元凶となった大神たちである。




 ポンポン花。白、青、黒、銀がある。異世界の多年草。

 ほっといても育つが、魔法改良するとデリケートになるので、キチンと世話をしないと枯れてしまう。今はまだ母のフォローがあるが、先の事を考えると全滅もあり得る。

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