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第十六話 スミー村探索、そして湖へ

 コケコケ、コケコケ、コケットー!


 スミー村での初めての朝は、ニワトリ鳥魔獣、もとい、コケトーのけたたましい鳴き声で叩き起こされた。

 思えば、前世でも今世でも、この鳴き声に起こされるのは初めてだ。だからと言って、感動したりはしないが。

 早すぎんだよ!もうちっと寝かせろや!


 「タロス、タロス!朝ゴハンだよ~!」

 「⋯ムニャ⋯⋯アレ?」


 ⋯⋯二度寝してたわ。コケトーめ。


 「リチャードさんは、もう家に帰ったんだって〜」


 リチャード⋯ああ、カピバラおじさんか。もしかしてコケトーがコケコケしまくってたのは、おじさんが帰宅準備してたからか?


 「おはようございますー、トムさん、アンさん!」

 「ああ、おはようさん」

 「おはよう。よく眠れたかしら?」


 二階にある客間から一階に下りると、ハムスターお爺さんことトムさんと、チワワお婆さんことアンさんが、朝食の用意をしてくれていた。

 大きめの食卓の中央には、大皿に山と積まれたおにぎりが。それぞれの座席前には目玉焼きが一皿づつ置かれ、オレっちたちが席に着くと、アンさんが味噌汁の入った木製のお椀を置いてくれた。


 具はジャガイモと油揚げ──大きめのジャガイモがホクホクしてウマウマだった。目玉焼きは前世の五倍ほどの大きさで、結構な量である。エイベルや老夫婦は当然のように塩をふりかけていたが、オレっちは昔も今も醤油派(正しくはマイルドポン酢派)だ。黄身の味が濃くて、これまたウマウマ。


 「リチャードさんも〜朝ゴハン食べてから〜帰ったらよかったのに〜」


 エイベルの言葉に、トムさんが箸を止める。

 「ワシもそう言ったんじゃが、ボエミーやコケトーの世話があるからと言っての。奥さんがおるから心配はいらんと思うてたんじゃが、どうやら奥さんは、朝が弱いらしい」

 「ボエミーはともかく、コケトーは卵の回収をしないといけないからって、お茶だけ飲んで慌ただしく出て行ったわ。⋯あ、お茶出すの忘れてた!」


 アンさんが慌てて、冷却魔法具で冷やしたお茶をガラスコップに注ぎだす。薄青い金属製のヤカンから注がれたお茶は、緑茶だった。

 甘党の多いビスケス・モビルケでは冷たくした紅茶が夏の定番で、緑茶は前世ぶりだ。ちょっと苦みがあるけどオレっちはやっぱ、こっちの方も好き。ゴクゴク飲めます。


 それはともかくとして⋯⋯牧場の嫁が朝弱って、おかしくねぇ?思わずツッコミを入れたかったが、昨日今日の面識しかない老夫婦にそれを言う勇気は、オレっちには無かった。



 トムさんたちの家は、小獣国でよく見る木造の二階建てで、やや色褪せたオレンジ色の屋根の上には、山鳩そっくりな(大きさは80センチぐらいあるけど)鳥が留まっていた。首都でも何種類かの鳥魔獣が街中に巣を作って飛んでいるが、それらはみな例外なく小型の鳥魔獣で、中型や大型の鳥魔獣は家畜化されたもの以外、見かけることがない。

 それはおそらく餌の問題で、森や山にしか大型の虫が生息していないことによるものなのだろう。オレっちだって小さいバナメイエビより大きな伊勢海老の方がいいもんね。


 スミー村は、石造りやレンガ造りの大きな家もちらほらあって、木造だらけの小獣国とはやはり趣が違っていた。見かける人々も獣人だけでなく、角のある人々──竜人もいる。竜人国なんだから当たり前じゃん!──と、思うなかれ。

 ここは統一国時代から獣人が多数を占める地域だったのだ。

 『海の呪い』で統一国が瓦解した後、新たな竜人国の国土となったが、そんな経緯もあって、今でもこの辺りの町や村の住人は、獣人の方が圧倒的に多いらしい。


 二人の家は村役場に近くて、商店や飲食店が村で一番多い地域だ。スーパーマーケット的な大規模小売店も一軒だけここにある。そこ以外は、こじんまりとした個人商店しかないが。

 村人の大半は、農家か魔獣牧場関係の仕事なので、大きな売り場や多くの品揃えがある店は、村に一軒でもあれば十分なのだろう。そもそも人口も都会ほど多くはないし。

 トムさんたちには三人の息子さんがいるが、皆、竜人国の都市部で働いていて、年に数回しか顔を合わせないのだそうだ。だから耕作地は国に返却して(土地は全て国有地)、今は庭先だけで野菜を育てているとのこと。

 オレっちも老後は、こんな風にもったりしたい。


 「おはよう!トム、その子たちはお孫さんかしら?」


 竜人のおばさん──見た目年齢40歳(前世の)ぐらいの青い髪の白い角を持つ女性が、連れ立って道を歩くオレっちたちに、挨拶をしてくれた。


 「おはよう、ナナリー姉さん。この子たちは親戚の子とそのお友達だよ」 

 「あら。そっちの子は、もしかしてイベルの──」

 「そうだよ。イベル従兄(にい)の孫さね」

 「やっぱりね!小さい頃のイベルに、そっくりだもの!」


 ⋯⋯イベルって、執事さんの名前だよな。確かあの人、200歳近かったような──あっ、そうか!確か竜人は、500年近く生きるんだっけ!⋯ってことは、このおばさん⋯もしかして300歳超え⋯いや、紳士たるもの女性の年齢を詮索してはいけないぜ!


