第四十一話 カリス親子の小獣歌
気温が少し高くなってきた。暑がりなオレっちは、タンスの奥から冷却魔法具の封印を解き、早々と手足に装着した。
今日は、地理のテスト。ウルドラム大陸の国々の地形と配置、資源やそれぞれの主な産業などの知識を試されるのだ。
「さて、この場所はどの国かな?ボビン君」
「え~と⋯か、加護人の⋯アメジオスです!」
「ハイ、正解。では、このすぐ上の隣国は?エイベル君」
「ハイ〜、ブルタルニア⋯エルフの国です〜」
「正解。では、この二国に近い人間の国は?アラン君」
「⋯⋯パール何とか?」
「ハイ、不正解。ビマリー君は、解るよね?」
「マリアベル王国です!」
カナリア女子は、ビマリーという名だったのか。物語と現実のあまりの違いに愕然としていたが、数日で見事に立ち直ったな。
「では、我がビスケス・モビルケの隣国である人間の国は?⋯タロス君」
「ね、ネーヴァっす!」
あ。別のこと考えてたから、言葉がおかしくなった!ヤベー!
「ハイ、正解だよ。ウルドラやポラリス・スタージャーは、当然、分かるよね」
ふー⋯スルーしてくれてよかった。
でも、大陸全土でたったの8ヵ国しかないんだから、楽勝なんだけどな。前世なんて200近くもあったんだよ?そもそも島国ごとに名称も違ってたし。⋯アレ、8ヵ国?
「モブラン先生!今更なんですけど、ドワーフの国ってなんで無いんですか!?」
「う〜ん。今は問答テストだから質問はダメなんだけど⋯⋯ま、いいか。確かにドワーフたちは独立した国を持っていない。その理由は二つあるんだ。一つは、そもそも彼らの居住区が大陸中央に集中していた事。もう一つは、中央にいた竜人たちが、加護を失わなかった事だ。つまり、海の呪いは、彼らにさほど影響を与えなかったんだね」
なるほど。なるほど。
そこからは各国の首都名や特産物、主だった資源の問答が続き、さすがに皆、疲労困憊していた。易しい問題から難しい問題まで多くの質問がランダムにあてられるので、緊張感が半端ないのだ。
今回は正確に答えられるものが多くて、かなりの得点が取れたと思う。オレっちとフェンリーのみだが。
他の皆は、半分ぐらいの正解率だったから、微妙なところ。この後にペーパーテストがあるので、そっちの方で点数を稼いで欲しい。
今回の地理のテストは、ホントに基本に毛が生えた程度だったから楽勝だったけど、一つクラスレベルが上がると覚えることが多くなってくるので、今後は厳しいかも。特に数学は、この世界でも厄介な科目なんだよね〜。
◇◇◇◇◇
「ふーッ。やっと全科目が終わったな!」
最終科目である統一国語の試験はリブライト先生が担当し、コレもスムーズにクリアできた。
「僕は〜、数学と地理が微妙だったから〜結果が怖いよ〜」
エイベルが自信なさ気に言う。ストレスからか、彼の黒い毛にはいつもの艶がない。
「大丈夫、大丈夫。結果が良くても、オレ、一年はこのクラスに留まるつもりだし、エイベルだって第4レベルクラスは、まだ行く気ないだろ?」
「うん〜」
「今回でテスト経験できたから、次の⋯⋯え~と、秋の大祭後だっけか?そっちで頑張ろうぜ!」
テストは、年に三回ある。でも、上のクラスレベルへと上がる意欲があれば、個別にテストを受けて合格する方法もあるので、どっちでもイイって感じなのだ。
「そうだね~。選択学科も〜第4レベルクラスに上がるまでは〜試験が無いしね〜」
そうなのだ。オレっちもダンス学科で学んではいるけど、テストは無かった。その代わり、ミンフェア先輩のKAWAII振り付けで、毎回、あざとく踊っているけども!
でも、さすがに夏休みが近くなってからは、秋の大祭用のレッスンへと変更──いや、通常路線へと戻ったが。
「そういえば~、そろそろ〜お屋敷の夏のパーティの練習も始まるね〜」
「今回は⋯⋯何だっけ?」
「歌唱大会だよ〜。三位入賞者までだけど〜景品が貰えるんだって〜」
「歌⋯か。う〜む」
ビスケス・モビルケの歌は、前世で言うところの演歌風なものが多い。
ここは一発、前世でのアニソンを──アレ?そーいえば、どんなメロディだっけ?⋯⋯もしかして、その辺の記憶は削除されてる??え~と、え~と、こう、ズンチャカ、ズンチャカ──アカン。マジで忘れとる。
仕方ない。フツーの小獣曲で歌うか⋯⋯。
◇◇◇◇◇
その日の夕食後、オレっちはかーちゃんの前で歌ってみた。『アガルタ・サブドゥナ』ってタイトルの歌だ。
はっきり言って、幼獣向きの歌ではない。
何故かって、この歌は、あるオッサンがアガルタって町の酒場で昔の恋人を懐かしんで──つーか、未練タラタラの心情をそのまま歌詞にしているからだ。でもオレっち、このメロディが好きなんだ。だから、歌詞だけオリジナルにしてみた。
魔楽音、スタート!
タタタ〜ラン、タラリラリーン♪
『かけるソースはナニかって〜♫あの頃キミに訊ねたね〜♪そ〜したら〜肉にはやっぱコレでしょ〜と〜ガーリックソースを手に〜持つキミの〜姿が〜〜♪今でも瞼に〜浮かぶんだぁあああ〜〜♫』
カチャーン!
かーちゃんが、茶碗のフチを箸で叩いた。
「⋯⋯タロス。歌詞が無理矢理過ぎて、正直、酷いわ。普通の歌にしたら?」
オレっちに対してかーちゃんがここまで辛辣に言うなんて──ショック!!
「た、例えば?」
「そうね。『君の瞳は一億ベルビー』なんてどうかしら?『小獣生いろいろ』なんかもいいわね」
「⋯⋯かーちゃん、オレっち、そんな歌聴いたことないんだけど──そうだ、歌ってみてよ!」
「⋯⋯」
「かーちゃん?」
「あんまり⋯上手くないんだけど。それでもいい?」
「うん!」
「じゃあ⋯⋯」
かーちゃんは、音痴だった。声質が良くっても、音感が壊滅的だった。その衝撃で、前世の歌を一つ思い出した。
ジャ◯アンの歌──。