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第十八話 追加の親戚とエイベル母

 アンさんが作ってくれたウタタマスのムニエルは、ウマウマだった。

 毒持ちのハリブーは当然持ち帰らず、全て湖にリリースしたが、魔法鞄に収納したコイダムなどからも切り身が大量に取れたので、しばらくは魚三昧のメニューになるかもしれない。これも釣りの醍醐味よ。


 「週末に末の息子が嫁と孫を連れて、遊びに来るんじゃ」

 「孫は、エイベルちゃんと同い年なの。仲良くしてあげてね」


 マイダのカルパッチョをもぐもぐしながら、オレっちは頷いた。エイベルは「ウースおじさんだよね~。僕〜初めて会うんだ〜」と、嬉しそうに笑っていた。

 トムさんとアンさんとは、彼らがビスケス・モビルケに旅行にきた際、マルガナで二回ほど会っていたらしい。でも、息子さんたちとは一切の面識が無いのだとか。


 親戚⋯⋯親戚か。オレっちのかーちゃんの実家は海辺の町にあるらしいが、離婚後も戻らなかったし、連絡を取ってる様子も無かったんで、今の今までスルーしてきたんだよな。

 トムさんとアンさんの息子さんか。あの二人の子供ならそう心配することは無いかもしれないけど、嫁と孫はどうかな?





◇◇◇◇◇


 「初めまして〜エイベルです〜よろしくお願いします〜ウースさん〜」

 「エイベルの友だちのタロスです。お世話になっています!」


 なんだろう。ものすごく緊張するな。

 ウースさんはエイベルと同じチュラー姓で、皮膜翼が少し青っぽい、シュッとした細身の気弱そうな人だったが、背後にいる嫁と孫は、ツンとした表情をした耳が大きい小顔の狐フェイス──フェネックっぽい姿の獣人だった。


 「うん。エイベルとは初めてだよね。タロス君もよろしくね」

 ウースさんが穏やかな口調で応えてくれた。

 好感度、良!


 「こっちが妻のコイーナ。この子が息子のナマキー」

 「⋯⋯どうも」

 「ふーん。お前がエイベルか。同い年なのに随分とチビだな。その横のも」

 好感度、マイナス零!!


 「ナマキー!──ゴメンよ、学校に行き出してから、言葉使いが悪くなっちゃって」

 「まったくじゃな。ナマキー、エイベルとタロス君に謝りなさい」

 「ママ。僕、疲れちゃったー」

 「そうね。ワタシも聖竜都からの長旅で疲れたわ。お義母さん、休ませて下さる?」

 「オイ!コイーナ、ナマキー!」

 ウースさんが呼び止めたが、マイナス零組はそれに構わず、勝手にリビングへと向かって行った。


 「すまんの、エイベル、タロス君」

 トムさんがため息を吐く。アンさんも困った顔でオレっちたちを見ていた。

 「ゴメンなさいね。コイーナはウースの幼馴染みで子供の時から知ってるんだけど、聖竜都暮らしが長いと、ああなってしまうものなのかしら?」

 「いや、多分、アレは──」

 と、ウースさんは何故かエイベルを見たまま、言葉を噤んでしまった。






◇◇◇◇◇


 「エイベル気にすんな。アレはいないモンとして、今まで通り楽しもうぜ!」

 「うん〜そうだね~。あと三日しかないし〜」

 「そうそう。あんなのに時間を無駄にする必要は無いってーの!」

 オレっちたちは二階にある客間のベッドの上に寝転がり、声を大にして話していた。

 フン。聞こえてたって知らねーよ。そっちが悪いんだからな!


 「エイベル、タロス君〜、夕飯じゃよー」

 「は~い!」


 オレっちたちを呼ぶトムさんの声に返事をすると、急いで階段を下りていった。

 ウースさん家族は、すでに席に着いていた。

 ウースさんはトムさんと会話中で、ナマキーは、行儀悪くテーブルに片肘をついていた。


 ⋯⋯アレはなんだろう?

