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第三十一話 新たな編入生と怒りのポピタン

 獣学校に通うようになってから、毎朝の日課として、従業員アパート前の小庭で、花を育てることにした。

 目的は二つ。

 一つは、花の防御壁スキルのレベル上げ。二つ目は、通学のため早起きの習慣を身につけるようにだ。

 獣神官様が言ったように、棘がなくて育てやすい花から始めた。かーちゃん曰く、多少、世話が手抜きでも問題なく咲いてくれる花──だそうだ。

 種にはオレっちの魔力を与えた。初めてだから加減が上手くできてないかもしれない。少な過ぎたか多過ぎたか⋯咲いてみないと分からないな。


 お屋敷の庭師さんが世話をしている花壇とは離れた場所に、オレっち専用の花壇を作らせてもらった。

 そこそこ日当たりの良い場所に、拾い集めた石で囲いを作る。そして、浅く掘った穴に種を蒔き、土をかぶせて水を与える。今のオレっちの水魔法レベルでは、両手にすくえるほどの水量しか出せないので、水道水をジョウロに入れて、撒く。

 これでよし。大きく育てよ、我が壁の花よ⋯いや、花の壁よ。


 さて、オレっちも朝飯にするか。頭上のポピタンにも十分な栄養を与えなければ。







 ◇◇◇◇◇


 「えー、皆に新しい学友を紹介しよう。メロス君だ。はい、では、君も挨拶を」

 モブラン先生は、オレっちたちの時と同じセリフで、編入生に挨拶を促した。

 「⋯⋯メロス・レギュンだ。⋯よろしく」


 耳折れ猫獣人、スコティッシュフォールドぽい彼、メロスは、素っ気なく自己紹介をした。

 パールグレーの体毛と藤色の三白眼、黒い革のベストを着た彼は、サッサと空いている席に座り、だらしなく腰掛けた。最前列に席を構えたオレっちたちとは違い、最後列の窓際だ。⋯⋯正直、友達にはなれそうもないな。向こうも興味無さげだし。


 「では、この計算の答えは──はい、そこの外ばかり見ているメロス君、答えなさい」


 いつも「解る人は答えてね」って感じのモブラン先生にしては珍しいな、とは思ったが、メロスのあまりのやる気の無さに怒っているのかもしれない。

 オレっちもチラ見してたけど、メロスは二又の尻尾をウネウネさせながら、ずーっと窓の外を見ていた。向かい側には第一校舎があるが、巨木(ウルドラシル)が間に入っているので、ほぼ幹しか見えないはずなんだが。


 先生に名指しされたメロスは、どんなに乱れた字でも美しく修正される魔法ボードの数字に視線を向けると、気怠げに口を開いた。

 「8⋯です」

 「⋯⋯うん、正解だね」


 ふ~ん。頭はいいんだ。意外。



 「メロス君、君、寮生だろう?先生にいろいろ説明してあげて欲しいって頼まれたんだ」


 ツバメ的な白、黒、赤の三色羽毛の鳥獣人であるフェンリーが、メロスに話し掛けていた。

 フェンリーの父親はウルドラで働いているのだが、将来的にはビスケス・モビルケに戻るつもりなので、息子である彼は先に帰国し、学生寮で生活をしている。真面目でしっかり者の彼とは、入学三日目には気軽に話せるようになった。

 フェンリーは、学力的にはもっと上のレベルクラスに編入できるのだが、小獣国に慣れる必要もあって、あえてこのクラスからスタートする事にしたらしい。


 「⋯⋯いいよ。そのうち覚えるから」

 「で、でも、食堂の場所とか洗濯魔導器の使い方とか──」

 「他の連中を見て覚えるから、いい。放っといてくれ」

 「オイ。見て覚えるって、誰かのストーカーにでもなるつもりかよ?」


 フェンリーと仲の良いバンビ⋯じゃなかった、鹿獣人のボビンが、メロスの態度にムカついて悪態をついた。

 「だとしても、お前に関係ないだろ。放っといてくれ」

 「んだと、コラ!」


 あ、ヤベ。ボビンは可愛い顔の割には、気が強いんだよな。仕方がない。ここは、精神的に最年長であるオレっちが、丸く収めてあげますか。


 「まー、まー、二人とも落ち着いて。メロス君も、ここは素直に──」


 「チビスケが出しゃばんな。なんだよ、その頭。ちゃんと植木鉢か花瓶に戻しとけよ」


 「⋯⋯」


 ──オレっちはキレた。


 んだと、コラぁ!オレっちのポピタンを、その辺の花と同じにするんじゃねぇ!神々の世界に咲く花なんだぞ!逆に崇めろや、この、耳折れクソ猫!!


 「この──」

 「はい、皆、席に戻って。次の授業を始めるよ」


 休憩時間が終わり、モブラン先生が再び教室に入ってきた。

 仕方なく、オレっちは渋々席に着いた。気のせいかエイベルの両頬が膨れて⋯⋯いや、まさかさっきのあのクソ猫のセリフが笑いのツボに⋯⋯いやいや、我が癒しの友であるエイベルが、ンな訳ないな!ハハハのハ。


 それはともかく、クソ猫め〜。よくもよくもオレっちの大切なポピタンを──どうしてくれよう。あ。そうだ!奴のステータスを視て、弱みを握ればいいんだ。悪人に人権ナッシング。いや、悪人でなくても視とりますが。


 ステータス、オープン!



 名 メロス  加護種名 レギュン


 HP 500/500  MP550/550


 火LV3  土LV1  風LV2


 スキル 火炎爪  魔導回路作成(レベル2)  速暗算  


 ポラリス・スタージャ出身。獅子獣人である父母、姉と妹のなかで、彼だけが小獣人系の神の加護を受けた。ウルドラム大陸では、竜人以外は混血種が多数なので、ごく普通の事。

 しかし、彼の場合は、比較的裕福な生活と家族から必要以上に甘やかされた環境が、生来の気の強さやプライドの高さに拍車をかけた。

 その結果、大獣国(ポラリス・スタージャ)の獣学校の一年目で現実の厳しさに直面し、引き籠もりになってしまう。

 大獣国は賢者を王とし、一代限りではあるが、貴族制度も存続させている。現在の爵位は、伯爵、子爵、男爵のみだが、いずれも何かしらの功績を上げた者たちである。

 そうしたことから、向上心も強く、強者をもてはやす風潮が強い。特に幼獣期の子供たちは、身体の大きな者が周りを仕切る傾向があり、メロスはその現実に打ちのめされた。

 父母はそんな彼を心配し、ビスケス・モビルケに留学させる事にしたのである。

 


 追記  小獣国に来て、大きな加護種たちが少ない事にホッとしている。大獣国にも小さな加護種たちがいたが、彼らのように要領よく立ち回ることができなかった。ハッキリ言って不器用。 



 ふ~ん。ふーん。⋯⋯。







 ☆ 補足 ☆


 ビスケス・モビルケの戸籍を持つ者、及び交換留学生は、二十年間の授業料は無料ですが、それ以外の理由で編入した者には授業料が発生します。寮の賃貸料も有料ですが、国の補助制度があるので、実質、無料か半額負担です。

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