第三十七話 ワン、ツー、ワン、ツー!
メロスへ。
セーレブホテルのビュッフェは、最高だった。前日のプリンパフェやフルーツケーキも美味かった。
メロスは、どんな甘味が好きなんだ?これからどんどん暑くなるから、冷たいアイスクリームが欲しくなるよな。
食堂のデザート系は、ちょっと少ないと思わないか?そういえば、売店のパンも定番ばっかで、攻めた新商品が無いよな。あ。もちろん、焼きそばパンとコロッケパンが多めなところは評価してるよ?そういえば、寮生用の夕食メニューって、どんなの?興味あるなぁ。
タロスより。
もはや日課となっている手紙を、メロスの机の中に入れておく。未だに返事はないが、一応、読んでくれているみたいだ。時々、何か言いたそうな顔で、こちらを見ている。言ってくれたらいいのに。
◇◇◇◇◇
ワン、ツー、ワン、ツー!
ダンス学科の教室内では、すでに授業前の柔軟体操が始まっていた。遅ればせながらオレっちも、それに混ざる。
前世のラジオ体操とは違って、専用音楽は無い。己の掛け声のみで、思い思いに身体を解していくのだ。
ワン、ツー、ワン、ツー!
⋯⋯アレレ?なんか身体が重いなぁ?
「タロス。貴方、先週より、ちょっと丸くなってナイ?」
⋯⋯糖分の摂りすぎ⋯かな?
「動きにキレがなさすぎるわネ。休日だからといって、ゴロゴロし過ぎちゃ駄目ヨ」
「⋯ハイ。スンマセン⋯⋯」
「ところデ──申し訳ないケド、明日から本業の方に戻るかラ、しばらく貴方のレッスンができないノ」
「キュ!?本業!?」
どういうこと!?
「ワタシ、実はボランティア講師なのヨ。公演がナイ時期とかテンションが下がった時に、獣学校のボランティア枠で教えてるノ。はっきり言って、ほぼ完成してる子には興味が無いから、才能が有りそうな子とカ」
え!?オレっち、ダンスの才能、大なの!?
「見ていて面白い子とかに、教えてあげてるノ」
⋯⋯面白い子?オレっちは、オモロイ子なの??
「でも、大丈夫ヨ。貴方のことは、ワタシの教え子に頼んでるかラ!」
教え子──オレっちの先輩ってことか。どんな人なんだろ?
「さ、もう少し、身体を解しテ!ワン、ツー、ワン、ツー!」
◇◇◇◇◇
ハッ、ハッ、ハッ!
獣学校からの帰り道──オレっちは、一つ手前の魔牛車停留所で下車し、走り込みをしていた。
エイベルもオレっちにつき合って、飛んでいる。何でも減量するには、皮膜翼で飛んでカロリー消費するのが一番だそうな。いや、エイベルは、減量する必要ないと思うけど?
そのまま、お屋敷の裏門に到着。オレっちの息切れがスゴい。ゼーゼー息を吐きながら、エイベルと別れ、アパートの庭へと向かう。
「壁の花、じゃなかった、花の壁の芽が大きくなってる!」
今日もまた早起きできず、ギリギリタイムだったので、水をあげられなかったのだ。二日ほど忘れていた時もあった。それでも花の壁の生命力は強く、どんどん成長していっている。やけに茎が太い気がするが、そういう種の花なのだろう。
「お水、お水っと」
庭専用の水道へと、水を汲みに行く。オレっち専用のジョウロに水を入れると、中に手を入れ、魔力を含ませる。種に施した魔力と、水に溶かした魔力。こうすることで、オレっちの魔力のみに反応する植物が出来上がるのだ。めっちゃ地道。
⋯⋯まだ、フルーツケーキの残りあったよね。これ以上傷むとヤバいから、食べてあげなきゃ!
◇◇◇◇◇
ワン、ツー、ワン、ツー!
「動きが悪いわね。このお肉がイケないんだわ、きっと」
フェアリー獣人の姉神加護種こと、蝶の翅を持つミンフェアさん(ちゃん?)が、オレっちの腹の肉を掴む。毛が引っ張られて、マジで痛い。
「今年も私たちが先頭部なんだから、少しは緊張感を持ちなさい。イヤでも目立つんだからね」
嘘こけ。目立つの大好きなクセに。
秋の大祭の練習時、おしゃべりで注意されていたのはもちろん、アドリブ踊りでも注意を受けていたのは、どこのどなたサマなのか。
レキュー先生の教え子とは、まさかのローズピンク髪、ミンフェア先輩(5歳上)だった。秋の大祭繋がりで、お願いされたのだとか。
「一度踊ってるから大まかには覚えてるだろうけど、君は動作にムダがありすぎるの。元気があって愛嬌があるから、許されてるけど。そう⋯なんていうか、優雅さってものがないのよね」
「夕傘」
「こう⋯私のように華やかで雅やかな?」
そう言って、ローズピンクのふんわり毛をかき上げ、同じくピンクにオレンジ掛かった摩訶不思議な瞳の視線を、オレっちに向ける。
「⋯⋯」
見栄びやかの間違いじゃねーの?
「まず、私が手本を見せてあげる」
ふと、視線をずらしたかと思うと、ミンフェア先輩は踊り出した。⋯⋯確かに、華やかだとは思う。
キラキラと輝く宝石じみた美しい蝶の翅を全面に出した踊りは、さながらコスプレしながら回転するバレリーナ、あるいはフィギュア選手に近いものがある。
でもね。大祭の振り付けじゃないよ、ソレ。完全に創作ダンスやんけ。
「どう?優雅さというものが分かって?」
ミンフェア先輩は、クルンと一回転してから、オレっちに微笑んだ。
「オレにYOU傘は、体形的に無理かと」
「⋯⋯そうね。方向性を間違えたわ。君にはKAWAII方向で指導すべきね」
そこからよく分からん指導を受け、オレっちのレッスンは終わった。
ワン、ツー、ワン、ツー!
☆ おまけステータス ☆
名前 ミンフェア 加護種名 アムール
HP 800/800 MP 1500/1500
風LV4 土LV3 水LV2
スキル 緑の手 魅了(小) 舞踏竜巻(小)
数少ないフェアリー獣人の一人。姉妹神の姉神アムルダリアの加護種。
はっきり言って眷属的には獣人枠など論外で、さらに加護人枠でもなく、実際にはエルフに近い。(エルフ並みの寿命を持つ長命種。ただし、成長速度の遅いエルフとは違い、ある程度成長してから外見変化がなくなる)
小獣人たちを愛でながらも、その実、恋愛感情は皆無。将来は、加護人かエルフのセレブ男性をゲットして、趣味でダンサーをしたいと思っている。幼いながら、なかなかの計算高さ。
スキルの緑の手は、植物の成長を促す地の祝福。また、舞踏竜巻は、風を纏わせて回転しながら踊ることにより発動する技。
段々とタロスに対して威圧的な態度をとるようになる。レキュー先生繋がりの弟弟子と言うよりは、子分のような感覚。