 実は顔見せでも気になっていたんだが、ツン顔の嫁は、天女の羽衣のように宙に浮いた水色のストールを身に着けていた。


 「コイーナ、そのフワフワしたストールは何なの?」

 アンさんも気になっていたのだろう。オレっちも知りたい。


 「これは風の魔法具で浮かせている風衣(かぜごろも)よ。今、聖竜都で流行っているの。この緑の宝石ブローチで角度を調整できるのよ。ものすごく高かったけど、聖竜都の女性なら、誰でも持っているわ」


 それからは、しゃべるしゃべる──聖竜都ではどうのこうのと、田舎とはまるで違うのよと言わんばかりの都会自慢の数々に、アンさんも困惑気味だった。

 ナマキーもナマキーで、魚料理が不満だったのか、「ボエミーの肉が食べられるって言うから、楽しみにしてたのによ。魚かよ」などと、言いやがった。ウタタマスのフライをガッツリ食べながら。

 確かにコイツはオレっちたちよりも身長が高いが、よく見ると腹が少し出っ張っている。次にチビと言われたら、デブと言い返してやろう。ぽっちゃりとは言ってやらねぇ。






 ◇◇◇◇◇


 「オイ。お前ら、何の魔法が使えるんだ?」

 翌朝、トムさんの家庭菜園で夏野菜の収穫を手伝っていたオレっちとエイベルに、ナマキーが声を掛けてきた。


 「僕はね〜、風魔法〜」

 「オレはまだ魔法が使えないから、解らない」

 「ふーん。ま、使えたとしても、どーせしょぼい魔法だろうな。俺は火魔法が使えるんだぜ。いいだろう?」

 何がいいのか解らんが、小獣人系で火魔法持ちは、他の属性より少ないかもしれない。でも、大獣国や竜人国では多い属性だったような気もする。


 「当然、風魔法もある。しかも俺は、()()()()の2属性持ちなんだぜ」

 「同レベルの2属性?⋯ってナニ?」

 オレっちは首を傾げる。意味が解らん。


 「ハッ!やっぱりな!お前ら学校に行ってねーだろ!こんなの魔法学の基本中の基本だぜ!いいか、どんなに相性のいい属性を2つ以上持ってたとしても、ソレが同レベルでなきゃ組み合わせられねーんだよ!」

 「レベルが違うと〜発動しないって〜こと〜?」

 「バーカ。発動するさ、魔法はな。そうだな──火魔法のレベルが3、風魔法のレベルが2だとすると、組み合わせても、風魔法は火魔法にかき消されるって言えば解るか?」


 言い方はムカつくが、シンプルに解りやすい。複合魔法を使うには、どの属性でも同レベルにしないとダメってことか。


 「俺は風も火も同レベルだから、爆風魔法が使える。しかも、体毛変化のスキルもあるんだぜ?ほら!」

 オレっちたちに見ろと言わんばかりに、右腕を突き出す。ナマキーの淡いオレンジ色の毛が、一部分だけ針のようにツンツンしていた。

 おお!どこぞのマンガにあるような、体毛の武器化か!?

 好奇心のまま、そっと触れてみる。

 ツンツンが、もさっとなった──ダメやんけ。


 「オイ、毛の結合が弱すぎるぞ!もちっと気合入れろや!」

 期待外れの落胆から、つい前世の口調で責めてしまう。


 「い、今はコレでも、そのうち硬質化もできるようになるし──そもそも俺の歳で体毛変化のスキルが発生すること自体が、スゴいんだよ!!」

 少し涙目になって反論するナマキーが、手足をバタつかせた。

 フッ。コレだからお子様は⋯。ん?


 「ナマキー、何を騒いでいるの?」

 風衣を浮かせたナマキーの母親のコイーナが、畑化した庭へと入ってきた。

 「ママ!コイツらが僕を馬鹿にしたんだ!役に立たないスキル持ちだって!」

 「なんですって!」


 オイ、コラ。そんなセリフ言ってねーだろ!オレっちが言うなら「しょぼ!」だ!しかもエイベルは、なんも言ってねーだろうが!


