表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/181

第二十二話 ぺしゃった劇と男組の逆襲劇

 ペルティナさんよ。あんたは一体、何を演りたいのか?


 毎度おなじみ、劇の練習場所である小ホール内。そこで主人公役の黒猫少女こと、ペルティナが、爆弾発言をぶちかました。なんと、主人公の不遇時代の全場面カットを要求してきたのだ。


 「ペルティナ。いくらなんでも、出逢った場面からのスタートだなんて、無理があるわ!」

 まさかのドアマットすっと飛ばし提案に、劇を仕切っていた秋田犬似の犬獣人お姉さんが、反論する。


 「いいでしょ?どーせ話の内容なんて、皆知ってるんだし。皆が観たいのは、主人公が成り上がっていく場面なのよ?だったらそこからでいいじゃない?」

 「私たちが劇にするのは、実話じゃなくて()()の話の方なのよ?出逢った後からだと、すぐに終わりじゃない!」


 お姉さんの言う通り、ビスケス・モビルケで一番多く出版されている絵本では、主人公が従妹家族へのザマァ後、ヒーローと共に大獣国へと渡って王妃となり、めでたしめでたし、なのだ。


 「だから、実話のストーリーで脚本を書いて欲しいのよ。絶対に、その方が面白いわ!」


 キュ!あの実話の方をか!?






 ◇◇◇◇◇


 史実として語られる王妃──マリエルの物語は、確かに大獣国へと渡った後の方が本番だった。

 当時のレギオル家の妻たちは五人。当主は彼女らに別れを告げて、マリエルを唯一の正妻として迎えようとした。年嵩の妻たち三人が財をもらって円満に別れた一方、若い妻たち二人は、なかなか離婚に応じようとはしなかった。


 彼女たちにしてみれば、賢者の妻になってから五十年も経っていないのに社交界での中心的な地位が無くなってしまうのだから、無理もない。しかも、マリエルは小獣の平民だ。名家出身の自分たちよりも遥かに格下。

 しかし、そのうちの一人は、マリエルの懐妊を知ると、あっさりと離婚に応じた。

 残る一人は、引き際を悟った実家から離婚に応じるようにと命じられたが、これを無視した。

 これは推測だが、まだ若かった彼女は、自分も妊娠できるという自信があったのではないだろうか?

 何より、半神血族の子供を身籠った者には、神の贈り物と呼ばれるステータス()()がある。


 妊娠後、一番に書き換えられるのは、寿命だ。元の寿命の数倍は延命される。そして外見上の変化も無くなり、若さを保ったまま、半神血族のパートナーと共に長い時を生きるのだ。

 長い寿命に劣化しない容姿──最高やね。彼女は、金銭よりも、その可能性の方を手離したくなかったのかもしれない。

 でも、結果として彼女は、数々の嫌がらせの末、懐妊中のマリエルに毒を盛ったのだ。

 もはや正気ではない。半神血族の胎児やその母に毒など効くはずもないのに。その後の彼女の処遇はお決まりなので、チーン、とでも言っておこう。


 それをやれってか?ドロドロのザマァを!?コレって、子供の劇なんよ?前回ですら、ビミョ〜な内容だったのに!!



 「できるか、そんなもん!!」

 案の定、秋田犬姉さんがキレた。


 「大体、セットとかどーするんだよ!大獣国の宮殿内なんか作れねーよ!!」

 裏方担当のアナグマ兄さんが叫ぶ。

 「絵本の男主人公ならともかく、賢者様なんて畏れおおくて、できないよー!!」

 虎獣人の少年が泣いた。(獅子獣人がいないため、同じ大獣人である彼が選ばれた⋯⋯というか、強制)


 「は、はーい!今回は『ダンジョンで出会った彼女は聖女だった!』がいいと思いまーす!」


 どさくさに紛れてオレっちが提案する。

 これは巷で人気のダンジョン小説で、タイトルの割には恋愛要素が薄く、ほぼスキルを駆使しまくって戦うバトル物である。

 一部ではタイトル詐欺などと批難されているが、地味な主人公パーティーと、所属パーティーに置き去りにされた少女(のちに聖女として覚醒)がS級冒険者として成り上がっていく──そんな物語なのだ。


 「ちょっと!何、勝手なこと言ってんのよ!」


 お前が言うな!──小ホール内のペルティナ以外の皆が、そう思っただろう。


 「じゃあ、ペルティナねーちゃんが聖女役を演ってよ!」

 オレっちは、彼女(ペルティナ)が好みそうな餌をぶら下げた。

 「え!?聖女?せ、聖女ねぇ⋯」

 よし、食いついたな!


