第百四十八話 異世界ショーカン
カガリス様たちは、なぜかアメジオスの首都には行こうとせずにカジノ周辺のホテルへと宿泊し、他のカジノを調べ始めた。
「まあ、要するに、カジノで遊びまくってるってことだが⋯⋯」
「きっと〜何か理由があるんだよ〜」
長期間の憑依はよろしくないということで、朝からカガリス様とヴァチュラー様は、神々の世界にある本体へと戻っている。そうなると姿を変えることのできないオレっちたちは、ホテルの一室でゴロゴロするしかなくて──
「何か食べるか、エイベル?」
「まだ〜お腹空いてないから〜大丈夫〜」
神々の簡易空間には、出発前に詰め込んだかなりの量の食べ物と飲料が保存されているからそこは心配ないけど、こう暇じゃあな〜。
「⋯⋯外に出てみるか?」
「ダメだよ〜。この街じゃ〜子供だけの観光は〜目立っちゃうから〜」
「⋯⋯だよな」
場所が場所だけに、おいそれと外に出ることもできない。あ~、暇だ〜。
「簡易空間に〜本とかも〜入れておけばよかったね〜」
エイベルの言う通り、暇つぶし用の本とか魔法遊具とか持ってくればよかったな。前回もそうだけど、あらゆる場面を想定して荷造りするべきだった。失敗。
仕方ないので、二度寝でもするか。カガリス様たち、どーせ昼過ぎまで戻ってこないだろうし、もしかしたら夜になるかもしれない。
夜、夜の街か──ここってカジノ以外だと、ホテルとかバーとか、娼館ぐらいしか無いからなぁ⋯⋯今のオレっちには無縁な世界──ん、娼館?
そーいえば、政府の上層部も、カジノだけじゃなくて、娼館にも出入りしてるよな。ふむ⋯⋯あそこって、情報収集にはうってつけじゃねぇ?
それに、ちょっと興味があるんだよね〜。お色気ムンムンの秘密の館!でもって、国のお偉いさんなら、絶対、高級娼館だろうし──あ~!見てみたいっ!!
《あ~?高級娼館だぁ!?》
『情報収集にはもってこいだと思うんですっ!』
夕方になって戻ってきたカガリス様たちに、オレっちは提案してみた。
《いいんじゃない?あっちから来てくれるのは、正直、助かるよ。もう、この国の中枢はアイツ側かもしれないしね。もちろん翼持ちたちは想定内だったけれど、他の加護人も協力している可能性が高くなっているし》
《フン。まあ、そうかもな。実際、そこに出入りしている奴らがどれだけの情報を持っているかはわからんが⋯⋯》
『タロス〜、高級娼館って何〜?』
あ!しまった!!こーいうのは、エイベルにはまだ早かった!!
『え~と⋯⋯地位の高い人が、キレーな人に接待されるための豪華な屋敷⋯⋯かな?』
《違うだろ。金持ってる奴が、性的な快楽を──》
《カガリン、ストップ。いいかい、エイベル。世の中にはお金に困っている人がいる。だから働く訳だけど、なかには借金のために大金を稼ぐ必要な人達もいてね⋯⋯カジノだと確実じゃないだろう?だから、どんなに嫌な仕事でもしなければならない人達がいるんだ。これから行く場所も、色んな意味で大変な人達が働く場所なんだ》
『そうなんですか〜⋯⋯気の毒な〜人達がいる所なんですね〜』
⋯⋯。⋯⋯え~と⋯⋯娼婦の方々も色々だと思いますけど?まぁ、いいか。気の毒な人達で。
◇◇◇◇◇
『あのー。どうして女体化を⋯?』
《だから、高級娼婦になって接待するふりをして、情報を引き出すんだろ?》
《カガリン。どうかな、これで?》
《いいんじゃねぇか?品がありそうな感じで》
《カガリンは、ゴージャスだよね!》
カガリス様は、銀髪で黄水晶の瞳を持つ美女。(色彩が派手)
ヴァチュラー様は、黒髪、翠玉の瞳の、しっとり系美女。(神秘的)
⋯⋯確かに超ド級の美女たちだが⋯⋯予定とはだいぶ展開が違うんですケド?
