第百五十一話 モフ神たちの疑念
☆ エイベル視点 ☆
「心配するな、エイベル!マリスであるラドゥータさんの顧客だということは、触るとしても、多分、オレだけだろう。なんなら、ソファーに座ったままでもいいからな!」
「うん〜。僕は〜あんまり毛が長くないから〜触り心地がよくないもんね〜」
タロスが『オレに任せろ!』と言ってくれて、ホッとした。
もともと僕は人見知りするタイプなので、お客様と上手く会話する自信がない。教育係のラビナナさんの前でさえ、緊張していたぐらいだ。リブライト先生以外の加護人に慣れていないせいでもあるが、相手を楽しませる話し方というものがよくわからないからでもある。
そして、本番──鎧姿の加護人は、あっという間にパンツ姿になり、僕の皮膜翼を触りだした。
⋯⋯あれ?なんで、僕!??
タロスも呆然としていた。
お客様曰く、「陽の翼持ちも月の翼持ちも、プライドが高い連中ばかりで、翼に触らせてくれないんだ〜!ホントに今日はラッキーだな!あー、こんな質感なんだー♡」
月はわかるけど(以前、ヴァチュラー様が言ってたから)、陽の翼持ちって何だろ?僕だって、翼を触られるのは嫌なんだけど。でも、ここは我慢しないと⋯⋯
「お客様〜♡ワタシのボリューミーな尻尾も負けてないわよ〜☆ホラ、ホラっ!」
タロスが、自分の白い尾をグイグイとお客様に突き出す。いつも思うけど、タロスって何に対しても積極的だよね。
ラビナナさんも、やる気と雑学トークだけはスゴいわねーって、タロスを褒めてたし。僕なんて口調からして匙を投げられて、全然だったのに。
「あー、キミは後でねー☆今は、この月の翼を愛でてんの♡ふふふ♪」
「あのー⋯、月の翼はわかりますけど、陽の翼ってどーいう意味なんです?」
「あー、小獣人のキミたちにはわからないかー。え〜と、昔から加護人はね、このコの翼の形態を月の翼、鳥獣人のような翼を陽の翼と呼んでいるんだー☆」
「へー。なるほど、どちらもそんなイメージの翼ですもんね!」
タロスって、好奇心も旺盛だよね。知識欲が強いっていうか⋯⋯僕も、何か会話を──駄目だ。何も思い浮かばないや。それに⋯⋯
「はぁ⋯⋯幸せだな〜⋯⋯」
お客様は、僕の皮膜に顔を擦り寄せてきた。
⋯⋯どうしよう。本当に気持ち悪くなってきた。翼を広げてパタパタしたい⋯⋯でも、お客様だし、触らないでとも言えないし⋯⋯
《キモい──!!コイツ、キモいっ!!》
あ。ヴァチュラー様の意識が、激しく圧してくる!
《エイベル、交代しよう!この加護人、キモいけど、いろいろ情報を持ってそうだ!》
『はい〜。お願いします〜ヴァチュラー様〜!』
助かった。⋯⋯後で、翼を洗おう。お客様には悪いけど、なんか手垢で汚れた気がするし。
◇◇◇◇◇
☆ タロス視点 ☆
「⋯⋯ボクは、元老なんかなりたくなかったんですよ。でも、爺さんも父さんも現役の議席持ちだから、最低でも100年はやれって⋯⋯」
ヴァチュラー様に暗示を掛けられたカチェさんは、なぜか身の上話を語り始めた。ステータス画面では、ほぼいらん情報──その他の記述ばかりだったからだ。
ステータスの管理者は、クセの強い人物だとその性格ばかりに重きを置くらしいな。
「ボクは、学校を出たらウルドラム大陸を旅したかったんです!特にビスケス・モビルケには長期で滞在しようと思ってたのに⋯⋯だって、天国ですよ、あそこは!!道行くモフの可愛さと言ったら──!」
《もう、それはステータス画面で視たから。これからする質問にだけ、答えてね》
「えー⋯⋯いえ、ハイ⋯⋯」
ヴァチュラー様に暗示にかけられてるのに、やけに感情的だな。思いっきり不満顔になってんぞ。フツーは、虚ろな感じになるのに。
《最近のアメジオスの国政は、上手くいってるの?変わった事はない?》
「う〜ん⋯⋯経済は上手くいってますかね?そもそもアメジオスは、ブルタルニアとの国境に共営のダンジョンもあるし、湖から水を引いた田畑も多いし、海に面してるから海産物にも恵まれているし。人魚も強いし──あ。うちの父が人魚の元老と仲が悪くて、しょっちゅう喧嘩して、この間も──」