 「ハイ!ボクが、脚本書きます!!」


 鴨っぽい鳥獣人の少年が、手を挙げる。

 鴨でありながら(偏見)縦に長い身体が特徴的な彼の名は、マホロン。

 ふつ~に身長が高いと表現しないのは、彼の身体の薄さにある。めっちゃ痩せてる⋯つーか、ゴハン食べてる?って感じの電信柱激似体型。

 そんな彼の祖父は、お屋敷の料理長。ピンクなフラミンゴ激似の鳥獣人。毎日、食堂で祖父の料理をモリモリ食べているマホロンだが、どうやら縦にしか栄養がいかないようだ。


 「ボク、この作者のファンなんです!是非、書かせて下さい!」

 いいぞ!この流れのままに、少数派の男組主導に持っていくのだ!


 「はぁ⋯⋯もう時間がないから、何でもいいわ!でも、一時間以内に収めてよ!」

 秋田犬姉さんの丸投げに、少年たちが笑みを浮かべる。──勝った!


 後は、ペルティナや女組が役を放棄しないように周りを固めるのみ。

 オレっちやエイベル、その他男組は、お屋敷の使用人たちや身内に、劇でペルティナが聖女役を演ることやダンジョンの冒険モノであることを、宣伝しまくった。






 ◇◇◇◇◇


 「ちょっと⋯⋯コレ、何よ!この女、聖女じゃなくて、ただの復讐女じゃないの!!」


 そもそも冒険ものに興味のないペルティナが、原作を読むことはない。しかし、原作を読んだからと言って、今更、降板することもできない。やったら身内に恥をかかせることになる。


 「復讐に燃え、そして燃え尽きたが故に『聖女』になったんだよ、彼女は」

 脚本担当のマホロン少年は、薄い胸を張った。


 さて、さて。この『ダンジョンで出会った彼女は聖女だった』は、ダンジョン内の冒険がメインなのだが、聖女に関してはザマァ要素のあるものとなっている。

 実は、ペルティナの演じる聖女──ラシーナは、恋人でもあった冒険者、ソウダロウ率いる冒険者パーティーに裏切られ、ダンジョン内に置き去りにされた()獣人の少女だった。(劇では猫獣人に変更)

 レベチな魔物から逃げるために、護りの加護を持つラシーナを囮にして、ソウダロウたちは逃げてしまう。ラシーナは自身の魔力が尽きるまで結界を張り続け、死を覚悟した時、主人公パーティーに救われる。

 主人公パーティーは四人。その誰もが突出した能力を持つわけでもなく、互いの魔法やスキルで協力し合いながら、地味にダンジョン攻略をしていた。


 救い出され、彼らに感謝しながらも、ソウダロウたちへの復讐を誓うラシーナ──この続きは、オレっちたちの劇でご覧あれ!







 ☆ 補足 ☆


 お屋敷の子供たちのまとめ役である秋田犬姉さん(16)は、大変です。

 歳だけならもっと上の子供たちもいますが、自由人過ぎて頼りになりません。前回もそうでしたが、劇は揉め事も多いのでやりたく無かったのです。

 ですが、前回ボイコットしたペルティナのことを気にして、彼女を主役にした劇を考えたのですが⋯⋯真面目な人ほど損をする、になってしまいました。


 マホロン少年(14)、夏の劇ではモブ貴族と小道具担当を兼任していました。好きな事には積極的に発言しますが、普段は寡黙です。

 母は白鳥似の美人な鳥獣人で、奥様付きのメイド、父はダックスフンド似の犬獣人のパティシエです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