第二十八話 獣学校──入学前から大変ですがな
事なきを得てから、一週間。さらにあと一週間後には、獣学校へと入学する。
もちろんエイベルと二人で。
入学式はない。いつでも入れるし、休学もできるし、50歳までに必要な数の履修終了認定をもらって卒業すればOKだからね。
前世で言うところの大学卒業に必要な履修終了認定の数は、10。必須は統一国語、数学、地理、歴史や神獣学の基礎学科5つ。それ以外は、どんな学科でもいいから5つ。この選択した学科が、後に専門資格となる。
かつての島国の大学の卒業単位は124だったから、めっちゃ楽〜⋯って事はない。そもそも最終認定の学科数だからね。根本からして違う。
合格の判定だって、魔法がある世界ならではの理由もあるけど、授業を聴講して、ペーパーテスト受けて、レポート出してOK──じゃないの。
実技テストをプラスしての実践方式だから、暗記やコピペじゃ合格できないのよ。
前世の大学と専門学校を足した感じ⋯なのかな?実際、入るのは簡単で、卒業するのは難しいらしい。
その反面、短期間で履修終了できる秀才及び天才が、寸前で認定試験を先延ばしにして、20年間は授業料無料だからって、学生生活を楽しんでいる者たちもいる。
そう。入学してから20年間は、授業料がタダなの。それ以上の年数が経つと自腹になるけどね。ただし、休学期間は除かれる。
まー、教材は国からの支給だし、一部のメニューが無料の学生食堂もあるし、スポーツや文化クラブ的な学科もあるから、ギリギリまで学生したい気持ちも分かるよ。実際、20年を分割して50歳寸前で卒業する人も、たま〜にいるらしいからね。
◇◇◇◇◇
ついに来ました、獣学校!⋯って、獣神殿の隣やんけ。能力判定の時に、隣は森かぁとか思ってたら、獣学校の敷地だった。
実際、入ってみると、めっちゃ広い。周辺に広がる巨木に負けじと、校舎も驚くほどデカい。
それも、そのはず。教職員を含めると万の人数らしいから。さらに休学者を足すと、その倍近くになるというから、驚きだ。
校舎は敷地内に三つ。他にも学生寮や職員寮、何より多方面に道路が整備されていて、その道沿いに大小の建物が軒を連ねている。どうやらそれらは、寮住まいの人たちのための、衣料品店や食料品店だそうな。
おっ、獣警団の人だ。そうか、警団の詰め所もあるんだ。
魔牛車の停留所は、800メートル間隔で左右に配置。物資輸送用の飛行所もあるんだって。もはや、ちょっとした町みたいになっている。
さすがは首都中央の獣学校。正式には、第一中央小獣学校って名称だけどね。
「あ~、ドキドキするね〜。僕〜上手くやれるかな〜?」
「大丈夫だ、エイベル。オレたち同じクラスだし、たとえハブられても二人でいればなんとかなる」
前世とは違い、保護者の付き添い無しの入学だ。
前世の記憶があるオレっちは、精神的に大人(の、つもり)なので、エイベルの保護者的な立場(の、つもり)でもある。不安は取り除かねば。
「入学って言っても、今日は知識レベルの確認と学校案内だけだから、心配しなくても大丈夫だよ」
魔牛車の前座席の方から、学校職員さんがオレっちたちに声を掛けてくる。
正門前で待ってくれていた、人型──水色に金が混ざった不思議な色合いの髪の加護人だ。目鼻立ちがハッキリしているので、女どもが好みそうなイケメンではある。
獣学校では職員の服装は常識の範囲内であれば何でもいいので、彼もまた、シンプルな白いシャツとベージュ色のスラックスを着用している。
それにしても⋯⋯なんで加護人?ここって、小獣国の学校なんですけど?
