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第百五十話 恋という名の罠

 「こっちも〜ハズレだったよ〜」

 《カジノのオーナーだったからね。でも、一つわかった事があったよ。元老の一人から金に困った連中を集めるようにって、各カジノに指示があったみたいだ》

 エイベルとヴァチュラー様が、そう言って部屋に戻ってきた。


 《それは、二年ほど前からだったらしい。その理由は、破産する前に儲かる仕事を斡旋して、借金奴隷の数を増やさないようにする為だそうだよ。集めた者たちは、中央カジノ──あの一番大きなカジノに連れて行かれるから、その後の事はオーナーも知らないらしいけれど》

 「⋯⋯」

 だったら、カジノそのものに規制をかければいいだけの話なのに⋯⋯怪しいな。


 「僕〜、お客様と〜どんな話をすればいいのかなぁって〜ドキドキしてたんだけど〜いきなり手を握られて〜圧し掛かられたの〜!ビックリした〜」

 「あー⋯⋯」

 結局エイベルは、娼婦の本当の仕事を知らないまま本番に入ったからな。そりゃ、驚くだろう。


 「でも〜すぐにヴァチュラー様と交代したから〜大丈夫だったけど〜」

 《思わず、一発殴っちゃったけどね。すぐに眠らせたから記憶には残らないけど》

 

 やっぱ、そうなったか。相手⋯客からすれば当然の行動なんだけど、オレっちたちの目的は情報だからな。ステータスさえ視れば、用無しなんよ。


 「それでね〜思ったんだけど〜⋯⋯この国の〜上の人かどうかは〜ここのオーナーに〜最初から訊いておけばいいんじゃない〜?」


 「⋯⋯」

 《⋯⋯》

 《⋯⋯そう、だね。エイベル⋯⋯》


 しまった!!そうだよ!客情報を持ってるのは、この娼館のオーナーだった!!

 っていうか⋯⋯オレっちたち、別に娼婦にならなくてもよかった?館のスタッフ──別館に住み込んでいる食堂や清掃の人たちでもよかったのでは!?(今さら)


 「元はと言えば、カガリス様とヴァチュラー様が、娼婦になって情報を収集しようと言い出したから⋯⋯」

 出だしから間違とったやんけ!!⋯って、ホントは、オレっちが娼館に客として入りたかったのがキッカケだったけども!


 それにしても──エイベルに言われるまで気づかなかったオレっちたちって⋯⋯どんだけポンコツなの!?


 《誰がポンコツだっ!!》

 《いや、カガリン⋯⋯私達、ちょっと方法を間違えたかも。とにかく、オーナーから客情報を訊き出そう》





 ◇◇◇◇◇ 


 「⋯⋯位階の高い元老?⋯⋯いえ、今のところ、そのような方の予約はありませんが⋯⋯そうした方を親に持つ方が一人⋯⋯います。今夜のお客様で⋯⋯その方も⋯⋯一応⋯元老のお一人です⋯⋯」


 オーナー室で優雅にお茶を飲んでいたオーナーに、突撃をかましたオレっちたち。

 ビックリして目を見開いていたオーナーに、カガリス様がすぐさま暗示を掛けた。

 毎度のことながら、時と場所を選ばず好き勝手やってるよな、このモフ神たち。


 《ほう。ガキの方か。ところで、一応ってのは何でだ?》

 「ご本人は⋯⋯別の職業に就きたかったようなのですが⋯⋯親の意向で元老に⋯⋯そのせいか、あまり元老としてのお仕事は⋯⋯あ。顧客の情報は⋯⋯これ以上⋯言ったら⋯⋯駄目で──」


 《抵抗してるね。思ってたよりも意思が強い。早く会話を終了させよう》


 このオーナー。一週間以上ここにいて聞いた噂では、賢者様の元夫のクセに経費削減に必死し過ぎて清掃スタッフを一人辞めさせたとか、備品の質を密かに落としているとか──娼婦のオネーサンたちにボロクソ言われてたけど、経営者としてはプロなのかも?


