第二十三話 冒険劇と聖人と聖女
☆ 演劇中 ☆
「アタシ、前のパーティーでハブられちゃってさ。それで困ってたワケ。そんな時にソウダロウにスカウトされたから感謝してたし、彼、イケメンだったから浮かれてたのよね」
ダンジョン五階層で助けた女冒険者ラシーナは、ヤッパリ、デショウネ、ダヨネ、ダロウナの四人に、身の上を語りだした。
「君は、これからどうするんだい?」
スズメ鳥獣人のヤッパリが、ラシーナに問う。
「⋯⋯アタシはあいつらが憎いし、できれば復讐したいと思ってる」
「それはそうよね。私だってそうするわ。でも、ちゃんと根回ししないと、返り討ちに合うわよ?」
パーティーの紅一点であるポメラニアン犬獣人、デショウネが忠告する。
正面切って「よくも囮にして逃げたわね!」と言っても、しらを切られれば、言いがかりのようにされてしまう。かと言って、戦闘に持ち込んでも相手は三人──不可能だ。
「時間はかかるけど〜、ギルド内の〜地位を上げる方が確実だよ〜」
コウモリ獣人、ダヨネが提案する。
「だな」
クルンとした大きな尻尾の装備が気になるのか、リス獣人のダロウナが、そわそわしながら短く賛同した。
「B級上位かA級──そこまでランクを上げれば『昔、囮にされて死にかけたのよ』って発言しても、周りは信じてくれる」
「相手がランクを上げてきたら、それも無駄になっちゃうけど?」
「⋯⋯」
ラシーナのツッコミに、ヤッパリが沈黙した。
「どっちにしても〜、一旦〜ギルドに戻ろうよ〜」
「だな」
ダヨネがダロウナの尻尾を支えながら、足早に移動していった。
★ 舞台裏 ★
「すまん、エイベル!オレの尻尾装備がズレちゃって!」
「大丈夫だよ〜。兜とベストだけの僕とは違って〜、タロスは〜全身装備なんだもん〜」
欲張りすぎた。兜、鎧、肩当て、脛当て──そして尻尾用の立体紙装備は、見掛け倒しのヘロさで、動くとズレてしまうのだ。本番前ギリギリの完成だったから、試しをしてなかった。
「とりあえず、尻尾用と脛当ては外して──よし、OK!」
「⋯⋯それはいいけど、あんまり変な動きするのはやめてよ。ここから戦闘シーン、多いんだから」
マホロンが黒い電信柱と化していて、オレっちは思わず、エイベルにしがみついた。マジで怖い。
☆ 演劇中 ☆
ラシーナがヤッパリ率いる『ヤッタルデ』にメンバーとして入ってから三十年──地味ながらコツコツと戦い続け、気がつけばダンジョン10階層まで出入りできるようになり、パーティーランクもA級に昇格した矢先、ラシーナは偶然にも、ソウダロウパーティーのピンチの場面に出くわす。
「おい、デシタワ!結界を広げろ!」
キョニュウ⋯ではなく、キツネ獣人のソウダロウが、ボインナ⋯ではなく、ウサギ獣人のデシタワに命令する。
「そんなの無理よ!これ以上広げたら薄くなり過ぎて、攻撃が防げない!」
「この役立たずが!だったらお前が、コイツらを引きつけろ──ぐはっ!?」
彼らのやりとりに昔の自分を思い出したラシーナは怒りを爆発させ、ソウダロウをぶっ飛ばした。そして、ついでのように魔物を倒す。
ソウダロウパーティーへの怒りと憎しみを燃やしに燃やし、鍛えに鍛えた結界は、護りよりも攻めにシフトし、ラシーナはヤッタルデのエースとなっていたのだ。
彼女の心に『このドサクサで、奴らを皆殺しにすればいい』と、囁く声が聴こえてきた。
「そうよ──今なら」
「ラシーナ!」
ヤッパリが、彼女の名を呼ぶ。と、同時に、彼女の右腕を握る手──デショウネの手だ。
気がつけばダヨネが、ラシーナの腰にしがみついていた。ダロウナは──なぜか、倒れたままのソウダロウを引きずって、姿を消してしまった。
「アタシは⋯⋯」
そうだ。長い間共に戦ってきた仲間がいる。ソウダロウパーティーなんて、未だにB級下位だ。もし彼らと組み続けていたとしたら、自分はここまで強くはなれなかっただろう。
ラシーナの心に温かな──そして強い光が生まれる。
『ブラニャーガの加護を受けし者よ。強い憎しみの炎を燃やしながら、同時に、仲間を護ることに命をかけていた者よ。吾は、そなたのその相反する魂が気に入った。よって、吾──レッサーパーダの加護を、新たに授けようぞ』
ラシーナの体が光に包まれ、その眩しさに目を瞑ったヤッタルデメンバーが次に目にしたものは、ラシーナの猫獣人としての上半身と、モッサリとした尾が特徴的な小熊猫の体に変化した下半身だった。(原作だと上半身が犬獣人、下半身が獅子)
「重加護──聖女だ!ラシーナ、君は『聖女』になったんだ!」
「ああ⋯なんて神々しい姿なの!」
「スゴいね〜びっくりだよ〜!」
「だなっ!はぁ、はぁ⋯⋯」
「大いなる古き神々よ!」
『聖女』となったラシーナが、両腕を天に向かって振り上げた。
「私は、聖女として全ての加護種を護り抜くことを、ここに誓います!!」
パチパチパチ!
ワアッと声援が上がり、幕が下ろされた。
◇◇◇◇◇
はー、終わった、終わった。
気絶したままのソウダロウ役以外の演技者たちが、やりきった感に浸る。
ラシーナ役のペルティナが、あそこまで演技できるとはねー。まあ、練習でもなんだかんだと言いながら、頑張ってたからなー。本番パンチはやり過ぎだけど。
ソウダロウ役の兄ちゃんが白目剥いてるのに気づいて、慌てて引きずって退場したわ。戻ったら、セリフ有りの場面だし。焦ったぜ。
にしても、重加護後の姿って、前世のゲームとかで出てきたキメラだよな。でも、今のオレっち感覚だと、オサレな見た目つーか、違和感ないつーか⋯⋯聖人、聖女、かっけ~!⋯⋯なんだよね。不思議。
☆ 補足 ☆
重加護はこの世界の歴史上、戦乱期に最も多く授けられ、聖人、聖女は、半神や半神血族に次ぐ、古き神々が遺した生体兵器でした。
竜の神々によって戦乱が終息すると、それ以後は、片手で足りる程度にしか現れていません。
ビスケス・モビルケでは聖獣人と呼ばれることもありますが、基本的には、聖人、聖女です。
マホロン脚本は、原作途中で終わっています。また、登場人物の名前は著作権侵害にならないように全く違う名にした結果、考え過ぎて、逆におかしな方向へと向かってしまいました。