《それはいいから。次!》
この加護人。クセが強すぎて、ストレートな会話ができんな。変化球ばかり投げてくる。というか、パンツ一丁でベッドの上で正座してるって⋯⋯すげー、シュールな絵面。
「変わった事と言えば⋯⋯出稼ぎが増えてる事かな?アメジオス国内よりも稼げる国があるらしくて──でも噂じゃ、最低でも二十年以上の長期契約の仕事ばかりらしいですけど」
《それは、男だけか?》
「いいえ。そりゃあ男の方が多いですけど⋯⋯確か、女性もそこそこいたと思います」
《ふ~ん⋯⋯一つ訊くが、元老院とやらの最高権力者は誰だ?》
《半神、もしくは半神血族だよね?》
半神はどうかな?獣学校の授業では、現在まで存命している半神は、エルフの国の長とその妹だけだと習ったけど。(ユーグラム様は隠れ半神だった)
「えーと⋯⋯賢者様達は、元老院よりも上の立場である名誉職の天位神官なので、国政にはさほど関与していません──というか、興味が無いんでしょうねー?あ、でもボクの家は、賢者様のお一人であるカトラジナ・ヴァルパティ様の派閥なんですよー。ここのオーナーの主だったお方で──」
《いちいち脱線すなっ!》
カチェさんって、マイペース過ぎる。きっと、普段から空気が読めない人なんだな。
《じゃあ、天位神官とやらの次は、誰なんだい?》
ヴァチュラー様は、質問の仕方を変えた。
「父を含めた六大元老達ですね。ボクたち加護人は人型という以外は、外見も能力もバラバラで、実のところ、文化も少〜し違ったところがあるんですよ。だから、それぞれの代表といったところですかねー」
へー。要するに、少数民族の集まりみたいな国なのか、アメジオスって。
そーいえば、リブライト先生が、『人型の加護種はね、古き神々の中でも突き抜けて個性的(つまり、マニアック)だった神々の加護を受けているんだ!』⋯って、言ってたな。
オレっちたち獣人は、ほぼモフって点で共通してるけど、加護人は半獣人に人魚、翼持ちに幻妖、カチェさんみたいな半金属──確かに、バラバラだ。
《カガリン。この子の主筋から情報を引き出そう》
《そうだな。コイツじゃ駄目だ。ポンコツ過ぎる!》
その会話の後、ポンコツ加護人の烙印を押されたカチェさんは、パタンとベッドに倒れ込み、そのまま幸せそうに眠ってしまった。きっと、モフ天の夢でも見てるのだろう。
◇◇◇◇◇
☆ 神々のヒソヒソ話 ☆
《とにかく、人集めをして何処かに送ってるみたいだね。カジノでは大型の転移装置を使っていたけど、それ以外のところでも転移させてるみたいだ》
《⋯⋯もしかしたら⋯⋯》
《うん。他神族が関わっているとしたら──おそらく、人間の国でもこの国以上に行方不明者が出ているだろうね》
ますます解らん。そもそも、何故アイツは、人間の国にいた?勿論、アイツ側では無い加護種も多いが、反面、それぞれの加護神と同等に崇めている連中も多かった筈だ。
竜神どもが去った後、いや、海の呪いで奴らの眷属を大陸中央に封じ込めた後、それこそ『神王』を名乗り、残りの国々をまとめる事もできただろうに。⋯⋯末姫様を警戒したのだろうか?
それに──人間の国はともかく、他神族と繋がっている?他神族と手を結ぶなんて、あり得るか?普通なら対立するところだろ。しかも、過剰魔素期でもないのに、他神族がこの下位世界に手を出すか?
何より末姫様がそれらをまったくご存知ないとは思えない。もしかすると⋯⋯知っていて、上の御方には黙っているのだろうか?う〜ん、ますます解らん。
解らない事が多過ぎるなんて俺たちには滅多に無い事だから、こう⋯⋯なんかモヤモヤするなぁ。こーいう時は、眷属共の言う『不安』っていう感情が少しだが理解できる気がする。
その根本は、情報が足りねぇって事だ。今はコチラから積極的にいかねぇと解決できねぇ。
とにかく、このポンコツ加護人を利用して、情報を集めなくては!