 《よし、そいつを俺たちの客にしろ!》

 「ハイ⋯⋯い、いいえ、それは無理です⋯⋯だってあの方は──」


 




 ◇◇◇◇◇ 


 「ちょっと!どういうことよ!?カチェ様は、アタシの顧客なのに、急に変更だなんて!!」


 出た。うるせーマリス──もとい、ラドゥータさんが。


 情報を得られそうな元老の息子は、癒しを求めて来店するケモラーだった。しかも今夜の予定では、このラドゥータさんが接待することになっていたのだ。


 「しかも、新入りの小獣人!?そっちも聞いてないわよ!!」


 カリ子とヴァチュ美という名前だけは変えずに、オレっちとエイベルは、人の姿を捨て、元の小獣人の姿に──成人の女の子バージョンだけど──になっていた。オーナー及び娼婦たちの記憶を全てをリセットし、設定変更したのだ。


 しかし、小獣人の姿だとラドゥータさんのライバル視が⋯⋯しかも客の横取りなので、怒りは凄まじい。めっさ、桃色と栗色の縦縞毛が逆立っとる。


 《うるせーな。記憶を変えとくか⋯⋯》

 確かに、廊下のど真ん中でギャーギャー騒がれるのもなぁ。





 「⋯⋯フーン⋯⋯臨時の小獣人なの。期間限定の仕事ねぇ」


 ラドゥータさんの脳内では、少なくなった小獣人の穴埋めで少しの間だけ入る臨時娼婦だということになった。

 ついでにオーナーが、忙しいラドゥータさんを心配して手配した⋯ということにしておいた。この修正は、オレっちがカガリス様に頼んだものだ。だってそうしないと、多分、いや絶対、この人納得しないし!


 「ハイっ、先輩!!少しの間、お客様をお借りしますねー!」

 「⋯⋯まあ、しっかりやりなさいよ。⋯って、アンタ、何、そのグシャグシャな毛!!梳かしてあげるから、アタシの部屋へ来なさいよ!!」


 右腕を引っ張られ、ズルズルと彼女の個室へと連れて行かれた。

 着いた先は、三階の角部屋だった。

 この娼館は最上階の四階が丸ごとオーナーのプライベートルームなので、その下の三階が売れっ子たちの個室階になっていた。ちなみにオレっちたちの部屋は、一階だった。

 あの部屋もそこそこ広いと思っていたが、ラドゥータさんの部屋を見ると、半分もなかった。やっぱり新人用の狭い部屋だったみたいだ。


 「そっちのコも後で梳かしてあげるから、そこのソファーにでも座ってて!」

 「ハイ〜。ありがとう〜ございます〜先輩〜!」


 エイベルまでブラッシングしてくれるんだ⋯⋯ラドゥータさんって、思ってたよりも親切なんだな。それにしても──


 ライトグリーンの植物模様の壁紙や天蓋付きの青いベッド、同色のソファー。ベッドの天蓋カーテンは派手なレースだけど、色は白だし思ったよりも趣味は悪くない。なのに、今日着ている服は、ゴテゴテのレースフリルだらけ。なんでだ?


 「アンタたちも、こんなとこに来るぐらいだからなんか事情があるんだろうけど、短い期間でもここなら稼げるからね。だから早々に追い出されないように、最低限の手入れはしなさいよ!確かに、アタシらは加護人と添い寝するだけだけど、とにかく、アチコチ触られまくるから!地味にストレスだから!!」

 「⋯⋯ハイ。ご忠告、ありがとうございます⋯⋯」

 なんだろ、この言い方。ラドゥータさんって、好きでやってるワケじゃなかったの?


 ステータス⋯⋯覗いてみようかな?ちょっと興味も出てきたし。


 ステータス・オープン!──出た!!


 おや?本名は、ドルナ・マリスってか。えっ!第7レベルクラスで休学して、そのまま!?

 へー、今、43歳なんだ⋯⋯28歳の時に中退してるから、かれこれ15年は働いてるのか。でもなんで第5レベルクラスで休学せずに第7で⋯⋯あ~⋯⋯在学中に、商売人だった父親が借金奴隷に堕ちたのか!で、父親を助けるために休学して働いてたけど、ビスケス・モビルケではなかなかお金が貯まらず、より稼げる国外に出たと!


 ラドゥータ⋯いや、ドルナさんって結構、苦労してるんだなぁ。

 つーか、アメジオスに来て十年も経ってるらしいから、借金もとっくに完済して──無い!?ってか、ドルナさんも自分で作った借金まみれなの!?なんでだ!?


