第百五十九話 真打ち登場⋯⋯ですか!?
☆ エイベル視点 ☆
ペナルシーって、強かったんだ⋯⋯。
ヴァチュラー様の黒バットをギリギリで躱してるし、嫌な角度から雷撃を撃ち込んでくる。
バチバチした光が眩しい──それに、ペナルシーは常に距離をとってヴァチュラー様から離れようとする。あ!ヴァチュラー様が壁をぶち抜いた!
苛立ってバットを振り回し過ぎたみたい。⋯⋯賢者様らしき四枚翼の女の人の近くだったから、彼女は慌ててそこを離れていた。
彼女は、ペナルシーたちに加勢することもなく、かといって僕たちに助けを求めるわけでもない。ただ、混乱して怯えているだけのようだ。
エルフの女の人は、気絶しているのか死んでしまったのか──ピクリともしないからわからない。⋯⋯?あれ?今、少し動いたような⋯⋯?
◇◇◇◇◇
《ええい!ムカつく!!大した神力でもねーのに、妙に頑丈でしぶてぇ!!》
「それはお互い様だと思うが?そもそも我らが憑依した体は、補強されるものだ」
だよね。カガリス様だってゾルボルトからの黒いモヤ──変幻自在に形を変える黒い攻撃を受けても、すぐに体勢を立て直すし。
まあ、カガリス様とオレっちの場合は、自己治癒があるから余計にだが。
「しかし、ここは狭いな。ふむ。では、こうしようか?」
ゾルボルトは、黒いモヤを大量に発生させると、それを天井に向かって、勢いよく放った。
ドォーン!
黒モヤが天井を突き破る!!
当然、天井にあった大型の照明魔導器も複数大破し、落ちてきた大量の瓦礫と共に、オレっちたちに降り注いできた。
ちょっと、なにすんねんっ!危ないやろうが!!
とはいえ、カガリス様やヴァチュラー様はそれらを神力で弾いているので問題はないんだが──ゾルボルトやペナルシーも然り。あ!賢者さんを忘れてた!!
ふと見ると、賢者もまた両手をかざして──神力なのか魔力なのかはわからないが、身を守っていた。怯えていても、そこは賢者。放っておいても問題なさそうだな。
エルフの女性は⋯⋯瓦礫で姿が見えない。生死を確認していないから気にはなるけど──今は、闘いの最中だ。仕方ない。
《待ちやがれ!!》
カガリス様とヴァチュラー様は、夜空と飛んだペナルシーたちを追った。
「あーあ。また派手にやったね〜☆」
「部屋の中は狭くて、大きな術が使えんからな。下手をすれば、お前も巻き込む」
「あー、それは勘弁してよ⋯⋯って、ワッ!!」
ペナルシーは、顔面に飛んできたヴァチュラー様の黒バットを、直前で素早く避けた。チッ!反射神経いいな!
そこからは大きな神術合戦──ペナルシーは雷を得意とするようで、ドンドンと派手に落としてくるし、ゾルボルトは黒いモヤを広範囲に広げて、四方八方から攻撃してきた。
カガリス様は、全身を神力光で覆って攻撃してくる黒モヤを霧散させていたが、防御の方に神力を割いた分、攻撃力が低下して、なかなか大きなダメージを与えられなかった。
《クソ!神力が足りなくて、大技が使えねぇ!!》
《こっちも遠隔攻撃ばかりしてくるから、近づけなくてイライラするよ〜!!》
⋯⋯なんだろう?
ゾルボルトもペナルシーも、相当神力を消耗しているハズなのに、表情に余裕がありそうな感じなんだけど⋯⋯ハッ!?これは、少年バトルマンガ的な展開だと次のページで⋯⋯!?
カキン!
《なっ⋯!》
カガリス様の背中──つまり、オレっちの背に衝撃が奔った。エッ!?背後からの攻撃!?
神バリアーで弾いたものの、かなり強い攻撃だったぞ!?
見ると、光ってる蜂がいた。ハチ!?しかもデカい!一メートル近くある!!
《クソッ、新手か!卑怯だぞ!!不意打ちしやがって!!》
カガリス様が、後方を睨みつけながら叫んだ。
「そんなのアタシの神力に気づかなかったアンタがマヌケなだけじゃん。あー、でも、ゾルボルトの相手だけで精一杯だもんねー?」
少し下方の夜空にいたのは、褐色の肌をした少女だった。水色の瞳が闇の中でキラキラと輝いている。神族だ。間違いない!
ここにきて、また新手の憑依神が!!
