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第百六十一話 姐さん!って呼んでいいですか?

 サーバー湖──それは、アメジオスとポラリス・スタージャーの国境近くにある、このアメジオスの──いや、ウルドラム大陸最大の淡水湖だ。

 エンゼーレの街よりも少し北の地に、その湖はあった。


 『大きいね〜⋯⋯』

 『ああ。まるで海みたいだ──』


 神眼だと夜でも暗視スコープのように、ハッキリと景色が視える。

 この大湖は、まだ対岸が目に見える範囲だったカトラジナさんとこの湖とは違い、対岸が見えない。湖の中にある島も、ここからだとその数も大きさも──まったくわからんな。


 《これは⋯⋯上から見ねーとわからん》

 《そうだね。ここからだと湖全体が見えないものね。『眼』から視よう》


 そう言って『眼』と同調したカガリス様とヴァチュラー様は、一番大きな島を探し始めた。オレっちもカガリス様を通して、『眼』と同調している。


 ちなみに、最初『眼』による上空からの眺めを伸縮度を調整せずに見てしまい、ウルドラム大陸の西部地域全体を見る羽目になった。フツーなら範囲が広すぎて目移りしちゃうとこだけど、それでもこの湖は際立って見えたから、その大きさには驚く。


 さーて、サーバー湖で一番大きな島は⋯っと。


 湖には東西南北に点在する多くの島々があるが、その中で特に大きく見える島が、二島あった。この二島、形は違えど、面積はほぼ同じようにしか見えない。う〜ん、どっちだ?


 《神力は感知できないから視覚のみに頼るしかないけれど──一とにかく、一番高い木を見つけよう》

 『え~と⋯⋯』

 ヴァチュラー様もエイベルも、当然、オレっちもカガリス様も、目を皿のようにして目印の木を探した。


 『キュ⋯?』

 二島のうち、北側の方の島の山間部に、突き出た大きな影が見えた。

 『あ、あれっ!あの木じゃないですか!?』

 《なんか⋯⋯変わった種類の木だな?》


 その木の上空に転移したカガリス様が首を傾げるのも無理はない。

 それは、20メートルほどの高さがある木なのだが、この世界ではあまり見かけない柳っぽい木だったのだ。

 垂れ下がった大量の細長い葉が、風で微かに揺れている。


 幸いなことに、その木があった島は、集落らしき明かりが一切見えない無人島のようだった。

 そう。このサーバー湖には、集落⋯町や村がある島もあるのだ。


 サーバー湖は、湖に点在する島々に二万人もの人々が住んでいることで有名で、湖全体も驚くほど大きいが、陸地もそこそこ広い。

 しかも、そのほとんどが平地なので、農地にも漁場にも適している。その上、場所によっては島と島を繋ぐ長い橋もかけられ、対岸との往来船が盛んに行き来しているので、人々の移動も盛んだ。

 尤も、湖の大部分──七割は鳥魔獣の生息地なので、南東部にある島々以外は完全に無人島なのだが。


 この辺は獣学校のテストにも出ていたから、よ〜く憶えているのだ。えっへん!


 《何が『えっへん』だ!オメー、肝心の湖の名前を忘れてただろう!》


 ギクッ!!

 そうでした──一番大切なとこを忘れておりましたっっ!!


 『そ、それより、あの木の下に急ぎましょうよ!!』

 痛いところを突かれたオレっちは、慌ててそう叫んだ。


 《そうだ──急がねば!末姫様っ!!》

 弾かれるように、カガリス様が地面へと降り立つ。


 《なるほど。この木は、神力を糧にした変種なんだ。普通の炎や雷じゃ燃えないようになってる》

 カガリス様の後に続いて地上に降りたヴァチュラー様が、しげしげと柳?の木を観察していた。


 《それより、簡易空間の入り口を──ん?》

 《どうやら、もう空間は全開してるみたいだよ。きっと、あそこが末姫様の隠れ家だ》


 闇の先──なぜか外よりも明るい薄闇の中に、三階建の大きな屋敷があった。

 近づくと、その屋敷の前方には、多種多様な花々が咲き乱れる美しい庭園が広がっていた。中央には噴水まである。

 そして、その噴水前に長身の人影が──ん?耳が長いな?


 「今晩は。そして、ようこそおいで下さいました、古き神々よ。私は、ニナベルタ・ブルタルニアと申します。エルフの半神⋯⋯と言うよりは、ブルーニルの娘の一人と言った方が、貴方がたにはわかりやすいですね」


 白磁のような白い肌と紫銀のサラサラとした長い髪の穏やかな物腰のエルフはそう言って、カガリス様たちの前に跪いた。


 《ブルーニルのガキか。そーいやアイツ、眷属との間に、ガキがいっぱいいたな》

 《それより君は、あの身代わり人形の本体だよね?》 

 「はい。アレは、私の姿を模したものでした。彼らに殺されたフリをするための偽装でしたが⋯⋯まさか、あのタイミングで貴方がたが介入してくるとは思ってもみませんでしたので⋯⋯とはいえ、タロス君たちと会った時に、何らかの形で会うことはわかっておりましたが。ところで、タロス君、エイベル君──私がわかる?」

 『え⋯?』

 『どこかで〜お会いました〜?』


 オレっちもエイベルも、彼女とは初対面のハズ。こんなに目立つ容姿の人──しかも、エルフを忘れるってことは、まず無いと思うんだが?


