第四十二話 歌唱大会〜老いも若きも小獣魂
『どぉ〜ん〜なに〜体が小さくても♪オイラの爪にゃ〜熱き〜心と猛毒スキルがあぁ〜宿っているのさぁ〜〜♫速攻・瞬殺♪これぞぉ〜小ぉ獣魂ぃ♫』
男歌の定番『小獣魂』。やはり何人かは、歌がかぶっていた。
ここはお馴染み、お屋敷のイベント用ホール。舞台の上で、冷却魔法具によるブア毛モフたちの熱唱が繰り広げられていた。
持ち時間は三分。どの曲も本来四分以上はあるので、途中でブチ切るしかない。リハーサル時、結構時間がかかって予定よりかなりオーバーしたので、短縮せざるを得なかったのである。
オレっちは結局、一人では緊張して歌えないと言うエイベルと、デュエットすることになった。曲は『ゴーレム獣人・砕けグシャーン!』
150年程前に公開された映画『復讐のゴーレム獣人・グシャーン』の主題歌だ。
映画の内容はというと、元冒険者グシャーン・グルル(ドーベルマンに激似の加護種)という男が、家族を悪の組織に殺され、己もまた死にかけ、ある謎の博士によって半ゴーレムとして復活し、組織に復讐するという、なかなか重めのストーリーだったらしい。
残念ながらビスケス・モビルケではあまり評価されなかったが、一部のマニアとウルドラやアメジオスでは大受けだったというから、オレっちも一度は観てみたい。
かの一部のマニアの一人であるエイベルのジイジ──執事さんは、特にこの主題歌が好きで、よく歌っているのだそうな。しかも、ほぼ出回っていない魔楽音源を持っていて、今回はそれを使用させてもらっている。
はっきり言って、数回聞いただけで歌えるこのメロディ。昭和のアニソンに似ているような⋯⋯う〜ん。やっぱ、思い出せない。ま、いっか。
オレっちはこの日のために用意した黒色のベストと、もはや体の一部と化している空色のスカーフを着用。エイベルは紫紺のベストと、オレっちに合わせて白のスカーフを首に巻いている。
冷却魔法具がいい具合に、スカーフをなびかせてくれているのだが、二人ともブア毛の毛玉状態だから、正直、カッコよくはない。
「そ、そろそろ〜出番だね〜」
「だな。あの子が終わったら次だから──お、最後の一節だな」
『さよならアナタぁ♪私は〜ワタシは〜、オンナの獣道をぉ歩いて行くわぁぁん♫』
パチパチパチ!
「よし、行くぞ、エイベル!」
「うん〜!」
舞台の上に立つと、二人並んで、ペコっと一礼する。立食用のテーブルが並べられた観客席を見ると、かーちゃんと執事さんが、これまた並んで手を振っていた。
「タロス&エイベル──曲は『ゴーレム獣人・砕け、グシャーン!』」
◇◇◇◇◇
『ゴーレム獣人♫グシャーン♪グシャーン♫グシャ──ン!!』
パチパチパチ!
完璧に歌いきった──音程バッチシ、ややオレっちの声の方が大きかったが、エイベルの声もちゃんと聴こえていた(ハズ)
残念ながら上位三位までには入らなかったが、気持ちよく歌えたので、オレっち的には満足、満足。
その後、入れ替わり立ち替わりで舞台に立ち、老いも若きも皆で歌いまくった。(かーちゃんを除く)
曲目は『マルガナの夜』や『小獣哀歌』、定番のデュエット曲『100年目の浮気』など、聴いたことがあるような無いような──とにかく、盛り上がった。ラストは『小獣魂』の全員合唱。
これもう、劇なんてしなくても、毎回、歌唱大会だけでイイんじゃね?
☆ 補足 ☆
迷作『復讐のゴーレム獣人・グシャーン』
小獣国内の興行収入は微妙でしたが、国外でのヒットで結構儲かった監督は、次なる迷作『合体獣人・コロンパトラV』を企画。ところが、この『合体』の部分が、二重加護の聖人を愚弄しているという指摘を受け、そのままお蔵入りに。
それでも根性でいろいろな異色作を公開し、『竜獣ゴズラ』『加護大魔人』などの迷作を後世に遺しました。
近年大ヒットしている『小獣戦隊・ニクキュージャー』、『ゴッドゴーレムシリーズ』の監督たちは彼の影響を受けた者たちで、そういう意味でも彼は、小獣映画界のレジェンドです。
余談ですが、ウルドラやアメジオス、人間の国などでは、小獣人、特に子供が主人公の映画はヒットしやすいです。例『ミケタマ物語』(三毛猫似の子役が主人公の映画)
ちなみにビスケス・モビルケの去年のヒット曲は、映画『真実の愛〜真紅の薔薇は白き野薔薇に負ける』の主題歌『不滅の愛』でした。カナリア女子ことビマリーの十八番でしたが、すでに封印されています。理由は⋯⋯分かりますよね?




