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第三十五話 休息日のカモ

 今日は神々の休息日という名の、土曜日。目が覚めると、もうお昼近くになっていた。

 雨が降ってるとやけに眠いんだよな。雨はまだ降り続いていたけれど、シトシトモードになっていて、あと数時間もすれば止むかもしれない。


 「あれ⋯かーちゃん、今日、仕事だっけ?」

 かーちゃんのお休みは週二日だが、特に曜日は決まっていない。でも、最近では学校に通うオレっちに合わせて、休息日か安息日のどちらかは休みを取るようになっていた。


 「あ、500ベルビーが置いてある。じゃあ、今日は仕事なんだな」

 お昼代はいつも500ベルビーである。首都であるマルガナは物価は高いが、食に関する物だけは、何でも安い。農作物の収穫量が多い事もあるが、食料品の消費税がゼロパーセントである事が最大の理由だ。


 「久しぶりに、チトリーマーで買い物しようかな」

 獣学校に通い始めてからお昼ゴハンは学食ばかりになっていたから、チトリーマーのパンとおにぎりが恋しくなってきた。まず顔を洗い、適当なベストを着て、愛用の空色スカーフを巻く。いつもの通学用の鞄ではなく、オレンジ色の布鞄をたすき掛けして、準備万端。

 シトシト雨の時は、レインコートではなく、傘をさす。尻尾までカバーできる大きな銀色の傘は、重さを感じさせない上に、少量の雨なら弾く機能を持つ魔法具で、結構値の張る品物である。数ヶ月前まで魔法を使えなかったオレっちのために、かーちゃんが買ってくれた大切な傘だ。


 「よし、行くぜ!」




 ◇◇◇◇◇


 やっぱ、クルミパンと⋯⋯たまには、甘い菓子パンも買おうかな〜。あと、鮭にぎり。

 布鞄に買ったそれらを収納すると、店を出る。起きてからなんも食べてないから、お腹がペコペコだ。


 「タロス⋯⋯だよな?」


 店を出てすぐに、怪しげな青年に声を掛けられた。いや、この青年──ではなく、オッサンに見覚えあるわ。

 耳が突き出た帽子を被り、黒い傘をさすこの金毛のオッサンは、アレだ、アレ。浮気してかーちゃんから頭の花を切り取られた、哀れなカリス──オレっちの父親だ。


 「何度かピアナに面会を頼んだんだが、断られてな。今日もダメだったから帰ろうと思ってたんだが⋯⋯お前の姿を見かけてな。俺は、お前のお父さんだよ、タロス」


 知ってるがな。オレっちが前世の記憶を思い出したのは、アンタの修羅場を見たからだよ。


 「ふ~ん。それで?」

 「⋯⋯こ、ここだと雨に濡れて大変だから、近くの店にでも入らないか!?」

 「じゃあ、三軒隣のカフェで」


 あそこのプリンパフェは絶品だ。でも、1200ベルビーもするから、たまにしか堪能できない。ちょうどいいから、コイツに奢らせよう。



 「いらっしゃいませ〜」

 兎獣人のお姉さんが、注文をとる。かつての浮気相手とはまた別の加護種の兎お姉さんだが、何だか運命的なものを感じる。


 「プリンパフェとミックスサンドをお願いします!」

 「ハイ〜、お飲み物は?」

 「イチゴミルクで!」

 「こちらはどれになさいますか〜?」

 「⋯⋯ホットコーヒーを」

 「ハイ〜、以上でよろしいですか〜?」

 「⋯⋯はい」


 このカフェは、自然な木などを使ったオブジェや、花型の美しい照明などで飾られていて、華やかながら落ち着いた雰囲気のお店だ。近いこともあって、お屋敷の人たちもよく利用している。


 「⋯⋯もう学校に入学したんだってな。おめでとう。その花冠も、とてもキレイだな」

 「どうも」

 「⋯⋯何か困った事はないか?やはり母さん一人だけじゃ、何かと不便なんじゃ──」

 「特に何も」

 「⋯⋯」


 コイツ、今頃何しに来やがっんだろう?あっ、そうだ!

