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第三十話 木の根っこと無料の魅力

 「先程の揺れは、断層のズレではない。もちろんビスケス・モビルケの南東には断層があり、そこからの揺れもある。だが、その間隔は200年に一度、あるかないかだ。今回の揺れは、30年に一度発生する樹海震(じゅかいしん)と呼ばれる現象──その名の通り、震源地は樹海。そこからの地揺れなのだ」


 モブラン先生の話に、オレっちは驚く。

 30年周期で起こる地震なんてあんの!?前世では、いつだって突然だったよ?地震予知とか無理ゲーやってたけど、予測期間が長すぎてお手上げ状態。そもそも星自体が生き物なんだから、予測しろって考え方に無理があるのかも。


 「じゃあ、今日、地震が起こる事が分かっていたって事ですか!?」

 もしかして魔法がある世界(ここ)なら、予測可能なの!?

 「分からないよ。確かに30年周期だけど、キッチリじゃ無いからね」

 しれっと否定すんな!めっちゃ空振りした気分。


 「それに、このビスケス・モビルケは、ウルドラシルの大樹を使用している建物ばかりで、その魔特性である柔軟性と耐久性のおかげで、揺れに強い。この学舎だとて外観は石造りだが、その内部には大樹の根が張り巡らされている。故に、たとえ石材が剥がれても、根が柱となり、崩壊を防いでくれるのだ」


 キュ!?壁の中は、木の根っこなの?


 「じゃあ、どうして木材じゃなくて、石の壁なんですか?」


 「ふむ。また、良い質問だ。生きた大樹(ウルドラシル)をそのまま活用したため、木材だと同化してしまうからだ。そうなると、成長して歪な形に変形してしまう。だから、石材で全体を覆ったのだ」


 ホエ〜。そうか。各校舎の上にあるこんもりした木は、大樹の上部分なのか。てっきり庭園でもあんのかと思ってたわ。ってことは、獣神殿も中は根っこなんだ。ビスケス・モビルケの大きな建物は全部、そうなのかも。んん!?


 「先生!根ってことは、この校舎は地下にあるんですか!?」


 いや、でも、そんな風には見えないんだけど!?

 「良き質問だ。この学舎に使用された大樹は、魔法薬で品種改良された一代限りの変種だ。根の部分が地上に突き出すように大きくなり、代わりに幹の部分が極端に短くなったのだよ」

 さっすが異世界!魔法での力技とは──恐れ入りました!






 ◇◇◇◇◇


 初日から地震とは⋯これは、オレっち、もしくはエイベルへのフラグ的な──んなワケないか。


 「今日は〜いろいろあって〜、疲れたね〜」

 「ああ。でも、勉強のコツは掴めたし、クラスの雰囲気も良かったし、初日としては上出来だな」

 「うん〜。でも〜、僕は質問するより〜、誰かの質問で〜授業が進んでいく方が〜面白いかも〜」

 「オレは、質問しまくりの方がいいな。知らない事の方が多いから。けど、先生が勝手に喋る雑学も面白いかな」

 「だね〜。学食も美味しかったし〜」

 「基本のご飯と味噌汁が無料だから、オカズにしか、金使わなかったしな」

 「パンとスープも無料だし〜」

 まあ、コッペパンと玉ねぎスライスだけのコンソメスープだけどな。味噌汁も具はワカメだけだったし。それでもタダなんだから、文句はないけど。

 ちなみに無料食券は、基礎学科に出席した者だけにしか配布されない。勉強せずして飯を食うなかれ?


