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第百五十二話 あばよ娼館。世話になるぜ逆ハーレム!

 ドドドドドドッと、魔馬車が駆け抜けていく──


 あばよ、高級娼館&オーナー!さよなら、ラビナナさんにヴィラローズさん、その他の麗しき娼婦のオネ〜さま方!

 ラドゥータ⋯じゃなく、ドルナさん!早く正気に戻って、借金返しなよ!


 とはいえ、彼女たちの記憶に、オレっちとエイベル──カリ子とヴァチュ美はもういない。カガリス様たちが、オレっちとエイベルに関する記憶を全て消去したからだ。


 「なんか寂しいけど、仕方ないか」

 「そうだね〜。なんだかんだ言っても〜皆〜いい人たちだったし〜」

 「ああ。それにしても、このフカフカのソファ⋯⋯かなりの高級品とみた!あっ、ここなんか金糸の刺繍が入ってる!⋯⋯ウサギ柄だけど」

 「それに〜すごく広いから〜全身を伸ばせるもんね〜」


 馬魔獣がどれだけ爆走しても浮遊魔導器で揺れもしない豪華で快適な馬車の中、広〜い座席でまったりしてる、オレっちとエイベル。


 「う〜ん⋯⋯ここは、恐ろしい程の小モフ天国だ⋯⋯ムニャムニャ⋯⋯」


 オレっちたちと向かい合う座席で、巨大なマリスのヌイグルミを抱いて寝ているカチェさんは、ヴァチュラー様の暗示によって、これから彼の実家へと帰る事を強制されている。


 作戦は、こうだ。

 まずは、カチェさんの手引きにより彼の父親に会い、洗脳。そして、父親からの推薦で、アメジオスの賢者──天位神官の一人、カトラジナ様の夫候補として潜入。


 「ここからアメジオスの首都まで半日以上かかるらしいから、オレたちも少し寝ておくか、エイベル」

 「僕は〜もう少しだけ〜外を見ておくよ〜。ほら〜、湖が見えてきたし〜」


 アメジオスは湖が多いからな。

 なかでも北方の湖が一番大きいんだっけ。観光地としても有名だったな。名称は⋯⋯なんだったかな?テストの時は憶えてたんだけど、もう忘れとるわ。







 ◇◇◇◇◇ 


 「──カチェスト。一体、お前は何を言い出すんだ!賢者様の夫候補の推薦状だと!?我が家は、これ以上の権力など欲しておらん!!」


 カチェさんの父親──すなわち、元老院のおエライさんが、青筋立てて怒っていた。


 ここは、アメジオスの首都、アポロニ・セレデ。そして、首都の高級住宅地でも上の方に建ってるデカい屋敷が、カチェさんこと、カチェスト・メイデンさんの家だった。

 代々、元老をやってるだけあって、相当、羽振りがいいらしい。


 敷地内に入ってから館が見えるまで、かなりの距離があったしな。どんだけ広いの?

 この当主の執務室だって、調度品の一つ一つが値打ち物っぽい。鑑定したいけど、今はカガリス様がメインだから──残念!



 《うるせーな、この装甲オヤジ⋯⋯》


 加護人っぽくカリスの耳と尻尾を持った半獣人の青年姿になっているカガリス様が、ボソッと呟いた。

 いや、丸聞こえですけど!?


 「そ、装甲オヤジ!?」


 息子が連れてきた銀髪の美青年に装甲オヤジと言われたカチェ父は、確かに、頭部を除けば鋼の装甲に全身を覆われた姿をしている。政務室で書類を作成している紳士というより、戦場に向かう戦士のようだ。

 しかも、カチェさんの『甲冑』と違い、コッチはかなりカスタマイズされた物だから、別の意味でも浮いてる。

 なんというか──前世のSF映画的なデザインな上に完成度の高いメカコスプレなんで、そう──アイ◯ンマンっぽいんだよね。

 ⋯⋯この分だと、モビ◯スーツ的な加護人もいるかもしれないな。それはそれで面白そうだが。


 《いいから、推薦状を書け!》

 「何を偉そうに!大体、賢者様の夫候補になる為には元老院の審査が必要で、しかも後宮に空きが無いと、どうにもなら──」

 《ねじ込め!とにかくあっちに行けばなんとかなる!》


 カガリス様の場合、なんとかなるじゃなくて、なんとかするってことだが。


 「君たちがどこの誰かは知らんが、カトラジナ様は、大変扱いにくい⋯⋯いや、そもそも今代の筆頭賢者でもあるお方なのだぞ!いくら元老でも──」


 《もうサクッといこう、カガリン》

 カガリス様の隣に腰掛けていた黒い髪の美青年──ヴァチュラー様が、無表情で告げた。


 《そうだな。賢者にさえ会えれば、後はどうでもいいし》


 ハイ!カチェ父、ここで終了──!






