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第十五話 アホの子とスミー村到着!

 「速えぇ!外の景色がドンドン変わるー!」

 「まるで飛んでるみたいだね〜!」

 「風魔法で風圧弱めてなきゃ、マジで落ちてるな!」

 「ちゃんと、手すりに掴まってるだぁよ!落ちたらすぐには回収できねぇから!」


 手すりって──もしかして、椅子の横にある突き出た棒のことか!?経費削減しすぎだろう、おじさんよぉ!



 オレっちとエイベルは今、三羽の()()()()鳥魔獣の牽引する荷車の前車両にいる。

 この荷車兼送迎車は、積み荷専用車両と座席専用車両の連結仕様になっていた。

 大きさは積み荷専用車両の方が小型トラックぐらいで、座席専用車両の方は軽自動車サイズってとこ。御者席の後ろに横二列の四人分の座席があって、オレっちとエイベルは、二列目の座席に並んで座っている。簡素な作りの木製の座席は、思っていたよりも快適だった。(手すり棒から推測するに自作だろうが)

 おそらく車輪に、風魔法を付与しているのだろう。揺れが少ない。

 

 カピバラおじさんの『俺の車』は、走っているというよりもエイベルの言う通り、飛んでるって感じだ。オレっちは、おじさんの背中越しに前方を見る。

 縦一列に繋がれた三羽のダチョウ(?)鳥魔獣が、幅の広い道を軽快に走っている──というよりも、ダイナミックに跳んでるって動きで爆走していた。

 前世のダチョウによく似た特徴を持つ彼らだが、四メートルはあろうかという体長もさることながら、長い首や太い脚部分が硬質化した鱗のようになっており、まさに魔獣といったワイルドな姿をしていた。

 ──小さな頭部とバサバサの睫毛に大きな目の(つら)は、ダチョウ以外の何ものでもないんだが。


 「こんなに速ぇのに、なんでマルガナで見たことないんだろ?」

 「ホントだね〜馬魔獣並みの〜スピードなのにね〜?」

 「そりゃそうさぁ。だってコイツら、アホだぁもん」


 おじさんが手綱を握りながら、後方のオレっちたちに顔を向ける。

 「ここさ一本道だからぁ走れっけど、都会の曲がりくねった道なんぞ、くぉのアホどもに走れるわけねぇ」

 「⋯⋯コイツらって、真っすぐにしか走れねーの?」

 「いやぁ、真っすぐつーか、前がひらけた場所つーか⋯こぉの道でさえ、憶えて走ってるわけでもねぇしなぁ?」

 おじさんもアホという言葉以外でどう説明したらいいのか解らないのだろう。言葉に詰まっていた。

 ⋯⋯ホントにアホの子なんだ。



 アホの子による高速感を楽しみながら、遠くの岩場や木々、川などを眺める。人工の建造物は、今のところ見当たらない。

 ふと気付くと、あんなに青かった空の色が、やや薄くなってきている。

 ああ、もうじき日が暮れるなぁ⋯⋯。でも、その前には村に着くはずだから、大丈夫だよな。


 魔導器や魔法具を使用せず、車輪に風魔法を付与しただけの処置ではタイムリミットがある。それはつまり、魔力供給の限界だ。

 前に四本、後の車両に六本──合わせて十本の車輪。首都の魔牛車でも時折、この荷車と同じ型のものを見かけるが、そのほとんどは補助魔法具を付けての半日運行だ。魔法具無しの場合、獣人の平均的な魔力量だと30分持つかどうかなんだよね。

 とんでもねぇ金額で販売している大型魔導器類は購入できなくて当たり前だが、補助魔法具さえ使わずに風魔法を付与してるってことは、その時間内には村に着くってことなんだろう。国境の飛行所とスミー村がそんなに近いとは思ってなかった。いや、このアホの子のスピードなら30分でも、そこそこ距離があんのか。





◇◇◇◇◇

 

 「⋯⋯」

 「⋯⋯」

 「⋯⋯んまぁ、こーゆーことなんだわぁ」


 スミー村の入り口らしき場所をすっ飛ばしてボエミーたちが停車した場所は、村外れのカピバラおじさんの経営する鳥魔獣牧場の敷地内だった。

 ボエミーとは、ダチョウ鳥魔獣の名称である。おじさんが「くぉの、アホボエミーどもが〜!」と叫んだことで、名が判明した。


 「⋯⋯」

 「⋯⋯」

 エイベルと二人、無言のまま座席からだだっ広い牧草地の上と降り立つ。


 「停車位置がずれるんはいつものことぉだけんど、今日は特に──いんや、それよりも早よぉ送り届けんと!」


 申し訳なさそうな顔をしたおじさんが、鳥魔獣舎の奥へと消えていく。

 しばらくして、小柄な⋯と言っても前世の大型犬ほどの大きさがあるニワトリっぽい鳥魔獣六羽を、これまたリヤカーぽい荷車に繋ぎ、オレっちたちを手招きした。


 「少ぉしばっか揺れっけど、我慢しておくれぇな!」


 六羽のニワトリ鳥魔獣が縦二列に三羽ずつ配置された、サンタクロースのトナカイぞりのような絵面で出発する。

 もはや風魔法を付与する魔力が残っていないのだろう。荷車はガタガタと揺れまくり、結局、エイベルが風魔法を四本の車輪に付与したのだが、均等に魔力配分できず、やや後方に傾きながらの走行となった。


 スミー村にあるエイベルの親戚の家に到着したのは、日没寸前だった。ニワトリ鳥魔獣はコケコケ鳴きながらも、犬並みのスピードで頑張ってくれた。その上、キチンと目的地で停止し、どこかのアホの子との違いを見せてくれた。

 オレっち、ニワトリっぽいからてっきり奴らの同類だと思ってたよ⋯⋯嬉しい誤算。




 「いや〜、ようこそ竜人国(ウルドラ)へ!」


 執事さんの従弟だというお爺さんは、淡いオレンジ毛のハムスター(?)獣人だった。

 「長旅で疲れているだろうし、すぐに食事にしよう。おーい、婆さん、飯だ、メシ!」

 「ハイハイ。まあ野イチゴのジュースでも飲んで待っていておくれね」

 犬獣人(チワワ?)のお婆さんが、ガラスコップを3つ出して、鮮やかな赤い液体を注いでくれる。

 オレっち、エイベル、カピバラおじさん。

 「いやぁ、面倒をおかけしましてぇ、一晩、お世話になりますわ!」


 ニワトリ魔獣は視力が弱く、夜はほぼ動かないらしい。世の中、上手くいかんもんやね。







 ☆ 補足 ☆


 魔力は食事をした後、2、3時間の休憩をとればほぼ回復します。

 完全回復時間は個人差が大きく、30分ほどで回復する人もいる反面、半日もかかるのんびりな人もいます。

 魔素を体内に取り込む器官は、魔素の濃い場所ほど発達し、ダンジョン生活が長いベテランの冒険者ほど魔力の回復が早くなる事が立証されています。ちなみに、魔法が発動しないほど魔力が減ってしまっても、体調を崩すことはありません。

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