 ナナリーさんはトムさんとしばらく会話した後、にこやかに去って行った。オレっちとエイベルの手に、数個の飴を握らせて。──ここのおばさんたちは、皆、◯阪人の転生者なのか?それともウルドラの文化なのか??


 とまあ、ナナリーさんに会って改めて思ったことがある。飛行所でもそうだったけど、竜人って男女共に現代的(前世の)なラフな服装なんだよね。ナナリーさんも襟元にフリルが付いた薄紫色の半袖シャツに黒のタイトスカートだったし。

 でもよく考えたら、オレっちたち獣人のベストだって、細い繊維が均一に織られた工場製の既製品だ。

 魔牛車や鳥浮船──魔獣を活用した乗り物などのファンタジー系でうっかり忘れていたが、この世界の文明レベルって結構高いんだよな。しかもウルドラって、鉱山がわんさかあってドワーフたちの自治領もある大陸一の産業国でしたわ。

 確か教育水準も高くて、小獣国(うち)からも留学生がかなりの数で行ってるはず。竜が飛び交う都の学生生活──憧れますな!ん?竜と言えば──


 「ねぇ、トムさん。ここの人たちは竜体化しないの?」

 「竜体化は魔力の消費が激しいからのぉ。若い時は竜になる回数も多いが、結局、日常では不要じゃし。竜体化することが多いのは、空輸業の者たちや国境警備の者たちじゃな。彼らは、魔力量が多くて、しかも回復力も早い者たちじゃ。ダンジョンでそこそこ稼いだ竜人冒険者の転職先でもある」


 なるほど。リスクの高いダンジョン冒険者を辞めて、比較的安全な職場を選ぶと。職業履歴に冒険者経験があるとないとではかなり違うって、ダンジョン見学の時に誰かが言ってたな。





 ◇◇◇◇◇


 「湖!?」

 「ああ。ち〜っとばかし離れてるけど、結構大きな湖があるんじゃよ。釣りでもどうじゃ?」


 釣りか―。前世じゃ何回か海釣りしたけど、ハリセンボンばっかだったな―。釣り竿も家にあった古いのだったし。


 「牛魔獣でも一時間ほどかかるが、朝早く出れば気温も低いし、湖の周辺は涼しいからのぉ。釣りに飽きたら泳いでもええしなぁ」

 「でも〜大きな魚に襲われない〜?」

 エイベルが不安そうな声を上げる。


 だな。この世界、川で生息するような小魚でも30センチサイズで、大きいものになると三メートル超えてるし。海だともはや化け物サイズで、ある程度のレベルの魔法が使えないと漁師にはなれないって話。

 漁師か冒険者か──一攫千金を狙うなら、この職業がツートップ。実際、遠洋漁業者ならA級冒険者と同じくらい稼げるらしい。まー、それぐらい危険な仕事ってことだな。


 「大丈夫じゃよ。あの湖の魚は、()のあるもんは襲わんから」

 「毛⋯?」

 「まー、昔は釣り人を襲って喰おうとする奴らもいたんじゃろうが、その度に反撃されて痛い目にあったりしたから、学習したんじゃろ」


 魚が学習?ホントかよ?

 「まー、ホントのところは、毛のあるもんが不味いもんだと認識したんじゃろが」

 「⋯⋯」


 そんだけ昔から喰われてたって話ですね!──誰が泳ぐか、そんなとこ!!






 ◇◇◇◇◇

 

 スミー村には牛魔獣の飼育をしている牧場があって、車付きでレンタルできるのだそうだ。

 翌朝、トムさんが借りてきた一頭立ての魔牛車で、オレっちとエイベルは湖へと出発した。

 

 民家が多い場所から離れると、すぐに山が見えてきた。

 道沿いには稲作用の田んぼが広がり、青々とした葉が風に揺られている。ウルドラの東側はこうした米作が盛んで、反対に西側は麦畑が多いらしい。

 ウルドラム大陸全体でもそうだが、他にも芋類やトウモロコシを主食とする地域もあって、それらを使った料理などはどこでも食べられる。この食の多様性も、統一国時代から続く文化の1つだ。


 「ここからでも〜樹海が見えるね〜」


 エイベルが東の方角を見て、そう言った。

 「国境近くの町や村、少し内陸に入った場所からでも見れるさ。特にあの『混成樹』は、場所によってはかなり遠くの方でも見えるらしいからのぉ」

 「そうなんだ〜大きいもんね〜。でも〜なんで混成樹って言われてるの〜?」


 おお!エイベル、ナイスな質問だぜ。オレっちもその名称の由来は識らないんだよな。かーちゃんの教科書は、古き神々に関すること以外は、スルー記載が多かったから。


 「あの真ん中のデカい木は、ものすごい数の木の集合体だそうじゃ。その昔、海の呪い以前にS級の竜人冒険者の一人が近くまで飛んだ時に見つけて、そう名付けたらしい」

 「へー、あんな超危険なとこまで飛んだんだ。スゲーな!」

 「三度ほど挑戦したらしいのぉ」

 「三回も〜スゴいね〜」

 「三度目は戻って来なかったようじゃが」

 「へー⋯いや、それって」

  

 旧ダンジョン最下層を踏破したS級冒険者でさえ、樹海魔獣に殺られちゃったのか⋯⋯。くわばら、くわばら。

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