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第百四十九話 カリ子とヴァチュ美の七日間

 「あら⋯⋯新入り?」

 「ええ、ヴィラローズ──今日入ったばかりの()たちなのよ」


 ザ・美女!ってな感じの派手な金髪美女が、通路にデンと立っていた。

 ラビナナさんと同じく、出るところは全て出ていて、引っ込んでるところは引っ込んでる、ナイスバディの持ち主!


 とはいえ、ちょっと気が強そうだから、全然、好みじゃないが、いい意味でも悪い意味でもとにかく印象に残るタイプのおねーさんだ。外見が人間にしか見えないから、幻妖タイプの加護人かな?


 「ふーん。なんというか⋯⋯白と黒の対照的な美しさね。顔立ちはまったく似てないから、姉妹って事はないでしょうけど」

 明るい紫色の瞳で、ジーッとオレっちとヴァチュラー様を見つめた。マウント取り?


 「ま、そこそこ売れるんじゃない?色気は皆無だけど、それはこれから出てくるだろうし」

 「ええー。しばらくは私が教育係になって教える事になるから、貴女も何かアドバイスがあれば、教えてあげてねー」

 「気が向いたらね」


 ヴィラローズさんは、もう一度オレっちたちを見た後、背中を向けて去って行った。アッサリ退場したな。定番の嫌味の一つでも言われるかと思ったのに。


 『ちょっと顔がいいだけじゃ、ここじゃやっていけないのよ!!』⋯とか。


 でも考えてみたら、ここって高級娼館だしな。場末の娼館みたいな悲愴感も無いし、多分、客の取り合いも無いんだろう。

 そう考えると、敵意剥き出しの切羽詰まった娼婦なんていないのかもしれないな、うん。

 

 




 ◇◇◇◇◇ 


 広くて清潔感のある、まっ白な壁の部屋。家具は、ベッドが二つと簡素な机が一つ。それと、ちょっとオサレなデザインの青いタンスのみ。


 「⋯⋯へー。どんなタコ部屋かと思えば、ホテルみたいないい部屋ですねー、ヴァチュラー様!」

 「そうだね〜。二人部屋だし〜ちょうどよかったね〜タロス〜」


 あれ?エイベル!?いつ、ヴァチュラー様と入れ代わったの?ま、その方が話しやすいけど。敬語は疲れるしな。


 「ああ。さすがは高級娼館って言ったところか!」

 「気の毒な〜人たちなのに〜気の毒じゃない〜?」

 「あ⋯いや!環境は良くても、仕事の内容が気の毒なんだよ!」


 うーん⋯⋯これから娼婦教育を受けるし、エイベルもさすがに理解するだろうけど、今は、この二人部屋を与えられて大きなベッドに座ってるだけだから、まったくわからんしな。

 ラビナナさんは、教材を取ってくると言って、一旦、部屋を出て行った。⋯⋯娼婦の教材って、なんだろ?


 それからしばらくして、ガチャと突然、ノックも無しに部屋の扉が開いた。


 「!?」


 ズカズカと部屋に入ってきたのは──小獣人の女性だった。

 スゲー見覚えのあるフォルム⋯⋯毎日、鏡でコンニチワ⋯のリス体型──えっ!?なんで、ここにマリスがいんの!?


 「ふ~ん⋯⋯なんだ。新入りって、加護人か。安心したわ!」

 淡い桃色と栗色の縦縞模様が特徴のマリスが、偉そうに腕組みをしながら言った。


 「あの⋯⋯アナタは、どこのどちら様で?」

 「新入りのクセに生意気ね!まず、アンタ達から名乗りなさいよ!」

 ピンク色の瞳が、オレっちを睨みつける。面倒せーな。


 「⋯⋯カリ子です。こっちは」

 「ヴァ、ヴァチュ美です〜。よろしくお願いします〜!」

 「⋯⋯あら。見かけと違って、素直な子たちね。アタシはラドゥータ。廊下で会ったら、頭下げなさいよ!アタシは、この館のトップなんだから!!」

 「!?」

 このキーキー言ってるマリスが、この高級娼館の筆頭娼婦!?マジで!?


 《あり得ん!!シィーマ・リース如きの眷属が、No.1だと!?》

 めっさ軽かったカガリス様の圧が、急激に重くなった。


 「ラドュータ!貴女、なんでここにー!?」


 開いたままの扉からラビナナさんが入ってきた。雑誌っぽい本を何冊か抱えているから、アレが教材なのかもしれない。


 「なんでって──新人が入ったって聞いたからよ。今までは事前の連絡があったのに、今日は突然じゃない?だから、特別なコたちなのかもって思ったのよ!」


 そらまあ、そうだよな。突然押しかけてきた挙げ句、オーナーの記憶を改ざんして入り込んだんだから。


 「だからって⋯⋯それに貴女、今からお仕事でしょー?」

 「ええ!もう、体毛ケアはバッチリよ!特に、今夜のお客様はこの尻尾がお好きだから、念入りに──」

 「それはいいからー、早く部屋に戻ってっ!」

 「わかったわよ!私は、このコたちが小獣人かどうか確認しにきただけだから、もういいし!!」


 マリス──ラドュータさんは、そう言いながら去って行った。最後までうるさい。あと、服のセンスが悪い。フリル多すぎ。


 「ゴメンねー。あの子、見かけだけは可愛いんだけど、気が強くってー⋯⋯」

 「あの⋯⋯あの人が、ホントにここのNo.1の売れっ子なんですか!?」


 あり得ん!と、再びカガリス様が、オレっちの中で叫んだ。


 「えーと⋯⋯癒し系のトップ⋯ではあるの。暫定だけどー」

 「癒し系のトップ?暫定⋯?」

 なんのこっちゃ??