 はあ!?馴染みの男娼に貢いでる!?高級男娼!?しかも、アメジオス生まれの大獣人(虎)!?


 《なる程な。ここの連中が街で自由に出歩けるのは、こうしたパターンもあるからか。これじゃあ、いつまで経っても娼婦を辞められないよな。なんというか⋯⋯上の連中の思惑通りになっちまって──愚かだな》


 おっしゃる通りで!前世のホステスがホストにハマって、稼いだ金をゼロどころかマイナスにするって、アレだよ、アレ!!(逆パターンも有り)


 

 「あの〜、私、借金奴隷になった親の借金を返したくってここに来たんです⋯⋯三千万ベルビーってどのくらいで返せますか⋯?」


 嘘八百。とにかく、正気に戻そうとドルナさんと同じ境遇にしてみた。

 すると、何か思うところがあったのか、ブラッシングするドルナさんの手が、ピタッと止まった。


 「そ、そう⋯⋯そうね!真面目に働けば五年⋯⋯いえ、指名が多かったら二年でも返せる額かな⋯⋯?」

 「そうなんですね!うちのお父さん、商売で失敗して──借金を返済できたら、また一緒に住めるんです!!母には反対されたけど⋯⋯やっぱり長期で働いてみようかな⋯⋯ここって、カジノとか()()とかの誘惑も多いって聞くけど⋯⋯真面目に働けばいいだけの話ですもんね!!」


 どうよ!?心に響きましたか、ドルナさん!?


 「そ、そうねぇ!で、でも、ステキな出会いもあるのよ!?そしたら、結婚して借金も二人で返せばいいんだし⋯⋯」


 ──アカン!!例の男娼に『お金が貯まったら結婚しよう!』とか言われてるんだ!

 前世でもそうだったけど、そもそも同じ性的な接待業してるんだから、本音はわかるでしょ!?


 建前『本当は君だけを愛しているんだ!他の連中は、客だから仕方なく相手をしているだけさ!』

 本音『んな訳ねーだろ。貢がせるだけ貢がせて、後はポイっよ、ポイ!』

 だよっっ!!


 《諦めろ、タロス。どんなに愚かな事でも、自分の意志でやってる事だ。他人がどうのこうの言っても、今の状態じゃ感情的に理解しようとしない》

 『⋯⋯はい。自分で自分の愚かさに気づくまでは、仕方ないと』

 《そういう事だな》


 なんかモヤモヤするけど、カガリス様の言ってる事は正論だ。本人が満ち足りて幸せだと思ってるんだから、放っておくしかない。

 それより今は、カチェとかいう客から情報を引き出すことが重要だ。よし、 気合を入れるぞ!!






 ◇◇◇◇◇


 「も、モフが二人!?マジで!?」

 「はいー。ワタシはカリ子、こっちはヴァチュ美と言います!オーナーから半人前なので二人セットでお相手するように言われましたー!ところで──そのお姿は、一体⋯⋯?」

 

 ドルナさんと交代したことは知らされていたが、まさか小獣人が二人とは思っていなかったのだろう。カチェ様とやらは、興奮しながら驚いていた。


 だが、オレっちとエイベルも驚いて──いや、困惑していた。

 なぜなら、目の前の彼は、前世で見たことのある西洋の甲冑姿だったからだ。しかも、頭から足の先までの全身装備。


 「あ。キミたち、僕タイプの加護人を見たの初めてなんだ?僕の体はね、半分金属なんだ!だから、表皮をこうした金属にすることも出来るのさ!」


 キュ!?まさかの金属複合人間!?なんかSF的な加護人だな!


 「加護人って言っても人型で一括りにしてるだけだから、とにかく加護性が様々でね──と、それはともかく、さっそくモフらさせて貰うね!」


 パッと一瞬で全身の甲冑が消え、その代わりに現れたのは──パンツ一丁の優男だった。髪色と同じく水色のおパンツ⋯⋯


 ⋯⋯。SFから変態へ──って、確かにここ、そーいう店だけどさぁ⋯⋯スーツとは言わんけど、せめて、ズボンぐらい履けや──!!

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