 「やっぱり、あの女の子供ね。あの女も、都会生まれの都会育ちだからって、何かにつけて私たちを馬鹿にしていたわ。田舎者ねって!」

 おばはん──コイーナは、エイベルを睨みつけた。

 「捨てられた子供だから少しは可哀想だと思っていたけど、やっぱり血ね。同じ加護種じゃなくっても、性格の部分はきっちり受け継いでいるわ」


 オレっちはキレた。


 「エイベルは馬鹿になんかしない!俺がそいつのスキルがしょぼくて気合が入ってないって、言ったんだ!大体、触れただけで元に戻る体毛変化なんて、見掛け倒しの詐欺技じゃないか!自慢したいんだったら、もっとスキルを磨けよ!」


 「な⋯な⋯うわわわーん!」

 ナマキーは呆然とした後、大声で泣き出した。


 「こ、この⋯!フン!やっぱり、性格の悪い子には、似たような友達ができるもんなのね!」

 「タロスはいい子だよ〜!確かに僕は〜何も言ってなかったけど〜、意味のない体毛変化だな〜とは思ったもん〜!」

 「うわわわ〜ん!!」

 何気に酷いエイベルの追撃に、ナマキーの涙が倍増した。


 「何をやっとるんじゃ!」

 母屋の三倍はあろうかという畑──もとい、敷地の庭の裏側で作業をしていたトムさんが駆けつけてきた。


 「お義父さん!この子供たちがナマキーをイジメて──」

 「イジメてなんかない!本当のことを言ったら、泣いたんだ!それより、エイベルの性格が悪いとか言って言いがかりをつけてきたのは、おばさんの方だろ!」

 「こ、この──」

 「⋯⋯コイーナ。もしかして、イベリスのことを話さなんだか?」

 「⋯⋯」


 コイーナは、トムさんから目を逸らした。

 イベリスは、エイベルのお母さんの名前だ。

 捨てられた子供──あの言葉は、エイベルに絶対に言ってはならない、と言われていた筈なのだ。エイベルが知らなくても⋯知っていたとしても。


 「コイーナ。あれほど念押ししておいたのに⋯⋯お前は⋯」

 トムさんから少し遅れて裏の畑から出てきたウースさんは、ため息を吐きながらエイベルを見た。

 「ゴメンよ、エイベル」

 「ううん〜僕は⋯大丈夫だから〜」

 エイベルはいつもの眠たげな柔和な顔で、笑った。

 我が癒しの友よ──!


 「⋯⋯あなたも相変わらず、私じゃなくてあの女の肩を持つのね。⋯⋯もう、いいわ。ナマキー、帰るわよ!」

 「⋯⋯ママ?」

 とりあえず泣き止んだナマキーの困惑を無視して、コイーナが背を向ける。──ウースさんは、彼女らの後を追わなかった。






 ◇◇◇◇◇


 結局、マイナス零母子は、聖竜都へと帰ってしまった。


 「⋯⋯イベリスは子供の頃、母親と一緒にスミー村によく遊びに来ていたんだ。母親が亡くなった後は、一年ほど父さんの所に預けられて──俺とコイーナは幼馴染みで、イベリスともよく遊んでいた。でも⋯彼女は母親を亡くしたあたりから、少し、我儘になったというか、傲慢になったと言うか──」


 グレたんですね。


 「やたらに都会風を吹かせるようになってね。コイーナの服のデザインが古臭いだの、スミー村では買いたいものが売って無いだの──そんな事もあって、コイーナはイベリスを嫌うようになったんだ」


 なるほど。彼女がイベリスさんを嫌うのは、よく分かる。でも、エイベルを嫌うのは御門違いだ。よって同情はしない。


 「ウース。お前は帰らんでええのか?」

 トムさんが、隣に腰掛けた息子さんを見る。あれから居間に移動して、皆で冷たい緑茶を飲んでいたのだ。

 「うん。予定通り一週間後に帰るよ。聖竜都にも慣れたけど、やっぱり生まれ育ったこの村の方が落ち着くし。──そもそも僕は、都会よりも田舎の暮らしの方が好きなんだよ。でも、コイーナがどうしても聖竜都で暮らしたいって言うから⋯⋯」


 あ~、幼少期──幼獣期のトラウマですな、きっと。

 




 ☆ ナマキー補足 ☆ 


 10歳以下で体毛変化スキルが発生するのは、本当に珍しいことなのです。体皮、体毛を変化させる事ができるのは、体内の魔力配分を自分の意志でコントロールできているという証明なので。

 ただ、ナマキーの複合魔法は、火と風の属性レベルが2なので(この世界1〜10までのレベル設定。それ以上のレベルの持ち主は、全て神の血筋)発動させても微妙だった。

 本人もレベル不足と魔力不足を自覚しているので、あえてお披露目しなかったらしい。彼はボエミーの肉目当てで帰省したのに、夕飯まで居ることができず、アンさんの作ったボエミーの親子丼は、タロスたちがウマウマした。

 これもザマァ?

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