普通は、客として潜入し、娼婦から顧客情報を聞きだす⋯の流れだよね?そして、ターゲットが来たら、ステータス、ドン!⋯という感じで。
だけど、二柱ともヤケにやる気満々だしな。⋯⋯もういいか、娼婦で。
『ヴァチュラー様たちも〜気の毒な人になるんだ〜?』
コッチもズレまくった認識のままだしなぁ。あれこれツッコミたいけど、今は諦めよう。
◇◇◇◇◇
相変わらずの強引なやり方で、このカジノ街で一番だと聞いた娼館へと入り込んだ。外の警備の加護人もそうだけど、屋敷の中にいる使用人たちも面白いように操っていく。
「ハァ!?ここで働く!?」
この高級娼館のオーナーだと思われる黒猫の耳と尾を持つ半獣人の初老の男性が、驚きの声を上げた。
そりゃそうだろ。仲介人なしで、いきなり雇え!⋯だもんね。門番たちも何してんの!?って、話。
《いいから、雇え!》
「オイオイ⋯⋯そりゃ、キミたちはとんでもない美女だけど、この館はね、ただ綺麗なだけじゃ駄目なんだよ!出自もそうだし、教養⋯⋯何より品がないと!!」
オーナーは、常識も知らんのか!⋯と言わんばかりの口調でまくし立てた。
《ありまくりだろ?》
いや、客観的に見て、無いと思います。なんせ、オーナー室のソファに脚を組んでふんぞり返ってるくらいですから。
《カガリン。もう面倒だから、洗脳しちゃおう》
《そうだな。コイツ、頭が固いしな》
いや、常識的な怒り方だと思いますが?
◇◇◇◇◇
《潜入成功。後は、カモ待ちだ!》
娼館のオーナーに暗示をかけた後、カガリス様は当然のようにオーナーの政務机の席へとデンと座り、オーナーをその隣へと立たせていた。
オーナーは、視点が定まらない目でボ〜ッと突っ立っている。
《そうだね。とりあえず、この館の者たちに話を聞いてみよう》
この二柱って、基本的に力技しかないんやね。神様って、皆こうなの?
「え。政府の方々?そりゃ、時々はいらっしゃるわよ。ここのオーナーは賢者様の元旦那様だった方ったから、顔が広いしー」
操られたオーナーに言われてカガリス様たちを教育する羽目になった、白いウサギ耳と尾の半獣人おねえさんが、紅い目をパチクリさせて、こっちを見た。
そりゃおねえさんからすれば、来たばかりの新入りがいきなり《国の上層部の連中は、よくここに来るのか?》《いつ、来るんだい?》なんて言い出すんだから、ビックリするだろう。
アカン!このモフ神ども、使えん!!
『オレが代わりに訊くんで、交代して下さい!!』
カガリス様は何かブツクサ言ってたが『オレ、こーいうの得意なんで!』って言ったら、アッサリ交代してくれた。ヴァチュラー様は、中のエイベルの方がよく解ってないから無理だったが。
「そうなんですね!賢者様の元旦那様〜⋯⋯ですか!スゴいですよね!!」
そーいやアメジオスの半神血族の賢者様は、女性の方が三人と、男性が一人だっけ。
「そうよー。だからオーナーも、もうかなりのお歳だけど、未だに顔だけはいいでしょ?」
「え~と⋯⋯ハイ!スゴい美形でしたっ!」
⋯⋯だったかな?正直、男の顔なんざ興味ないから、秒で忘れたわ。
「もともと良い家柄の方だったけど、その家が経済的に破綻寸前だったらしくて、苦労したらしいわー。だから、賢者家に嫁いだ後、人脈を作りまくってここまで成り上がったのよー。ちょっとお金には汚くなっちゃったみたいだけど」
「そうなんですか⋯⋯」
要するに、ケチってことか。
「あ、でも、もちろん結構稼げるから、そこは心配しなくても大丈夫よー!最初は大変だけど、すぐに慣れると思うし」
「ハイっ!よろしくお願いします、先輩!!」
「まあ、キレイな上に謙虚なのねー!きっと売れっ子になるわよ!」
なりたくないけどな!!
「あ、そうだ!ここ専用の名前は付けてもらったー?オーナーったら、言ってくれなかったわねー。ボケたのかしら?私は、『ラビナナ』って言う仮名なの。よろしくねぇ!」
フワフワのピンク髪をした可憐な──とはいえ、出るところは出て、色香もあるラビナナさんの笑顔にドキドキしちゃう、オレっち。
「は、ハイ!えーと⋯⋯オ、じゃなくワタシは──」
娼婦的な源氏名─⋯⋯って、テキトーでいいか、もう。
「『カリ子』って言いますー!コッチの子は、『ヴァチュ美』でーす!」
《単純過ぎ⋯⋯》
自分でもそう思う。ネーミングセンス、ゼロ!いや、もしかしてマイナスだったりする?




