第十九話 帰国前のお土産選び
最終日の早朝、ウースさんが庭で収穫した夏野菜を、アンさんが二つの布袋に詰め込んでいた。
「ハイ、こっちがエイベルで、こっちがタロス君の分ね」
「ありがとう〜!」
「ありがとうございます!」
オレっちとエイベルの背負いリュックは、アンさんが作ってくれた弁当も入っていたので少し重くなってしまった。だけど、アンさんとウースさんの心遣いが嬉しくて、全く苦にならない。
「次に来る時は、もう少し長く滞在する予定にしておいで。聖竜都──ヴァシュラム・ルアに連れて行ってあげよう」
トムさんの言葉に、オレっちたちは目を輝かせた。聖竜都!行ってみたい!
「楽しみだね〜」
「オウ!帰ったら、執事さんとかーちゃんに相談しないとな!」
「うん〜!」
「まあまあ。いつでもいいのよ」
「そうだね。でも、冬場は避けた方がいいよ。ヴァシュラム・ルアはここよりも北方にあるからね」
スミー村近辺の飛行所から聖竜都までは、鳥浮船でも三時間は掛かるという。竜体化した竜人の飛行船なら一時間ほどで着くそうだが、旅客船は基本的に運航されていないとのこと。特急竜便と呼ばれるそれは、もともとは物資輸送がメインであって、人の輸送は緊急時のみだそうだ。
さて、その竜人が竜体化した姿だが──実は村に着いて四日目の朝には、その姿を見ることができた。
畑化した庭の野菜を収穫していた時、村の上空を青い竜が飛んでいたのだ。
エイベルと二人、興奮しながらしばらく空を見ていたら、少し離れた上空でも、緑っぽい竜が飛んでいた。畑に水魔法で水を撒いていたトムさんが「あれは隣町の子供たちじゃな。長距離を飛ぶ練習をしているのじゃろう」と言っていた。
なるほど、前世の子象ぐらいの大きさだ。あれで子供サイズなんだ。(翼や尾は含まず)ふ~ん。思ってたよりも小さい感じ。
ちなみにスミー村の10代前半の竜人の子供たちも、近くの飛行所と村を往復して訓練するのがセオリーだそうだ。(今現在のスミー村の子供たちは、10歳以下か17才以上しかいない)
六日目にエイベルと川遊びをした時、ミオリーという竜人の男の子と知り合って一緒に遊んだが、エイベルと同じ九歳だという彼は、まだ竜体化できないようだった。だが、川底から突如現れた中型犬ほどの大きな沢蟹魔獣?魔蟲?を見た途端、恐怖に震えるオレっちとエイベルとは違い、歓喜に満ちた目でズンズンと川に入っていった彼は、巨大な蟹バサミで攻撃される前に、目と目の間に脳天チョップを喰らわせて、あっという間に倒した。
慣れているのか、川辺のちょい尖った石で、これまたあっという間に解体すると、八本あった蟹バサミの四本を、オレっちたちにくれた。それはアンさんの手によって卵と共に餡かけにされ、オレっちたちはそれをウマウマすることとなった。
あの歳であの怪力──竜人、恐るべし。
なんだかんだ言いながら、ウルドラならではの小エピソードもあり、あっと言う間の八日間だった。
◇◇◇◇◇
アンさんとウースさんに別れの挨拶を交わし、トムさんが借りてきた魔牛車で、リチャードさんの鳥魔獣牧場へと向かう。
「飛行所なら行き過ぎることもねぇから、安心しておくれぇな」
リチャードさんは行きと同じく、三頭のボエミー車でスタンバイしていた。
ここで衝撃の事実が発覚。なんとリチャードさんの奥さんは、竜人だった!子供さん二人は狼獣人の養子兄弟だそうで、奥さんは今日、根性で早起きしたそうだ。んん?根性?
「カリスって初めて見たわ〜。まだ花は咲いてないようだけど、カワイイわね〜。こっちの子も小さくてカワイイ〜」
オレっちはぷっくりモサモサした頬を撫で回され、エイベルはくせっ毛の頭を撫で回された。
「母さんは、獣人の子供が大好きなんだ。オレたちも毎日、撫で回されてるよ」
「ナデナデしてる!」
10歳になったばかりだという兄と、まだ4歳だという弟が、奥さんの隣に並んだ。
「だって、カワイイものはカワイイんだもの!」
「かーちゃん、撫ですぎだも」
リチャードさんがボエミーたちの連結リードを点検しながら、会話に入ってくる。
リチャードさんはちょっとメタボなカピバラ獣人、奥さんは見た目年齢が30代前半の赤毛の美人竜人、白っぽい灰色毛の狼獣人の兄、薄茶色の毛の弟──と、外見的にはチグハグだが、気兼ねない会話から家族としての絆があることが伺えた。⋯ちょいと奥さん、尻尾吸いは、止めて頂きたいんですけど!