 ステータス・オープン!!



 名前 セイラム  加護種名 カリス


 HP 1500/1500 MP 210/2100


 風LV4  水LV4  


 スキル  雷撃(小)  魅力(弱)  自己治癒   精神壁(せいしんへき)突破(希少)


 現在、花冠の花が無い為、ショボい魔法しか使えない。

 スキルの雷撃は、複合魔法。魅力は弱く、そこそこ好感情が向けられている相手でないと通用しない。ちなみに、ほとんどの加護種は魔法耐性があるので、魅力(強)ぐらいでなければ危険では無い。(魅力(強)は、スキル封印の術を施される程の危険スキル)

 精神壁突破は、悩み多き人々の心の壁をブチ抜く、大変希少なスキル。コレを食らうと『なんでこんなことで悩んでいたんだろう!』と、人生前向きになれる。

 彼の職業は、その能力を活かしての、精神科医。


 離婚されても花冠が無くても、女好きは治らず、とうとう既婚の女性と不倫までするようになった。

 相手の夫にバレ、慰謝料を請求される。これ以降、さすがに実家からも冷たい目で見られるようになり、居心地が悪い。しかも、秋の大祭の映像を観た母から『孫に会いたい』と言われて困っている。ピアナは会わせてくれないし、困ったな⋯⋯おっ、アレはタロスじゃないか!?偶然見かけた我が子に声を掛ける。



 ⋯⋯スキルはなかなかだが、性格がクズでんな。己の腐った心の壁をブチ抜いて真っ当になれや、エロカリス。おっと、プリンパフェ、堪能しないと!

 底にバニラアイス、その上にフレークとカスタードクリーム、さらにその上にこだわり自家製プリン。そして、一番上に美しく飾られた生クリームとチェリー──あ~、幸せ、幸せ。


 「え~と。その⋯お前のおばあさんがお前に会いたいと言ってな。だから、一度、会ってくれないか?」

 「かーちゃんが、イイって言ったらね」

 このプリンのカラメル、美味いな。サンドもウマウマ。

 「⋯⋯そこはナイショで⋯⋯」

 「かーちゃんにウソ吐けないし、そうまでして会いたくないもん」

 「そこを何とか」

 イチゴミルクの甘さが、体に染み渡るぜ!

 「かーちゃん、セーレブホテルのホールケーキが好きなんだ」

 「んん?」

 「かーちゃんの好感度上げた方が、近道だよ」

 「⋯⋯」




 ◇◇◇◇◇


 卵味が濃いスポンジに、これまた濃厚な生クリーム。糖度バツグンの苺や様々なフルーツが敷きつめられたゴージャスなホールケーキ。さすが6000ベルビー!

 会計を済ませ、セーレブホテルを出ると、すでに雨は止んでいた。


 「ありがと!かーちゃん、きっと喜ぶよ!じゃ、またね!!」

 「⋯⋯ああ⋯⋯」

 オレっちは笑顔でケーキの箱を抱え、父という名のカモと別れた。次は、ガトーショコラにしーようっと!





 ◇◇◇◇◇


 「タロス、このケーキは!?」

 「うん。親切なカリスのおじさんが買ってくれた。かーちゃんにヨロシクって!」

 「⋯⋯そう」

 「うん」


 それ以上の説明は不要だと言わんばかりに、かーちゃんとオレっちは、ゴロゴロ野菜のシチューを食べ始めた。チトリーマーで買ったパンと鮭にぎりを、かーちゃんと二人で分けながら。

 いや〜、今日は、良い休息日だったな。あのカモも定期的に来るだろうし。


 それにしても、花冠の無いカリスってホント、ヤベーな。幼獣体にも劣るMPの哀しさよ。スキルだってあの魔力の無さじゃ、ほぼ使えまい。自業自得とはいえ、哀れなり。

 どーせあと数回で現れなくなるとは思うけど、次は少し、優しくしてやるか。オレっちって大人だよな〜。

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