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第百七十一話 ハズレ神スキル

 「加護の消滅呪波か。加護契約が単純な一つの術式だからこそできる技だな。とは言え、相当複雑な術で消費する神力も半端ない筈だが」

 『え⋯っと、そんなに単純な加護契約なんですか?』

 オレっちたちの⋯⋯古き神々との加護契約とはどう違うのだろう?


 《そうだね。例えば、私たちの契約には三つの署名が必要だとすると、竜神たちのそれは、一つだけって感じかな?そもそも、神竜力の供給源である太極王神──彼らが『竜母神』と言っているモノの力を又貸ししているようなモノだからね》

 フブル姐さんに代わって、ヴァチュラー様がそう答えてくれた。

 ヴァチュラー様って、戦い方はアレだけど、基本、丁寧に説明してくれるよな。


 それにしても、力の又貸しって⋯⋯今まで竜人ってワンランク上みたいな加護種だと思ってたけど、そう聞くと、なんかショボいよな。


 《アイツがそこまでするのは、竜神どもにウルドラム大陸の支配権を奪われた恨みというよりは、竜人たちに竜体化されると厄介だからだろうな。一体一体は雑魚でも、とにかく頭数が多い》

 『じゃあ、カガリス様たちでも竜体化されると大変なんですか?』

 《んー⋯⋯面倒くせーのと、後は⋯⋯竜母神の干渉がある可能性があるってのがヤベェってとこか?》

 『竜母神の干渉⋯⋯ですか?』


 「神竜力の源にして竜神たちの支配神たる竜母神は、供給している神竜力を通して眷属たちに干渉する事ができる。竜神たちは個であるように見えて、実はそうでは無い。まあ、滅多な事では干渉しないのだろうが⋯⋯絶対とも言い切れないからな」

 「フブニール様。大陸中央のみとはいえ、竜人たちはこちら側の戦力となりえます。それに⋯⋯契約破棄後の竜人の第一世代が憑依体にされると、厄介な事に⋯⋯」


 竜人を嫌っているハズのエルフのニナさんが、冷静な意見を述べる。これからのことを考えると、好き嫌いではやっていけないからだろう。


 「あ、それ、オープステタスが言ってた!二千年前ならたくさん手に入ったのにって!奴らの体って、大獣人たちより頑丈だから──あ!」

 チルドナって口が軽すぎて、向こうの情報がダダ漏れなんですけど!こっちとしては助かるが。


 「という事は、すでにそれを使った憑依体がいるんだな。ところで、オープステタスとは何者だ?」

 「え~と、え~と⋯⋯オープステタスは⋯⋯」

 姐さんに問われたチルドナは、少し迷った様子だったが、観念したのか、すぐに話し始めた。


 「え~と⋯⋯人間でいうところの天才ってやつですかね?どこの神族出身かは知らないんですが、造るモノがスゴくって!フツー、こんなもん造れないよね〜ってモンが造れちゃうんです!」


 フツーじゃない天才?それって、もしかして!?


 『そうか!そのオープステタスってのが、憑依体の完成度を上げてる変神──もとい、天才神なんだっ!!』

 思い至ったオレっちは、ボンと手を──あ、今は体がなかった!


 《間違いなく今回のターゲットだな!ソイツも、ソイツの造った装置も、まとめて破壊だ!!》

 カガリス様が、殺る気をこめてオレっち以上の大声で叫んだ。


 「ヒーッ!!わたス、また余計な事を言っちゃったー!?で、でも、あの人強いですよ!?だって、自分で造った神器をいっぱい持ってるし!!」

 《次から次へと、情報ありがとう》

 《尋問しなくてもいいから楽だな》

 「あ───!!!」


 ヴァチュラー様とカガリス様が、チルドナにトドメを刺した。


 「とにかく、破壊するものが増えたのは確かだ。開発中の新たな憑依装置とオープステタスの消滅が最優先だとしても、加護の消滅呪波もできれば消しておきたい。しかし、こっちの方は竜人たちが防ぐか?今までも中央だけは無事だったしな」

 《それが、その⋯⋯末姫様。竜人たちの賢者とやらに聞いた話では、次は防げないと──もう竜神たちの遺した遺産が尽きたそうなのです》


 それに、ユーグラム様の受けた竜母神の予言では、フブル姐さんが第三波を防いでくれるという話だった。今、まさにその通りになりつつあるが。


 「そうなのか。まあ、アレは神器を介しての呪である確率が高いし、壊せるのならば壊しておくか。そうすると、少し戦力不足になるが⋯⋯ヴァチュラー、人形は幾つある?」


 《新品だと、残りは三体です。後は⋯⋯エイベルとタロスの身代わりとして使っている物を回収すれば、五体ですね》

 

 エッ!?それは困る!!オレっち人形とエイベル人形だけは、勘弁しておくんなせぇ!!