 「小獣人の娼館での仕事内容ってー、大半は、添い寝だけなのー。もちろん、本来の仕事の時もあるんだけどー、どちらかというとフワフワの体毛による癒しを求めるお客様の方が多くてー」


 なんと!添い寝だけって、めっさ楽やん!!


 「お客様もいろいろなのよー。⋯で、少し前までは猫獣人のコが癒し系トップで、二番目は犬獣人のコだったんだけど、二人とも⋯⋯いえ、小獣人の何人かは、休職中なのよねー」

 キュ?なんで!?


 「お仕事としては、ものすごーく楽で、しかもたくさんお金を稼げるんだけどー、小獣人は、ウルドラシルやセフィドラの木が無い環境だと落ち着かないみたいで、長期滞在は無理なの。だから、短期契約の上に、交代で里帰りしてたんだけど──去年から、ホラ。人間の国が戦争してたでしょ?だから、決着がついた今の時期に、ほとんどのコたちが里帰りしちゃったのよー」


 ネーヴァの起こした戦争の影響が、こんな所にも⋯⋯ちょっとビックリ。


 《なんだ。わざわざ人間に化ける必要も無かったってことか!》

 《もっと詳しく調べてから来れば良かったね⋯⋯》


 ホントですな。いや、そもそも、娼婦になる必要自体が無かったんですけどね。





 ◇◇◇◇◇


 オレっちは、今、娼婦で潜入したことを深く後悔している⋯⋯どうしてかって?

 潜入してから六日──未だにラビナナさんによる、高級娼婦になるための教育を受けてるからだよ⋯⋯



 「今、一番有名な作曲家と言えば、ティンプー・スガキーねー。歌手ならピール・ビールかしらー?舞台女優なら、新人のマウリー・ウーツ。男優だと──」

 「⋯⋯」

 思ってたんと違う。


 娼婦ならきっと、数十もある体位とか性的テクニックの話だろうな──と思ってドキドキしたが、蓋を開けてみれば、アメジオスの昨今の有名人だとか流行だとか──そんな話ばかりだった。


 「いいー?この館においでになるお客様は、性的な快楽を求めるだけではなく、会話を楽しまれる方も多いのー。とにかく、お客様がどんな話題を出してきても、少しは対応できるようにしておかないといけないのよー」

 「はあ⋯そうなんですね。でも、トークは得意だから、なんとかなるかな?」

 「そう?じゃあ去年、大活躍したダンサーの名前はー?」

 「⋯⋯⋯」


 撃沈。そもそも、アメジオスのエンタメはリブライト先生に教えてもらったことだけで、リアルタイムの話題だと、無理。

 

 「ぼ⋯いえ、わたしは〜トークは〜苦手かも〜⋯⋯」

 「あー⋯⋯ヴァチュ美の間延び口調も、ちょっと問題ねー⋯⋯それより、二人とも、今まで小獣国に住んでいただけあって、アメジオスの事はまったく駄目ね。これは、思ったよりも時間が掛かりそうだわ⋯⋯」


 改めて自己紹介した時、オレっちとエイベルは、ビスケス・モビルケで育った加護人ということにした。

 そのお陰で、アメジオスに関しての無知は大目に見てもらったが⋯⋯っていうより、そもそも何のためにこんなことしてるんだっけ⋯⋯?


 《完全に、明後日(あさって)の方向だな⋯⋯》

 《もう、強制終了させない?今後の活動費は、十分稼げたし》


 オレっちとエイベルの中で会話する神コンビは、この六日間、密かにカジノ荒らしをやっていた。前回の教訓を活かし、カジノごとに姿を変えて、しかも、目立たないように勝ったり負けたり⋯⋯最後は大勝ちして逃げたけど。


 ちなみに、ラビナナさんの授業によると、この街の娼婦、及び男娼たちは、このカジノ街の中なら自由に出歩けるそうだ。当然、街の外へは契約魔法によって、一歩たりとも出られないが。


 それにしても、借金奴隷だっているんだから、ちょっとユルくない?⋯とか思ったら、娼婦も男娼もカジノで遊んでお金を落とすし、互いの娼館で客として入ってくることもあるので、その方が街的には潤うんですと。


 そして、六日目にして、ようやく娼婦教育は終了した。(ヴァチュラー様による暗示で)

 ラビナナさんには悪いけど、正直、興味のないことなんて、右から左だもん。






 ◇◇◇◇◇  


 さて!娼館(ここ)に入り七日目にして、いよいよ、娼婦デビューなんだけど⋯⋯なんだけどさぁ⋯⋯

 

 「カガリス様⋯⋯今さらですけど、元老かその関係者が客でなければ、意味がないのでは?」

 《だな。コイツはその関係筋の商売人だが、ステータスだとまったく上の方の情報を持ってねぇ。ハズレだ。チッ!》


 今、オレっちと共に客用のベッドの上にいるのは、顔立ちは悪くないが、太ってて歳食ってるネズミ耳の加護人だった。

 カガリス様がステータスを視た後は用無しだったので、速攻、眠ってもらっている。


 う〜ん⋯⋯ハッキリ言って、娼婦教育なんて意味なかったな。

 それより、エイベルの方は大丈夫かな?エイベルがじゃなくて、客の方だけど。ヴァチュラー様、カガリス様より過激なとこあるからなぁ⋯⋯





 ☆ 補足 ☆


 去年、今年とアメジオスで一番話題になったダンサーの名は、『レキュー・シャムネ』です。

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