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第百五十三話 ディープインパクト!

 「これが、父からの推薦状です。と言っても、お目通りだけをお願いするだけですが⋯⋯」

 「はい、メイデン様。昨日頂いた連絡で、賢者様の許可はすでに下りております。ですが⋯⋯まさか、元老でもあるご子息が同伴なさるとは思ってもみませんでした」


 湖の東側の対岸と、城の間にかけられた長い橋を渡り、城門から直線上の大きな車止め前で待っていたのは、二人の女性加護人だった。

 一人は、薄紅色の瞳が蛇のように縦になっている白髪の女性。もう一人は、淡いオレンジ色の髪をした、白いウサギ耳と尻尾を持つ半獣人だった。


 二人とも美人だが、180センチ以上の長身で、骨太そうなガッチリとした体型をしている。さすがは、賢者様ン家の警備兵。

 それにしては、服が黒のワイシャツにズボンというラフな格好だけども。あ、履き物だけは、金属製の甲冑ブーツだ。


 「ええ。私もよく分からないのですが、何故かそうするようにしなければならなくて⋯⋯」

 「⋯⋯え!?それは、どういう──」

 《それはいいから、サッサとこの城の賢者んとこへ案内しろ!》


 「は、はい⋯⋯!」

 「し、失礼致しました⋯⋯!」


 短気なカガリス様が、念話と共に暗示を掛けたのだろう。警備兵⋯いや、近衛兵のおねーさんたち?は、慌てて頭を下げた。


 《これでいい。お前ももういいぞ。帰れ!》


 「あ、ハイ。これで⋯⋯終わり⋯⋯なのかな?」


 カチェさんは、さらに何か言いたそうな顔をしていたが、結局、何も言わずに魔馬車へと戻っていった。

 今さらだが、一つ気づいたことがある。

 カチェさんの甲冑って、感情によって輝いたり錆っぽくなったりするんだ⋯⋯(今は錆びて黒ずんでいる)



 《⋯⋯カガリン》

 《ああ、いるな。だが、こっちは念の為に極小範囲の結界神器を使ってるから、アチラには察知されない》

 《まさか、戦時中の隠密用アイテムが、再び役に立つ日が来ようとはね》

 《ああ。遺物をダンジョンからゴッソリ持ち出しておいて正解だった》

 《そうだね。それに、あちら側の者は、この本城ではなくもう一つの建物内にいるようだし》

 《そーいや、渡り通路で繋がってる建物があったな。あそこか》


 


 


 ◇◇◇◇◇


 《ふ~ん。コイツら、一応、兵士なのか》


 カガリス様たちがステータス画面で確認してみると、やはり賢者の近衛兵さんたちだった。二人ともHPもMPも高く、スキルも攻守に長けている。


 兵士らしくない彼女らの服装は、今代の賢者が格式張った装いを嫌うので、いろいろ試行錯誤した結果、他の使用人達とは異なる黒一色の飾り気のない服に統一されたようだ。


 そしてこの湖の城は、元々は離宮だったらしい。先代賢者の死後──かなり昔だが、その直後に住まいを移したとも書いてあった。

 毎度の事ながら、ステータスさんの気まぐれ情報はなんでも有りだな。むしろ、その他情報の方がやけに細かい。


 「では、こちらへどうぞ」


 近衛のおねーさんたちに案内され、広くて長いお城の通路をズンズン歩く、オレっちとエイベル。

 途中で、姿見なのか飾りなのかよくわからない大きな鏡が幾つも配置された場所があった。そこを通った時、見慣れない銀髪の半獣美青年の自分の姿に、ドキッとした。

 女性バージョンの時ほどの違和感は無いが、スゲー美青年っぷり。そして、恐ろしい程の美毛な耳と尻尾。それでもこの前を行くおねーさんたちはさほど反応していなかったから、きっと逆ハーレムには、このレベルのイケメンがゴロゴロしているんだろうなー。


 やがて、大きな扉が幾つもある階の一室で、近衛のおねーさんたちは足を止めた。


 「この部屋でお待ち下さい。賢者様のお呼び出しがあり次第、連絡致しますので」


 かなりの距離を歩かせた挙げ句、待機とな!?