「良いタイミングだ。カーリリス」
「別に狙ったワケじゃないケドね。アタシは、ペナルシーの報告にあった獣人の憑依神を確認するために来ただけだから。あ〜⋯⋯転移輸送といい、この雑用といい⋯⋯最近、アタシばっかこき使われてるンだけどー!」
カーリリスと呼ばれた白髪の少女は、両頬を膨らませた。愛らしい顔つきなので、敵ながらムダに可愛い。
「仕方ないでしょー?キミは、共存憑依できた強運の持ち主だから☆ボクたちより断然、器の保ちがいいしー⋯⋯いいなぁ。ボクなんて、もう左腕がほとんど動かなくて、神力で動かしてるのに!」
「ふ~ん。ソレ、まだ二年目なのに?」
「賢者に魅了神縛をかけたから、そのせいだと思うけどー⋯って!また!!」
またもペナルシーの顔面狙いの黒バットが、宙を切る。惜しい!!
《カガリン!一時、退却だ!!》
《いや、ここはまとめて始末を──》
《本体ならともかく、基礎能力が低いこの体じゃ、分が悪い!逃げよう!!》
「そうはいかない。カーリリス、お前は攻撃しなくてもいい。その代わり、奴らを閉じ込めろ!」
「はい、はい。フフッ。逃さないわよー」
《チッ!!》
カガリス様が舌打ちした。
特にカーリリスとやらが何かしたようには見えなかったけど、カガリス様が転移しようとしてもできなかったのだ。それなら上昇して飛んで逃げようと考えたヴァチュラー様も、見えない何かに阻まれた。
《結局、殺るしか無いってか!》
《それなら、あのカーリリスとかいう憑依神を狙おう!!》
ヴァチュラー様が、黒バットをカーリリスに向けて振りかざした。
「面倒くさいなぁ⋯⋯ペナルシー!」
「いや、それはボクのセリフなんだけど⋯⋯仕方ないかー☆任せてー!」
結局、ヴァチュラー様がペナルシーと。カガリス様がゾルボルトと再び対峙することになった。だが、ちょくちょくカーリリスが奴らをフォローするものだから、徐々にこちらが劣勢になってきた。
《クソッ、やりにくい⋯⋯!》
《このバットが直撃すれば、一発で終わるのに!!》
カガリス様もヴァチュラー様もヘバッてきたのか、今までにない焦りが見え始める。
これは⋯⋯結構、ヤバい状況なのでは!?
『か、簡易空間に何か使えそうな物はないんですか!?』
たくさんの神アイテムが、簡易空間にはあるハズだ!
《戦闘用の神器は、基本、加護種用の物ばかりだから神族向けじゃねぇ!》
《逃走用アイテムも空間関係が多いから、この結界の中じゃ使用できないし──》
ガーン!アカンかったっっ!!
「ふむ。そろそろ良いだろう。『ヴァーリ・ブリスラ』!」
ゾルボルトが何かの名を呼んだ瞬間、彼の右手に、赤銀色の長槍が出現した。
穂と柄が一体化した独特の形状──ゾルボルトが握っている柄の一部分だけが、少し盛り上がっていてボコボコしている。
《ここにきて、神器だと!?》
「これは、あの方から頂いた対神族用の神器だ。憑依体である我らは、どうしても力不足なのでな──そろそろ決めさせてもらう!」
《ヤベェ!!》
《桁違いの攻撃がくるよ!!カガリン!最大防御を──》
ゴオッ!
赤銀色の長槍から、白い炎が噴き出した。目に見えてヤバい!!
ドオォォン!!
詰んだと思った瞬間、下から大量の瓦礫が吹き上げられてきた。
「なんだ!?」
「エッ──何!?」
《なっ⋯!》
敵だけでなくカガリス様も、驚きの声を上げる。
《あれは!?》
カガリス様が反射的に下を見ると、瓦礫が全て無くなった城の部屋に、人影が──それを見たカガリス様から漏れ出した、驚きと歓喜の感情がオレっちを包む。
長い黒銀の髪に翠がかった金色に輝く瞳──この暗闇の中 、カガリス様の神視覚だとその顔立ちまでハッキリと見える。
キラキラとした内側から輝く瞳と、絶妙な作りの美しい顔立ち──間違いない、女神だ!
青、緑、白──それらの色彩が順番に色を変える羽衣を纏っている。まるで天女のようなお姿。でも服装は、トップスとキュロットの組み合わせというラフな感じだけど。
《す、末姫様!!》
《姫様〜!!》
え!?アレが、ニーブさ⋯じゃなく末姫様!?ここでまさかの、真打ち登場⋯⋯ですか!?