それにしても──獣人と竜人は仲が良い間柄だけど、婚姻するのは珍しいな。
なんでって?この両種の間には子供ができないからだよ。⋯というよりも、竜人は竜人同士でしか子孫が残せない。かつて竜人だった元竜人──人間との間でさえも、ダメなのだ。
そんな事情もあって、統一国時代、竜人はリーダー的な存在であったにもかかわらず獣人と比べると約半数程度の人口だった。現在でもそれは変わらず、広大な領土内の竜人の数は横ばいで、それを補うかのように、各国からの人材を幅広く受け入れている状態なのだ。
⋯と、コレは、かーちゃんから聞いた話。実はかーちゃん、離婚直後は、竜人国に移住することも考えていたんだそうだ。
竜人国は物価も高いが給金も高く、しかもオレっちたち小獣人は、サービス業やお金持ちの使用人などの採用率が、めっちゃ高いらしい。
多分──アレだな、アレ。愛玩動物的な癒しを求めて。モフに飢えとるの〜。
おっと、話が脱線しちまったぜ。
オレっちはかーちゃんに、なんで移住しなかったの?って、訊いた。そしたら「占い師に『貴女は今、人生の選択肢で大きな失敗したばかりで、環境を変えるとさらに運が低下する』って言われたから、やめたの」と苦笑していた。
かーちゃん、そんなの気にするタイプだったの!?でも、離婚直後にそう言われると、そうかもってなるわな。
◇◇◇◇◇
トムさんに別れを告げ、リチャードさんの奥さんと息子さんたちに見送られ、再びボエミー連結車で一本道を移動して行く。そして、あっと言う間の飛行所。いつもの停車位置だという貨物倉庫のゲート前で、リチャードさんとボエミーたちにお別れの挨拶をし、鳥浮船の搭乗ゲートがある建物内へと向かう。
「飛行所定番のお土産って〜、やっぱり鳥魔獣だよね~!」
雁鳥魔獣や白鳥鳥魔獣のヌイグルミやイラストが描かれたデザイングッズ、焼き印入り饅頭⋯⋯あのデカブツが可愛くディフォルメされてますな〜。
「うーん。オレとしては、実用的なタオルケット一択だな。カップは家にたくさんあるし」
「僕は〜、これにする〜」
エイベルが手に取ったのは、緑茶葉が入った筒状の缶だった。
「ジイジ、このお茶、大好きだから〜」
おっと忘れてた。オレっちも買わなきゃ!マルガナでも売ってるんだけど、ちょっと高いんだよね。ここの3倍以上はする。
さて、お土産も買ったし、いざ出発!
◇◇◇◇◇
行きと同じく帰りもまた、出発前から甲板に出て空の旅を満喫する。そして、すぐに目に入ってくる樹海を眺めていた時だった。
「見て、見て〜、タロス〜!アレ〜、竜じゃない〜!?」
エイベルが大声で、オレっちを呼ぶ。
「ホントだ!竜だ!」
遠目ではあったけど、白いっぽい竜が飛んでいるのが見えた。青空の中、ほぼ翼を動かす事なく、風を掴みながら滑空している。
「かなり大きな竜だな──それにしても、国境ギリギリで飛ぶなんて、豪胆だな。国境警備の連中だって、あそこまでは飛ばないぞ」
オレっちたちの近くにいた熊獣人のおじさんが、驚いたように言っていた。
確かに、スゲー度胸をしているとは思う。だって、少しでも海の呪い領域に入れば、竜生終了だよ?加護消滅で人間になっちゃうんだよ?
やがて白い竜は、オレっちたちと逆の方向へと飛び去った。
旅の終わりに竜を見れるとは思わなかった。──ハッ!そういえば、竜の土産物買ってないやんけ!せっかく竜人国に行ったのに、竜じゃなくて鳥魔獣のタオルケットって⋯⋯オレっちのバカぁー!!
☆ 補足 ☆
リチャードさん夫婦の養子となった狼獣人の兄弟ですが、彼らは大型魔導器の爆発事故で両親を亡くした後、この辺りで一番大きな街の竜神殿施設で保護されていました。
養子縁組の条件として、兄弟で、という事もあり、なかなか縁付かなかった矢先、リチャードさん夫妻が名乗りを上げたのです。
婚姻前から養子をとることを決めていた彼らは、二人を喜んで受け入れました。牧場の後継者として求めてはいなかったので、仕事はノータッチなのですが、兄弟は自主的にボエミーやコケトーの世話をしています。特に奥さんが朝弱なので、卵の回収は兄弟の日課となっています。でも、時々寝過ごしてしまうので、朝の作業は基本的にはリチャードさんのワンオペ。