 《どのぐらい待てばいいんだ?》

 「⋯⋯それは⋯⋯賢者様のお心次第ですので⋯⋯」

 《ハッキリ言ってくれる?》

 ヴァチュラー様の問いに、二人揃って困惑気味に視線を彷徨わせた。


 「⋯⋯賢者様は気まぐれな⋯⋯いえ、お忙しいお方ですので、ハッキリとは言えなくて⋯⋯すぐにかもしれませんし、数日⋯かも?」

 「女官長が折を見て、再度、進言して下さるとは思うのですが⋯⋯」


 《つまり、賢者が私達と会う約束を憶えていない可能性もあるんだね。どうする、カガリン?》

 《コッチから行くしかねーな。おい、オメーら案内しろ!》


 「⋯⋯賢者様の私室を含めた最上階へは、女官たちしか入れません」

 「私たちは近衛兵ですが、この城内だと緊急の時ぐらいしか許されていなくて⋯⋯」


 フツー、近衛兵って部屋の両側に立ってるもんだけど、それは前世の常識であって、この世界ではそうじゃ無いんだな。それとも、ここの賢者様だけが特別なんだろうか?


 《使えん奴らだな》

 《仕方ないね。女官とやらを探そう》




 最上階へと上がる階段前で、オレっちとエイベルは、カガリス様とヴァチュラー様にメインを譲った。


 《俺が表になった方が対処しやすいからな》

 《薄くなった血筋とはいえ、一応、半神の末だからね。下手に抵抗されると面倒だ》


 精緻な金細工が美しい大きな扉──そこが、この城の主である筆頭賢者の部屋だった。


 「⋯⋯?何者です!?」


 扉近くにいた長い黒髪を一纏めにして結い上げている女性が、声をかけてきた。下の階で暗示を掛けた女官よりも、やや年嵩っぽい。


 「ナルナダ、その方たちは!?」

 「女官長様⋯⋯この方々は、メイデン様のとても、大切な⋯⋯えーと」


 ナルナダと呼ばれた女官は、それ以上のことが言えなかった。その場しのぎの暗示だと具体的な設定無しなので、掛けられた本人にもよく解らないのだ。

 ただ、『賢者の部屋へ、重要な人物を連れて行く』──それだけだ。


 《女官長と言われてたな。よし、お前が扉を開けろ!》


 「えっ!?⋯⋯は、ハイ!かしこまりました⋯⋯!」


 女官長もまた、オレっちたちは大事な客だから賢者に会わせる──という思考に切り替わったようだった。


 「失礼致します、賢者様。メイデン様の推薦を受けた方々がお見えになっておられます」 


 大声を出すこともなく、それでもよく通る声で、扉前から声をかける。これは⋯⋯音声魔法かな?


 「煩いわね⋯⋯メイデンの紹介?ああ、そんなのあったっけ⋯⋯でも、後にして、後に!」

 「そういう訳にはまいりません。どうしても今、会って頂かなければなりませんので!」


 女官長が手をかざすと、触れもせずに扉が左右に分かれた。

 なるほど。鍵は魔法印。扉は、それ自体が鍵と連動する魔導器なのか。

 オレっちたちの住んでるお屋敷でも敷地内の倉庫が、ソレだったなぁ⋯⋯アッチはものすごく簡素な、丈夫さだけが取り柄の、重い金属製の扉だったけど。

 

 さ〜て、アメジオスの筆頭賢者にして、逆ハーレムの主であるカトラジナ様とは、どんな女王様なのかなー!?


 「ちょっと!勝手に入らないでよ!!」


 ⋯⋯声は可愛いけど、丸いな。うん、丸い。顔も体も⋯⋯えっ!?

 このベッドに腰掛けてる寝起きのデ◯──もとい、マックスぽっちゃりが、筆頭賢者!?マジで!?

 ──アメジオスに入国してからも驚くべきことがたくさんあったが、これほど驚いたことが他にあっただろうか!?いや、無い!!


 ディープインパクト──!!!

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