表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/130

第四話 モフの見分けができるんです!からのダンジョン1階層デビュー!

 「タロス、奥様から服を頂いたのよ。お坊ちゃまがお小さい頃に着ていたものなんですって」


 そう言ってかーちゃんが寝起きのオレっちに、一着の(ベスト)を広げて見せてくれた。

 「⋯⋯」

 金地に青いバラ模様って。コレ普段着にしてたんかい、あの坊っちゃん。


 「ふふ。さすがにこれで外出はできないわね」

 あからさまに顔をしかめたオレっちに苦笑しながら、かーちゃんは、丁寧にソレを折り畳んだ。

 かーちゃんの感性が普通で良かったわ。しっかしコレを使用人に下げ渡す奥様の感性は死んどるな。それとも、新手の嫌がらせか?


 ここの奥様は、狐獣人。紫銀毛の美女である。三尾のナイスバディの持ち主。跡取りである坊っちゃんも狐獣人のイケメンだ。細面の華やかなお兄さんなので、あの衣装も違和感なく着れただろう。

 ちなみに旦那様とお嬢様は狸獣人。旦那様はちょっと太めな体型だが柔和なお顔立ちをしている。お嬢様も丸顔モフモフの可愛い系。前世で例えるなら、80年代アイドル顔?

 厳密に言えば神々の眷属だから、狐だとか狸だとかではない。実はオレっちたちカリスと同じで、それぞれの神の名をもじった加護種名がある。だが、面倒なので前世のモフ名で呼称しておく。



 それよりお気づきだろうか?オレっちがモフ顔の美醜や年齢の判別が出来ることに!


 前世の人間時代は、同種の動物の個々の見分けなんてつかなかった。もちろん年齢だって毛並みがくたびれてきた段階でしか察せられなかったし。

 今世での外見上の判別は、前世の時と同じく、個々の特徴としてはっきりと見分けられる。オレっち自身が獣人なんだから、当たり前っちゃ当たり前だけど。


 



 ◇◇◇◇◇ 


 今日はかーちゃんのオフ日。オレっちの初の遠出の日でもある。普段はお屋敷周辺界隈しか出られないしね。就学前のちびっ子だし。


 オレっちは裏にポケットが付いてるお気に入りの水色のベストを着て、かーちゃんは外出用のフリル多めのベビーピンクのワンピース。

 かーちゃんは童顔だから、ちょっと若めのセレクトでもOK!

 さて──出発だ!!


 ブモー!


 獣生二回目(お屋敷への引っ越し時が初回だった)の魔牛車で、まったり移動中。とはいえ、思ってたよりも速いんだよ、牛魔獣さん。よく考えてみると、図体がでかいから歩幅が大きいんだよね。

 オール木造牛車の座席は、もちろん木製。

 そうそう、この国の椅子は、全部、尻尾穴が付いてんの。オレっちやかーちゃんのボリューミーな尻尾も余裕で通せる穴。穴サイズは調整できるから、大小関係なく座れる。後ろの座席との間には木板があるから、迷惑にならないしね。その代わり、座席数は限られちゃうけど。


 三十人乗り二頭立て魔牛車に、オレっちとかーちゃんを含めた七人が最初に乗車。停留所に着く度に、重たげな装備服を着用した冒険者ぽい人たちが乗車していく。下車する者はいなかった。定員オーバーで乗れなかった者はいたが。


 一時間半かけて終点停留所である『ダンジョン』前に到着。冒険者風の連中は、我先にと競うように降りていった。その後からゆっくりと下車したのは、最後の座席をゲットした強面のオッサンと、オレっちたち親子のみ。



 「ほー、小せえのに、もうダンジョン見学か?」


 イタチ獣人?ぽいオッサンが、オレっちたちに声をかけてきた。

 「ええ。この子が、どうしてもダンジョンが見たいとせがむので」

 かーちゃんがそう答えると、オッサンがオレっちを見下ろす。

 「この歳ぐらいのガキは、ダンジョンを怖がるモンなんだがな」


 だろうね。この国の絵本や年少向けの物語本は、ダンジョンの魔物に襲われるシーンが多い。つまりは、冒険モノが多いのだ。

 当然、主人公は、すばらしい加護の力を持つ小獣人勇者。ちなみに定番の加護種とかはない。加護種の数だけ主人公は存在する。めっちゃ数が少ないはずのカリスでさえ、主人公になっている本もある。しかし、かなり昔に絶版された本らしく、かーちゃんだってようやく首都最大の古書店で発見できたぐらいの希少さ(泣)


 「ボウズ、将来は冒険者になりたいのか?」

 「うーん、まだわかんない。でも、どーしても見たくって!」


 オレっちの瞳は、さぞ輝いていたことだろう。

 ダンジョン。そう、異世界あるあるの、冒険者ギルドとセットのあのダンジョンなんだよ!?

 はあ?この世界、ダンジョンあるんかい!?──って、興奮して尻尾抱えてでんぐったがな。

 一回転する可愛いオレっち!⋯は、どーでもいいとして、ダンジョンをこの目で見ることができるなんて──異世界様々だね!!



 乗合魔牛車の停留所前にある低段差の階段を上っていく。結構な段数だが、テンションの揚がっているオレっちには苦でもない。何より軽いんだよ、この体!


 「キュ?」


 アレ、ギルドないんですけど!?