 「三体あれば十分だ。最悪、壊されても私の神力で再構成できるからな」


 ホッ。フブル姐さん、ありがとうございます!!


 《この人形は高性能で複雑な造りの分、新造するには難しい。この辺は神力の強さだけじゃ、どうにもならねぇ》


 ふ〜ん。カガリス様の言い方だと、人間の世界で言うところの技術力ってやつが必要なのか。ヴァチュラー様もそうだけど、神界にもそれぞれの専門家がいるみたいだな。


 「そうだな。私の人形も、何度目かの再構成で不具合が多発するようになってしまった。建築物のように単純な物なら、それこそ無限に再構成できるのだが」


 フブル姐さん、サラッとチートな発言してるな。なるほど、この調子で今まで破壊してきた自然や建物を復元してきたのか。


 「これからする準備としては、ヴァチュラーによる大規模転移装置のシステム変更、及び、ネーヴァの転移装置からのあちらの大陸への侵入──問題なのは、出稼ぎ連中の中にどう混ざるのかだが⋯⋯」

 《それは、このカガリスにお任せください!ネーヴァには我が下僕がおりますので、すぐに手配させましょう!》


 下僕⋯⋯ダンガリオさんのことだな。カガリス様は、ダンガリオさんと従属契約してたっけ。オレっちには聴こえないけど、多分、時々は会話してたのかも。


 ふと、何気なく簡易空間の空を見上げる。

 おお、白い雲がモクモクと⋯⋯あれは入道雲かな?あの雲と白い砂浜を見ると、一足早い夏って感じが⋯⋯ん?あ、アレは、さっき描いてたチルドナの砂絵?

 って、これはもしかして⋯⋯いや、もしかしなくてもオレっちだな。


 大きな尻尾と首に巻いたスカーフ、何よりも額の花がオレっち。逆にいえば、その特徴がなければ下手すぎて何の生物なのか解らんが。


 《おい、なんでタロスを描いたんだ?》

 カガリス様も、チルドナの砂絵に気づいたらしい。


 「だって⋯⋯カワイイし。それにしても、神界の常識も大きく変わったんですねー。わたスの時代の神族は、こんなにモフモフした姿をした者なんて一柱もいなかったですよー。というより、人型以外だと変神だと思われましたからね!」

 《フン。カビ臭い時代の神はこれだから。ま、昔は多様性なんて意に介さなかったからな。今は何でもアリだ!》

 「わたスもモフモフになりたいけど⋯⋯あー、でも、この体じゃダメかぁ。なにせ、視覚と聴覚だけしかないし、神力で操縦してるようなもんだから手足も動かしにくいしぃ⋯⋯やっぱりフツーの五感のある生身の体が欲しいなー⋯⋯」


 おい、ミルトちゃんに睨まれてんぞ。なんだかんだ言いながら、コイツ、全然反省してねーな!


 というか、人形の体だと見るのと聞くだけしかできないんだ。ホントに最低限の器ってヤツなんだな。どーりでカガリス様たちが憑依しないワケだ。


 アレ?そーいえば、チルドナの神スキルって何なんだろう?


 『ねぇ、チルドナのスキルって何なの?』

 この際だから訊いておこう。めっさ気になるし!


 「わたスの『サイズ↑↓(上げ下げ)』スキルは、そのまんまの意味で、無機物、生物問わず、いろんなものを大きくしたり小さくしたりできるんです」

 『⋯⋯それって、カガリス様にもできるヤツなのでは?』

 《スキルってぐらいだから、多分違うだろ。俺が⋯⋯普通の神族ができるのは、ある程度のサイズまでの伸び縮みだけだ。こいつのスキルは、おそらく限度を超えたサイズ調整が可能なんだろ》


 「え~と、この下位世界のモノだと、1センチから1000メートルぐらいの間でなら、↑↓(上げ下げ)できますよ。でもね、大きくなっても強くなるワケでもないんですよ?なんせ動きは鈍くなるし、神力が増えるってわけでもないですから。とにかく、敵のレベルによっては全く役に立たないってことで!』

 チルドナは、フブル姐さんをチラッと見た。


 あー。レベチな姐さん相手だと意味ないんだ。もしかして、速攻で倒された?


 それでも結構使えるスキルだと思うけど。特に小の方は、隠れたり逃げたりする時には便利そうだし。


 「それに、結局、いいように利用されるだけのスキルだし。実際、わたスをこき使ってた相手と一緒にタルタロスに落とされましたしね⋯⋯」

 『それは⋯⋯ご愁傷さまで』

 

 他に言いようがない。他者に利用されやすいハズレスキルか⋯⋯神様にもあるんだな、ソレ。

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