 「フフ。それはそうよね。姿も声も違うんだから⋯⋯でも、年増のエルフと言えばわかるかしら?」


 年増のエルフ?──過去、オレっちたちが会ったエルフは二人だけ⋯⋯あっ!452歳!!銀色の髪に、菫色の瞳──何よりも、日に焼けた小麦色の肌だった、エルフのイリスさんっ!?


 『イリスさんですか!?』

 「ええ、そうよ」

 『え~と、え~と⋯⋯イリスさんがニナベルタ様だったということは⋯⋯』

 相方のトルエスタさんって、まさか!?


 「カガリス、ヴァチュラー。こうして直に会うのは、本当に久しぶりだね」


 薄闇の中、噴水の向こう側から新たにこちらへと向かってくる人影が──


 来た──!!トルエスタさん⋯じゃなくて、末姫様──!?


 と、オレっちが心の中で叫ぶ前に、カガリス様とヴァチュラー様は、その場で跪いていた。早っ!!


 《はいっ!この下位世界の時間では、かれこれ三万年ぶり⋯⋯ぐらいでしょうか!?》

 「不正解。直に会うのは、五万年ぶりだよ。お前たちは、お母様と同じく、魔素濃度が下がる前に神界へと戻ったからね」

 これ以上はない絶妙美のお顔が、華やかな笑みを浮かべる。

 

 五万年!?えらい昔な──でも、カガリス様たち早々に帰ったみたいだから、最後まで残った神々とは、かなり年数差があるのかも?


 ⋯⋯ところで⋯⋯今のでわかったけど、末姫様って五万歳以上なんだ。いや、神に歳なんか意味ないのか。実際、目の前にいる末姫様は、成人前後の若いおねーサマなんだから。


 けどエンゼーレの城で会った時とは⋯⋯あの壊れかけた身代わり人形とは、姿が微妙に違うな。

 四方八方にたなびく羽衣も無いし、フツーの黒髪に紺色の瞳──その瞳も、もちろん輝いていない。顔の造作はとんでもなく美しいが、それだけの人間って感じだ。

 ん〜⋯⋯でも、ニーブ君と同じく、こう⋯⋯なんていうか不思議な雰囲気は感じるなぁ。穏やかさとは別の、深淵的な深みがある、この感じ⋯⋯

 

 《末姫様。この簡易空間の中でも神気を抑える必要があるのですか⋯?》

 カガリス様も、その姿に疑問を持ったらしい。


 「念の為にね。他神族の中には油断できない能力を持つ者もいるから」


 ああ、それでか。本来の姿だと神気漏れが起こり易いのかな?


 「タロス君、エイベル君──君たちは私を搜すために、カガリスたちの憑依体にされてしまったんだね。それにしても⋯⋯タロス君と会うのは、人形の時も含めて、四度目になるのか」

 『はい。ニーブく⋯⋯えーと、末姫様とは四度目です!』

 さすがに四度となると、カガリス様の言う『(えにし)』とやらを実感する。


 「私の本当の名前は、フブニールと言うんだ。だから愛称として『フブル』と呼んでくれていいよ」

 『フブル様⋯⋯ですか?』

 「様は要らない」


 でもなぁ。カガリス様たちでさえ、『様』付けだしぃ。かと言って、末姫様と呼ぶのもモフ神たちとかぶるしぃ⋯⋯えーと、え~と⋯⋯


 『では、神姫(かみひめ)様⋯というのはどうでしょう!?』

 どうよ!?我ながら、良きネーミング!!


 「神も姫も、様も要らない。⋯⋯というか、他の者たちにそう呼ばれてばかりだから、もういい」

 『⋯⋯』

 ガーン!!結構メジャーな呼び方だった!?


 神、姫、様、無し⋯⋯ということは、フブルさんとお呼びするしか⋯⋯でも、なんか物足りないというか、敬意に欠けるというか──あ、そうだ!


 『では、フブル(ねえ)さんとお呼びします!!』

 「姐さん?」

 『自分的に、姐さんとお呼びしたいです!』

 

 《おいコラ、タロス!!いくら末姫様がそうおっしゃってても、気安いぞ!!》

 「カガリス。私がそうして欲しいと頼んでいるからそれでいいんだ。⋯⋯じゃあ、タロス君。それでいいよ」

 『ありがとうございます、フブル姐さん!!』


 『じゃあ〜僕は〜⋯⋯え~と、え~と⋯⋯』

 真面目なエイベルは、真剣に悩んでいた。ここは、助け舟を出すか!


 『エイベルは、フツーにフブルさんでいいんじゃないか?』

 『でも〜⋯⋯やっぱり『様』はつけないと〜自分的に落ち着かなくて〜⋯⋯フブル様〜にしておきます〜!』

 「自分的に⋯か。君たちって、似てないようで似たところがあるね。⋯⋯それより、中で話そうか」


 フブル姐さんが先頭に立って屋敷へと向かい、そのすぐ後をニナベルタ様が続いた。そして、カガリス様とヴァチュラー様が、二人の後を追う。


 いよいよ、全ての謎が解き明かされる時!⋯⋯なのかもしれない。ドキドキするな!

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