第三話 オレっちは都会っ子!
獣人には毛があるから、服は要らないって?ノンノン!着てますよ、服!
ま、基本的に男はベストだけ⋯でもないか。加護種によっては下も履いてる。女性は前世と同じように、オサレな服を着用。
靴だって履いてるよ。魔法合成繊維の靴だけど。前世並みの革靴とかもある。ただし材料は、魔獣の皮だけどね。魔獣の種類によって値段が違うのはお約束。最高級品は、樹海蛇の皮とやらだそうだ。どうせそいつも馬鹿みたいにデカい蛇のバケモンなんだろうけどねー。
オレっちは今、街中。なんとここは小獣国、通称ビスケス・モビルケの首都、マルガナ。都会っ子なんスよ、今世。
前世も都道府県内では上位の大都市だったけど、家の位置が県境に近い微妙さだったからなぁ⋯⋯。まあそれはともかく、この首都!巨木だらけですわ!『大樹』っていうより『巨木』の方が、実物表現として正解。
『ウルドラシル』っていうモサモサした巨大な広葉樹!でも、枝と枝の間が離れてるせいか、隙間が大きくて空がよく見える。何より驚愕すべきは、その高さ!フツーに高さが50メートル以上はあるんだけども!幹周り10メートル越えてなくない!?
でもね、これでも魔素が薄くなってからは低くなってきているらしい。その昔は100は軽く超えてたんだと。異世界恐るべし。
そんな木々の間(隙間?)に、これまた木造の建物が大小にひしめいている。巨木と巨木の幹の間にも建てられた家や商店があり、びっちり感がすごい。
それでも猥雑さがないのは、オサレな模様の石畳が敷かれた広めの道や、キチンと配置された木の階段のおかげだろう。
何より前世と違って、店の看板が通路に乱立していない。規制が厳しいのかも。
将来、もし店を構えるとしたら、どうやって目立てさせよう?やっぱ建物のデザインをちょっと奇抜にして──でも、オレっち、商売人には向いてないような気がするしな〜。
それにしても、自由に職業選択できる世界でよかったよ、マジで。加護種とはいえ、獣人の上に農奴だったら、絶望しかなかった。
でも、奴隷制度はあるらしい。犯罪奴隷と借金奴隷のみだが。もちろん成獣(?)前の子供には、適用されないみたいだけど。
◇◇◇◇◇
「うーん」
オレっちは悩んでいた。木皮で編まれたカゴに山と盛られたパンの前で。
クルミパン、200ベルビー。
ドングリパン、100ベルビー。
クルミパン一個か。ドングリパン二個か。ちなみにパンの種類は多く、リスあるある食材にこだわる必要はない。
所詮、中身は人間だしな。だけど、ガワにこだわるオレっちは、リス意識が高いのよ!あえて高くしてんのよ!!
さてお悩み再開。クルミパンとドングリパンの大きさは変わらない。中の具だけの違い。腹ヘリ度はそこそこ。
「よし、君に決めたっ!」
ドングリパン二個+塩にぎり。しめて300ベルビー!
そうここは、馴染のおにぎりとパンの店『チトリーマー』。店名通り、鳥獣人のチトリーさんが経営している。家から近いし、安いし、何より美味い。
いや~、最初にかーちゃんが離乳食出した時は驚いたわ。アレ?お粥?えぇー、米あんの!?って。
異世界って西洋式のパンオンリーがお約束でしょ!?
続けてかーちゃんが自分用に味噌汁出した時に、わかったがな、調味料チート路線の消滅に!
メインで出た唐揚げ(食材・家畜化した鳥魔獣(鶏系?))でトドメ刺されたわ!
しかも鳥魔獣ウマウマ。前世ものよりジューシー。離乳食卒業後のオレっちの味覚をうならせたね!
ま―、そもそも食革命狙ったところで、オレっち、一時期、料理にハマったことがあったけど、熱が冷めるとレンジでチーン派になったから、ここは、飯マズ世界でなくて良かったね⋯と、素直に感謝しよう。うん。
◇◇◇◇◇
ドドドドド!
「おお──馬魔獣だ!」
昼メシを買い終えて店を出ると、爆走する馬車が馬車専用レーンを走り過ぎていった。飼い慣らされた馬の魔獣が二頭。黒くてデカい。
オレっちの今現在の身長が一メートル⋯どころか80センチもないってのもあるけど、前世の競争馬の二倍以上あるでしょ、あのコたち。馬車もデカい仕様でんな。どこの中型トラックやねん。
ちなみにこの馬車、前世のものと形状は似ているが、車輪がない。宙に浮いている箱って感じ。
初めて見た時は二度見したね。かーちゃんに、アレなに?ナニ?って興奮して聞いたら、タネは馬車の底部分にあった。
魔導器だ。風魔法──圧縮させた竜巻魔法で浮かせてるんだと。ハイテク(?)か!
何でも車輪だと馬魔獣の馬力についていけず、大破確定らしい。爆走することが好きな彼らは、パッカパッカと程よく走ることのできない。(ストレスで)
一応、制御はできるけど、あんまり短い距離だと苛立って暴走することもあるそうな。
故にこの世界の馬車は、長距離用一択。ちなみに馬魔獣の背に乗れる猛者は、屈強で頑丈な筋肉自慢の方々ぐらいしかいない。
じゃあ、普通の移動はどーすんの?答えはオレっちの目の前。
ブモー!
そう。街中から農道に至るまで、牛の魔獣が引く魔牛車が定番なのさ。
その牛魔獣さんも体高二メートル超えの巨体だし、こっちはこっちで気まぐれすぎて、時々道のど真ん中で止まっちゃう。エンスト多すぎ。
もちろん車輪付きのフツー仕様。牛魔獣さんの首に掛けられた房付きの縄からして平安時代の貴族を思い出さずにはいられないローテク移動でんな。速度だけは前世の馬並みだが。
さらには飛行種以外の飛べないモフたちのために、一応、自転車やキックボード的な物もある。
でも、風魔法で激走する者が多く、事故が多発した結果、そういった乗り物には魔法付与ができない特殊な魔法具が取り付けられて、結果、人力のみの仕様となってしまった。
魔法=凶器の一例やね。オレっちも、もう少し背が伸びたら、買ってもらお〜っと。
◇◇◇◇◇
「ふう」
塩にぎりとどんぐりパン二個を完食。満足、満足。
「さーて、かーちゃんが帰って来るまでに、掃除でもしておきますか!」
離婚後、かーちゃんは、小獣国──ビスケス・モビルケで多くの支店を持つ大商人のお屋敷でメイドとして働いている。今のところ再婚する気はないらしい。もともとオレっちを産むまで共働きだったこともあって、さほどブランクも無かったようだ。
ちなみにここは、勤め先の大商人の本家敷地内にある使用人用のアパートの一室。オレっちの都会っ子生活の基盤。
普通に考えて、首都の一等地で家なんか借りれる訳がない。見積もり段階で、絶望するわ!
☆ 補足 ☆
魔馬車や魔牛車には、20〜40人乗りのバス的なものや、4〜10人乗りのタクシー的なものなどがあります。