困惑したオレっちだったが、ここはアレの出番だと、思いっきり叫んだ──心の中で。
『ステータス、オープン!!』
名前 リブライト 加護種名 メイズ(幻妖種)
HP 1500/1500 MP 2100/2100
土 LV5 水 LV5 風 LV2
スキル 高速筆 魔力遮断結界(中) 泥拘束 幻妖体化
古き神々の一柱、アルトメイズの眷属。国際交流の十年雇用枠で入った臨時教員。まだ86歳(前世だと二十歳前感覚)なので、興味のある職を転々としている。
ビスケス・モビルケの学校に採用されて嬉しい。本当は三十年雇用枠を狙っていたが、競争率が激しいので早々に諦めた。
小さなモフがいっぱいで眼福。疲れる人間関係も、獣人、特に小獣人だと苦にならない。どうにかして定住できないかなぁ⋯と、考えている。
スキルの魔力遮断結界は、レア能力。この結界が(大)の場合は、対象の魔法やスキルを打ち消すだけでなく、魔力をも奪うこともできる。
泥拘束は、土と水の複合魔法。文字通り、体を泥──粘土で拘束し、動けなくする。
幻妖体化は思念体へと変化する能力だが、持続時間が三分という悲しさ。明らかにレベル不足。
職に関しては、高速筆を持っているので文字を書く仕事なら、なんにでも応用が利く。
なるほど。モフ目当ての就職か。道理で、オレっちたちを笑顔で見てる訳だ。
おっ。目の色にまで水色に金色が入ってる。アレ?瞳孔は縦長じゃなくて、フツーだ。氷獣祭で出会った加護人のお兄さんとは違うなぁ。同じ加護人でも、いろいろ違いがあるんやね〜。
ところで、幻妖種ってナニ?肝心なところが手抜きやんけ。
「カリスって、生で見るのは初めてだよ。秋の大祭の映像では観たけどね」
「キュ!?」
「神殿広場には入れなかったから、校内のホールで、同僚たちと中継を見ていたんだ」
秋の大祭は、小獣国内の至る所で立体映像化されていたらしい。知らんかった⋯⋯出演者なのに。
それはともかく、ステータス表示にも慣れてきたな。最初、かーちゃんやエイベルのステータスを視ようと思ったんだけど、あんま身近な人のプライバシーを覗くのは良くない気がして、その辺の道を歩いてる通行人とかで試してみたのだ。
その結果、声に出さなくても、相手を見て心の中で叫ぶだけで表示される事が分かった。
とにかく顔の判別⋯⋯表情がハッキリと見える距離なら詳細に表示されるが、遠目だと名前と加護種名しか出ない。あと不思議なのは、個人レベル表示が出るのは、自分のステータスだけなんだよな。魔法レベルは表示されてるのに。変なの。
◇◇◇◇◇
校舎は神殿と同じく、外観は石造りで重厚だが、内装は木材が多く使用された温かみのある落ち着いた造りとなっていた。
広葉樹の巨木──ウルドラシルから作られた木材は、丈夫で劣化しにくい。もうひとつの針葉樹系の巨木、セフィドラの木材と同様に、大陸の木造建築には欠かせない資材となっている。
うん。やっぱり、木の内装の方が落ち着くな。
フローリングの長い廊下を歩きながら、上から下まで見回す。さすがに天井部は剥き出しの石造りのままだが、逆に言えばそこだけだ。
「ここで知識レベルを審査するから、椅子に座ってね」
空き教室なのか、今の時間帯は使用していないのか──そこは分からないが、たくさんの机と椅子が並べられた室内で、オレっちたちの審査が始まった。
「二人とも年齢の割には、知識があるね。少し難しい文章も読めるし、桁の多い計算もできる。これなら、少し上のクラスでも大丈夫かな」
まあ、前世での小学校の高学年レベルぐらいは楽勝。でも、この世界独自の学科は、未知の領域なんだよな〜。
その後、基礎学の教科書を貰って、エイベルと二人、帰路に着いた。
本番は、二日後。休息日と安息日を挟んでの日程だ。そうそう、この二つ、同じ意味のようだけど、神様に対しての使い分け用なの。統一国時代の名残り。
正式には、古き神々の休息日と竜の神々の安息日。オレっち的には、ただの土日の連休。
しかし⋯⋯思ったよりも、通学に時間が掛かりそうだ。
お屋敷から五分ほどの停留所から魔牛車へと乗り込み、二十分かけて、ここは宮殿ですか?って、問いたくなるほどのデカい正門前に到着。そこから敷地内の魔牛車で校舎へと向かう。十分ほどで一番手前の校舎に到着。
けど、オレっちたちの教室は、それより奥にある第二校舎内だったのよ。プラスで魔牛車十分。
計、徒歩での移動時間も含めると、最低でも一時間は必要となる。
早起きせねば。幸い、魔牛車は運行数が多いから、一本乗り遅れても、ギリで間に合うだろう⋯⋯多分。
☆ 補足 ☆
獣学校への通学は、魔牛車や自転車などですが、鳥獣人などの飛行種たちは、正門前までは、飛んで通学しています。獣学校の敷地内は、授業以外は飛行禁止なので、そこからは魔牛車移動、またはレンタル自転車です。
しかし、遅刻寸前の焦りから木々に隠れてこっそり飛んでる者もいます。教員に見つかるとマイナス評価を受けるので、ドキドキです。
加護種によっては跳躍スキルを持つ者もいるので、跳ねながら登校しているグレーゾーンもいます。なかにはひと蹴りで、百メートル以上も跳ぶ子もいるので、魔牛車の発着時間を待つ者や普通に自転車を漕いでいる者たちからは、羨望の眼差しを向けられています。