 「カチェスト様。ご友人方、行ってらしゃいませ!」


 館の執事長が声を掛け、大勢の使用人たちが頭を下げる中、オレっちたちは再び魔馬車へと乗り込んだ。


 暗示に掛けられたカチェ父によると、アメジオスの賢者は、現在四名──これから行くカトラジナ様のお城にはもう一人、賢者がいらっしゃるとのこと。つまり、ここの賢者は親子なのだ。


 ポラリス・スタージャーの王は、半神血族の中から功績のあった者や子孫を残せた者を王としていたが、それと同じく、アメジオスでも次代の賢者を残せた者が一番上に立つらしい。そういう意味でカトラジナ様は現在、賢者のトップに君臨しているのだとか。


 女性賢者か。今は亡き小獣国の賢者様も女性だったからさほど珍しくはないけれど、大変扱いにくいって言われてたよね?

 神経質っぽい感じなのか、もしくは性格が悪いのか──まぁ、会ってみればわかる話だし、後のお楽しみということで──え。

 途中で一泊!?そんなに遠いの!?


 「皆さん、ご自分の領地で暮らしてるから⋯⋯」

 カチェさんは、魔馬車に備えつけてあった台の上で何かを書きながらそう言った。紙のサイズからして、手紙かな?


 へー。アメジオスの賢者様たちって、首都で暮らしてないんだ。自分の領地って──貴族ですか!?






 ◇◇◇◇◇


 結局、二日間もかけて、ようやく目的地まで辿り着いたオレっちたち。そして、幾つもの厳重な警備を抜けた先の湖の中央に、それはあった。


 The・お城!白亜のお城!!

 一部、透明なクリスタル屋根もある優美な外観だ。ここが、カトラジナ様の逆ハーレムなのか!

 でも、このドキドキ感って、怖いもの見たさのソレなんだよね。だって、野郎ばっかしの後宮って、男から見たら地獄じゃねぇ!?





 


 ☆ オマケ話〜ハイネス先生の憂鬱〜 ☆



 私は、ハイネス・ゴルゴー。アメジオスの出身の加護人ではあるが、今はビスケス・モビルケの首都、マルガナの中央にある小獣学校の教師をしている。


 半年ほど前、今まで住んでいた寮を出て、学校近くの一軒家を借りた。大勢の学生や教師がいる寮は朝から晩まで賑やか過ぎて、どうにも落ち着かないからだ。

 うむ。やはり、一軒家は静かでいい。借りて正解だった。さて、新聞を取りにいくか。

 ん?ポストに新聞以外の何かが──手紙?珍しいな⋯⋯誰からだ?


 はぁ?カチェスト!?アイツからか!

 相変わらず下手な字だな。アメジオスの元老として、これはどうなんだ?

 ⋯⋯まあ、あんなのでも、一応、幼馴染みだからな。とりあえず読んでみるか。





 やあ、ハイネス!元気にしてるかい!?キミはもちろん元気だよね?だってそこは、小モフ天の聖地──ビスケス・モビルケのど真ん中なんだから!!!


 ハッキリ言って、今でも悔しいよ。幼馴染みで同じ小モフ愛好者のキミが小モフ天を満喫してるのに、ボクはまったく興味のない元老職をやらされてるんだからね!!


 でも⋯⋯ボクには、キミみたいに家を捨てる勇気が無かったし、こうなったのも仕方ないんだけどさ。


 でもね。ここ最近は、ずーっと小モフの夢ばかり見れるんだ。それも、大量の小モフに大モテの夢を!不思議だよね?

 それでね⋯⋯これは、我が神──アイランメイデン様の天啓かもしれないって思ったんだ。だから、元老職は今期で辞めるよ。どーせ、爺さんや父さんの雑用ばかりだし、誰も困らないからね。


 という訳で、ハイネス。キミ、今は小獣学校近くの一軒家を借りてるんだってね。なんで知ってるのか⋯だって?ボクにだって、調べるツテはあるのさ!だから、少しの間泊めてよ。一年──いや、半年でもいいからさ!


 じゃあそーいう事で、ヨロシクねー!!



 キミの大親友、カチェストより。





 「誰が大親友──って、アイツ、本当に家を出る気か?」

 いや、無理だな。この私でさえ、小獣国の教員免許はともかく(勉強もせずに、一発合格)、事前の下準備や根回しを念入りにしての出国だったのに。



 「はぁ⋯⋯」


 学校に着いても、あの手紙の事が気になる。朝から憂鬱だ⋯⋯


 「どうかしましたか、ハイネス先生?」

 「あ、リブライト先生⋯⋯いえ、どうも幼馴染みが遊びに来るようでして」

 「アメジオスから?あー、でも、人間の国の争いは終わったようですし、時期的には良いのでは?」

 「そうですね⋯⋯どうせ、小獣国を観光したらすぐに帰るでしょうし。と言うより、帰って欲しいんですけど」

 「え⋯?あ──そうそう!ダンス学科のレキュー先生が、凱旋イベントを追加公演なさるそうですよ!この前は、同僚のよしみで招待されましたけど、今回は自分でチケットを取らなくてはいけなくて!」

 「そうですか!それは良い情報を⋯⋯感謝します!」


 今回も、大勢の若手小獣人ダンサーたちが出てくるのかな?楽しみだ!


 さて、カチェだが⋯⋯こちらが下手に支援すると、居つく可能性もある。一ヶ月ほど様子をみて、それから追い出すか。


 本当に家を出る気なら、観光よりもここで職を見つけるのが先だ。

 世の中、自分の頭の中だけの世界と違って、全く甘くないんだぞ──カチェ!

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