 しかし⋯⋯なんつーか、やっぱ経済格差は実感したな。

 オカズは一皿100〜500ベルビーで安いんだけど、何皿も買ってる人もいた反面、それこそパンとスープだけの人もいた。

 向い合わせの席にいたムササビ似のにーちゃんも、無料のご飯&味噌汁、そして、持参してきた梅干しだけの食事で済ませてたし。

 ちなみにオレっちは、玉子焼きと唐揚げ(コケトー肉?)+ご飯&味噌汁。エイベルは、海鮮パスタ+パン&スープで、初めての学食を堪能した。


 まだ専門学科を決めていないオレっちたちは、他のクラスメートとは違い、午後からの予定がない。だから、三十分ほど後に時間をずらしたのだが、それでも食堂は人が多かった。

 お屋敷でも食堂があるから大勢の人達と食べるのは慣れてるけど、それ以上の人数が入れ替わり立ち替わりでごった返す学校食堂は喧騒がすごくて、エイベルと二人、食堂内の隅の席に並んで座った。けど、いざ席に着いて食べ始めると、特に気にならなくなった。

 むしろ、周辺の彼らの皿チョイスの方が気になって、今度はあのメニューにしようとか、組み合わせ的にソレはどうよ、とかのツッコミができる余裕まで生まれた。







 ◇◇◇◇◇


 「今日、地震があったでしょう?タロスは地震を初めて経験したから、怖かったでしょう?」


 かーちゃんが心配そうな顔で、オレっちを見た。

 「う、うん。怖かった⋯かな?」

 まさか『前世で慣れてます〜』なんて言えるはずもないので、適当に頷く。

 「それで学校はどうだった?お友達はできたの?」

 「うん。友達っていうか、学友としては何人か。でも、エイベルが一緒だから、話す相手には困らないし」

 「そう。でもね、そのうち学力に差ができるとクラスが違ってくるから、できるだけ多くの人と仲良くできるようにしておきなさい。エイベル君とは選ぶ学科も違ってくるでしょ?」


 確かに。今のクラスだと基礎学科がメインで、専門学科は一つだけだけど、そのうちクラスレベルが上がれば専門学科も増えて、エイベルとはあまり一緒にはいられないかも。

 エイベルは服飾学科を希望してたし、オレっちは──農業関係の学科かなぁ?

 属性魔法に水と土があるし、この分野で資格を取ると、この国ではいつでもどこでも雇ってもらえる。このビスケス・モビルケの基幹産業は、農業と林業だからだ。

 農業分野での魔導器や魔法具は、この大陸で一番、発展している。林業の一番は、大獣国──ポラリス・スタージャーだけど。


 この世界の農業は、前世ほどには重労働ではない。土魔法系の魔導器や水魔法系の魔導器のおかげで作業は楽だし、小規模な畑なら自分の魔法で管理できるしね。それに何よりも、害虫どもがいない。


 かつての暗黒期に巨大化した奴らは、神々の降臨と共に、姿を消した。

 滅したっつーより、神々が奴らを造り変えた。作物を食べるのではなく、魔獣たちの死骸やウルドラシルやセフィドラの葉のみを食べるようにしたのだ。

 人間が同じ事をすれば生態系を狂わせるだけで、後々、とんでもない事になりそうだが、そこは神技。今日に至るまで、負の影響は出ていない。


 う〜ん。農業のどの分野にしようかなぁ。とりあえず、学科見学してみるか。







 ◇◇◇◇◇


 「おい。お前、相変わらず昼食代ケチって、金貯めてんのか?」

 「まあね。でも昨日、母さんが『なんで毎日梅干し持って行くの?』って、言ってきたんだ。そろそろ梅干し無しでしのがないと」

 「いや、そこはふつーにオカズ買えよ」

 「やだよ。俺、大型鳥浮舟模型欲しいもん。あと一年は貯めないと」

 「あと一年も無料メニューだけかよ⋯根性だな」



 ⋯⋯そうか。こういう生徒もいるのか。

まぁオレっちも、丼ぶりものとか麺類じゃなくて、オカズ+無料メニューしか頼んでないけど!でも、毎回、デザートのプリンとかアイス買っちゃうから、ほぼ残らないけどね。






 ☆ 補足 ☆


 玉子焼き 100ベルビー

 コケトー唐揚げ(三個) 200ベルビー

 海鮮パスタ 300ベルビー

 コクうま小獣プリン 150ベルビー

 プレミアム小獣アイス 200ベルビー

 ドリンクバー 無料

 ご飯、パン、味噌汁、コンソメスープおかわり、各50ベルビー



 タロスの予算は500ベルビー

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