 オレっちのテンションが、一気に下がった。

 階段を上りきったそこは、神社の境内のように玉砂利が一面に敷きつめられた平地だった。奥の方に木造平屋建ての建物があるにはあるが、その規模からして、とても冒険者ギルドだとは思えない。

 建物前には、お揃いの装備をした犬獣人と鳥獣人の二人が、仁王立ちしている。もしかして警備の人?ホントにここ?


 オレっちたちより少し先を歩いていたイタチ獣人のオッサンは、躊躇する事なく、真っ直ぐに建物へと向かっている。

 戸惑うオレっちだったが、かーちゃんに手を引かれ、玉砂利の上を歩くこと数分。

 開け放しの建物入り口に近づくにつれ、それは見えた。

 地下への階段だ。


 ええ──、冒険者ギルドって地下にあんの!?



「ハイ、はい。ダンジョン見学予約のピアナ・カリスさんとタロス・カリスさんですね。では、こちらへどうぞ」


 冒険者ギルドの職員の一人、淡いピンク毛の鹿獣人のおじさんが、慣れた動作でさくっと案内してくれる。

 あ、ピアナは、かーちゃんの名前ね。氏名は加護種名。オレっちたち親子はどっちもカリスだからカリスのまんまだけど、家族間でも氏名が違うのはフツー。


 ここはダンジョンの一階層。なんと冒険者ギルドは、ダンジョン内にあった。

 そこそこ年季の入った二階建ての木造建築。前世の市役所並みに広い内部では、大勢の職員が働いていた。冒険者たちの姿がまばらなのは、ほとんどのパーティーがダンジョン内に留まっているからなのだろう。ちなみにあのイタチおじさんは冒険者ではなく、魔物素材の買い取り業者だった。




 なにはともあれ、やってきましたダンジョン一階層!冒険者でもないのに出歩いて大丈夫なの!?

 なんてな!

 このダンジョン一階層は、冒険者ギルドだけでなく、冒険者の宿泊施設や魔物素材の買取り店、鍛冶屋や飲食店などがある、いわゆるダンジョン街なのだ。

 本来、地上にあるはずのダンジョン街が、なぜダンジョン内にあるのか?

 それはこのダンジョン一階層が、魔物が一匹も存在しない不毛のフロアだからだ。

 しかも、年間を通して暑くもなく寒くもないの快適さ。雨は降るらしいけど、それも週に一回のみ。ものすごく良い環境だよね。前世なら富裕層がこぞって大邸宅を建てそう。だがしかし、この地にマイホームを建てる者などいない。なぜなら──


 『夜』が無いからだ。


 昼間オンリーはさすがにキツイ。そのためか、ここの宿屋には窓が無い。換気用の通風口のみの構造は、まるで牢屋。いや、あっちの方が鉄格子があるだけまだマシかもしれない。



 「そのためダンジョン内の施設はー、どこも24時間営業なんですよー」 


 ダンジョン街専用の魔牛車内。見学ガイドのグレーの癖っ毛がチャーミーな猫獣人のお姉さんによる説明が、オレっちに異世界あるあるの衝撃を与えていく中、何故か時間だけは前世のまんまだった。知ってたけど。


 「私たちギルド職員も通いの交代制なのでー、夜勤が続くと体調を崩しがちでー。夜出勤なのにここに来ると昼間ですからねー。新人時代は、何度も辞めようと思いましたよー」

 だろうね。労働環境がとってもブラック。それでも地表に施設を移さないのは、利点の方が多いから。暑さ寒さに悩まされず、嵐などの自然災害もないのは、実に魅力的。




 「浅い階層の魔物の買い取り金額って、どのぐらいなんッスか?」

 「初心者向けの装備品の最低金額、教えて下さい!」

 「宿屋のランク別の料金設定は?」

 「そういった事はー、冒険者登録後にギルドの説明会で教えてくれますよー」

 猫獣人のお姉さんは苦笑しながら、彼らの質問を体よくぶった斬った。

 一頭立て魔牛車内の見学者は、オレっちとかーちゃんを入れて計9人。皆、オレっちよりずっと歳上の冒険者志望の少年、少女たちだ。

 鹿獣人のギルド職員に案内された魔牛車にはすでに彼らが乗車しており、オレっちたちがラストだった。



 「ダンジョンは、古き神々の時代以前から存在しているって聞きましたけど、本当なんですか?」


 見学者の一人、メガネをかけたインテリ風の山羊獣人の少年が、ガイドの猫お姉さんに質問する。

 「はい。おっしゃるとおり、この世界のダンジョンは古き神々が降臨する前、つまり暗黒期以前からの旧文明から存在していた事は、確認されています。しかし、未だにその年代などは解明されておりません」

 猫お姉さんは語尾も伸ばさず、キリリとした表情で答えた。

 「ではダンジョンは、神々が創りしものではないのですね⋯⋯」

 お姉さんの答えを聞いた山羊少年が、小さく呟く。どこか腑に落ちない口調だ。


 ふむふむ。じゃあダンジョンは、旧文明の古代人が造ったってことなのか?だとしたら、めっちゃ高度な魔法文明だったんだな。前世のラノベにはよくある設定だけんど。


 「いえ!近年では、古き神々がもともとのダンジョン最下層の下に『神々の遊び場』を新たに創っていることから、やはり神々の創りしもの以外ではありえない、という説が有力なんです!」


 神々の遊び場って⋯⋯なんぞや?

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